将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2016年7月 1日 (金)

囲碁界で井山七冠の誕生、さらに進化した将棋ソフト、羽生三冠が叡王戦に初出場

今年の4月20日、囲碁棋士の井山裕太名人(当時26歳)が十段戦で伊田篤史十段を破って十段を獲得しました。その結果、囲碁界で初めて七冠(名人、棋聖、本因坊、王座、天元、碁聖、十段)を制覇する偉業を達成しました。

井山七冠は2013年に六冠を獲得した後、四冠に後退して足踏みしました。しかし昨年から今年にかけて、公式戦で24連勝、タイトル戦で通算18連勝して絶好調になりました。苦戦に陥っても逆転を果たす神がかった強さが際立っていたそうです。そして3年越しで七冠を制覇しました。

将棋界では20年前の1996年2月、羽生善治六冠(当時25歳)が王将を獲得して七冠制覇を達成しました。その前人未踏の偉業は、テレビのニュースや街の電光掲示板の速報で全国にたちまち流されました。翌朝の新聞は全紙が1面で報道し、スポーツ紙の見出しには羽生の2文字が大きく載りました。羽生はNHKと民放各局の情報番組に出演して喜びを語りました。将棋の棋士がメディアにあれほど注目されたのは羽生が初めてでした。

井山七冠の誕生の話題も新聞やテレビで大きく報道されました。ただ20年前の羽生七冠と比べると、注目度は少し低かったような気がしました。井山七冠が「まだまだ未熟さを感じることが多いので、少しでもレベルアップしたい」と語ったことが、それを物語っています。日本の囲碁界は、世界戦の実績で中国や韓国に大きく後れを取っているからです。つまり井山七冠は「日本一」に上り詰めましたが、「世界一」に至っていません。それが羽生七冠と決定的に違うことです。その一方で、国際的な普及が進んでいる囲碁界と比べて、将棋界はまだ途上ということを痛感します。

なお羽生七冠は時の橋本龍太郎首相から「内閣総理大臣顕彰」を受賞し、井山七冠も安倍晋三首相から同じく「内閣総理大臣顕彰」を受賞しました。

昨年に創設された第1期叡王戦で優勝した山崎隆之八段は、第3回電王トーナメントで優勝したコンピュータ将棋ソフト『PONANZA』(ポナンザ)と、今年の第1期電王戦2番勝負で対戦しました。棋士と将棋ソフトの頂上決戦は、タイトル戦並みの2日制(持ち時間は各8時間)という設定で4月と5月に行われました。

第1局は、先手番のポナンザが序盤で強襲策を採ると、山崎は強気に応じて攻め合いになりました。そして激しく攻め続けたポナンザが寄せ切って勝ちました。第2局は、後手番のポナンザが積極的に仕掛けると、山崎は右玉の形にして攻めをかわしました。そして巧みに攻め続けたポナンザが最後は鮮やかな即詰み手順で勝ちました。

山崎八段は定跡形や流行形にとらわれない力戦派の雄です。自分のペースに持ち込めば十分に戦えると思いました。しかし第1局と第2局はともにポナンザの圧勝に終わりました。山崎八段は将棋ソフトの底知れない強さを意識しすぎた印象がありました。一方の将棋ソフトは感情のぶれがないのが強みといわれますが、今ではそれを超えた本物の強さがあると思います。

グーグル・デイープマインド社が開発した人工知能(AI)『アルファ碁』は今年の3月、世界最強クラスの囲碁棋士のイ・セドル九段(韓国)との5番勝負に勝ち越して世界的な衝撃を及ぼしました。そのAIは、棋士の棋譜を入力して得た膨大な情報を的確に処理して最善手を考え出すだけでなく、自分同士で繰り返し対局(1局の所要時間は1秒で、合計1千万局以上)して知識を深めたり良い手を学ぶ「強化学習」という方法で実力を伸ばしたそうです。

将棋ソフトもさらに進化しています。棋士が考えつかない手法を指し、棋士が公式戦で試してみるという逆転現象も起きています。それにしても電王戦でのポナンザの将棋は個性的で攻めっ気が強かったです。近年の棋士たちは、研究会の延長のような同じ戦型ばかり指している傾向があります。それに比べると、とてもエキサイティングで魅力的でした。棋士同士よりも将棋ソフト同士の将棋のほうが強くて面白いと思われて、棋士の存在価値が問われる時代がいつの日にか来るのではないかと心配しています。

第1期叡王戦で欠場した羽生三冠は「いくつかの要素があって出ようと思った」という理由で第2期叡王戦で初出場しました。そして段位別(九段)の予選で勝って決勝トーナメント(16人)に進出しました。「将棋のプログラムにはそれぞれ個性があり、戦うことになったら理解を深める必要がある」と語った羽生がさらに勝ち進み、来年の第2期電王戦2番勝負で将棋ソフトの王者と熱戦を繰り広げることを期待したいです。

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コメント

叡王戦についに羽生登場!となりました。コンピューターは本当に強いです。確かテレビ番組で碁の対戦もろもろを羽生さんも出ていたのを見ました。今のコンピューターの現況をその能力のすごさを見て驚いたものでした。その開発者でしょうか?羽生さんと対談していました。羽生さんの英語会話の流暢さにも驚きました。おそらくあのコンピューターと対戦したら分が悪いと思われます。開発者は将棋はまだ開発されてはいないのですが、日本で強いソフト棋士らはこのノウハウを限りなく近いもので作られているようです。でも、勝たれている棋士もいますので、頭脳勝負ですね。今日現在、羽生さん調子が今一つ上がっていないようです。まだまだ頑張ってほしいです。ファィト!

投稿: 千葉霞 | 2016年7月 6日 (水) 16時47分

<囲碁界と将棋界の比較は難しい>
1.将棋は、日本独自のものであり、世界的ではない。(閉鎖社会の感があります)
2.将棋界には、外国出身の棋士は居ないように思う。
3.囲碁界には強豪(天才)に、外国出身者が多数います。古くは、故呉清源(中国)をはじめ、他に、趙治勳(韓国)、林海峰(台湾)、張翔(台湾)等外国出身者です。
女流棋士では、謝依旻もいます。しかも全てが、トップ棋士です。
4.将棋界は、世界戦をしているの??。
途上以前と思えるのです。

投稿: kasai | 2016年7月 8日 (金) 22時29分

囲碁で立証された感がある「コンピューターソフトの優位」が将棋にも通ずると思うべきでしょう!羽生さんも出ていたテレビのCPUソフトの現況を見ていました。プロ頂点の山崎叡王がソフトに軽く捻られたのは意外ではなかった。戦前の予想通りと思う方も多かったのではないだろうか。ソフトを軽く見過ぎのプロが多いとも思える。逆にソフトから学んでいる賢明なプロもいる。師匠に教わることが少ないプロ人生では感情が入らない最高な師匠かも知れない。テレビでのソフトをまだ使っていない日本ですが、それに近いもので今の将棋ソフトは作られていると思われ、とにかくプロより数段上のプロといえそう。羽生さんの挑戦はなるか?碁ソフト開発者のノウハウが将棋にまだ繁栄されていない時期の挑戦はチャンスと見たかどうかは挑戦者になってからだろう。今の羽生さんのコンデションでは難しそう。ベストでもどうだろうか?期待は大いにしていますが、勝利は四分六分で不利ではないだろうか。また、相手は機械で疲れないがこちとら人は疲れる等の条件で人との対局と同じような時間割で対戦するのもおかしい。コンピューターに合わせて早指しで行ってみるのも実力がでそうです。プロは時間をたっぷり使ってなんぼ、はどうだろうか。持ち時間3時間内で秒読みでいいのでは?とりあえず羽生さんがどうなるか期待したいです。その前に2つの防衛戦も気にはなります。名人失冠で気落ちしているのだろうか?ヘンナ将棋指してると素人は思うばかり??

投稿: 田舎棋士 | 2016年7月 9日 (土) 14時32分

進化したソフト。表現はいいですがこれはギブアップものではないでしょうか?本来とは違う用途で開発者らは囲碁で遊んでみたというのが本音でしょう。様々な分野で使われる、使われているという方が本当です。日本のソフト開発者もほぼ同じものを作っています。いつでしたか、医学部の学生さんが診断ソフトを開発したいといわれて勉強されているとコメントされていました。これも一部実用化段階です。人体の中を見るなどのソフトもかなり進んでいます。将棋、囲碁の対戦ソフトはそんな中の一つです。凡人たる私や同列の人はソフトは強い、いやまだまだ人が強いと騒いでしまいます。一つ目を転じて前述のようなことや大所高所から見ると、世の中変わっているのです。遊びのゲームソフトから教えてくれるソフトに変わっているのです。世の中を動かしているのもまだ一部でしょうがコンピューターソフト(アプリケーション)であったりしています。あれは?これは?それは?と思うとソフトだらけにも気が付きます。CTスキャナーができた時は驚きました。将棋ソフトは強いと聞いてもそろそろ驚くのはやめた方がいいかも知れません。

投稿: 東京散歩人 | 2016年7月10日 (日) 14時47分

プロ以上に強いアマ、コンピューターはいいところを突いていますね。プロはプロで最強でしょう。ただ、それほどのめり込まないでアマで気楽に指している方も多いのです。中にはプロはだしもいるのは事実でしょうね。将棋で飯を食うという意識がないのです。人それぞれです。世界一論は将棋連盟も認識を変えなくてはいけません。世界にないから日本一即世界一と言ってこられたのは確かです。発展途上ですのでプロ棋士日本一(何人もタイトル保持者がいて複数です)というのが正しい。さらに強いと思われるコンピューターソフトは血が通っていないという点で機械日本一でしょうか。理屈を並べれば以上のようになるのでしょうか。井山さんは囲碁世界では言うところの世界レベルなのは確かです。井山さんが羽生さんに劣るというのはアホな論です。世界の付け方が自分勝手な判断です。比べるゲームがまるで違うし、他の方も言っているがごとく井の中の蛙的物言いに見えます。将棋ブログまで割り込んで囲碁最高は誰もが迷惑この上ないですね。ましてやプライベートを例に挙げての反論はアホの2乗ではないかな。全く世界中が見れるこのような場でアホとは言いたくはなかったのですが、私も嫌なコメント人を見たなという思いです。日本中、世界中に拡散させるつもり?ないでしょうね。好き勝手な持論を述べる場ではないことをご認識されることを期待します。難しそうだな!

投稿: 将棋九段 | 2016年7月24日 (日) 14時29分

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