将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2016年8月31日 (水)

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

私は今年の3月下旬に竜王戦の対局で関西を訪れたとき、対局の後に古都を観光しました。季節外れになりますが、今回は前回の奈良に続いて、京都での話をテーマにします。

京都駅の東北部にある「南禅寺」をまず訪れました。南禅寺は鎌倉時代の13世紀に亀山法皇が開基した臨済宗南禅寺派の大本山の寺院で、日本のすべての禅寺の中で最も格式が高いとされています。寺院の入口にそびえる重要文化財の「三門」は、歌舞伎のある演目で石川五右衛門が「絶景かな絶景かな…」という名セリフを語った場面になりました。

写真・上は、南禅寺の本堂の手前にある別院の「南禅院」の一部屋。亀山法皇が離宮を寄進して禅寺を建立したもので、南禅寺の発祥の地です。80年前には将棋史に残る大きな勝負が行われたことでも知られています。

昭和12年(1937年)2月5日。木村義雄八段(十四世名人)と伝説の棋士といわれた阪田三吉(贈名人・王将)の対局が始まりました。対局日数は7日、持ち時間は各30時間、封じ手は交互、という取り決めで行われました。両対局者は南禅院に泊まり込み、外出は禁じられました。関係者以外の出入りも一切禁止でした。対局室は奥の書院の8畳間が当てられました。写真の部屋は関係者の控室になったようです。

昔は「終生名人」の制度がずっと続きました。昭和10年に関根金次郎十三世名人が勇退すると、実力で名人位を争う「実力名人」の棋戦が創設されました。土居市太郎八段、花田長太郎八段、金子金五郎八段など、時のトップ棋士だった10人の八段によるリーグ戦(正式名称は名人位決定大棋戦)は2年半かけて行われ、昭和12年2月の時点では木村八段が最有力の名人候補でした。そんな状況において、木村と阪田三吉の対局の企画が持ち上がったのです。

阪田三吉は関根の好敵手でしたが、大正10年に阪田をはじめ大半の棋士から推挙を受けて関根が十三世名人を襲位しました。その4年後に阪田が地元の関西棋界の後援者に後押しされた形で「関西名人」を名乗ると、中央棋界から名人を詐称したとして長いこと絶縁されました。その阪田の才能を惜しむ関係者たちが水面下で動き、阪田は16年ぶりに将棋界の表舞台に登場することになったのです。

木村八段は「阪田と対局するには、この機会を逸したらない」と考えて受諾しました。将棋大成会(日本将棋連盟の前身)は、名人候補の木村が会員ではない阪田にもし敗れたら、将棋界の大本として創設された名人戦の権威に響くと危惧し、木村に辞退を促しました。しかし木村が「大成会の会員として参加できないなら、個人の資格で対局する。場合によっては脱会もいとわない」と強い意思を示すと、大成会はやむなく承諾しました。そうした経緯で行われた木村―阪田の大勝負については、改めてブログのテーマとします。

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

南禅院の庭園。天竜寺や苔寺の庭園とともに、京都の三名勝史跡庭園に指定されています。池の周囲は深い樹林で包まれ、幽遠な雰囲気が漂っています。私は以前にも対局で関西を訪れたとき、対局前にこの庭園に寄ることがありました。往時の大勝負を偲びながら、清澄なたたずまいの中で戦意を高めたものです。

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

南禅院の裏側にある琵琶湖疎水の水路閣。明治時代に琵琶湖の湖水を京都市へ流すために建設されました。今ではドラマのロケ地としても有名です。

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

南禅寺の後は、京都駅の西北部にある「大覚寺」を訪れました。平安時代の9世紀に嵯峨天皇が建立しました。写真は、本堂から眺めた「大沢池」

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

大覚寺からほど近い「嵯峨野」の竹林。源氏物語や平家物語の舞台になりました。

3月に京都の南禅寺、大覚寺、嵯峨野などを観光

嵯峨野の一角にある「大河内山荘庭園」の展望台から眺めた京都市内。角度を変えると保津川の清流も見えます。戦前の時代劇の名優だった大河内伝次郎が30年の歳月をかけて、この優美な庭園を造り上げました。その本人は訪れると持仏堂にこもって念仏をひたすら唱え、関東大震災の被災者たちの冥福を祈ったそうです。

京都の寺院などを観光した後、祇園に行きました。花見小路通りの路地にある「やま福」という店で京料理を賞味し、季節の炊き込みご飯(春は竹の子ご飯、秋は松茸ご飯など)でしめました。そして近くにあるバー「サンボア」でカクテルを飲み、生前は常連客だった作家の山口瞳さんの思い出を店の人と語り合いました。艶やかな着物姿の芸妓さんもいて京都らしい雰囲気でした。私は京都を訪れたとき、将棋を愛好した山口さんに紹介された京都に住む陶芸家の方に案内されたのがきっかけとなり、どちらの店にも寄ることにしています。

 

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