将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2016年6月 4日 (土)

名人戦で挑戦者の佐藤天彦八段が羽生善治名人を4勝1敗で破り、佐藤新名人誕生

名人戦で挑戦者の佐藤天彦八段が羽生善治名人を4勝1敗で破り、佐藤新名人誕生

5月30日・31日に行われた名人戦(羽生善治名人―佐藤天彦八段)第5局で、28歳の挑戦者の佐藤八段が勝って羽生名人を4勝1敗で破り、佐藤が歴代13人目の名人位に就きました。

新名人の誕生は、2002年の森内俊之名人(当時31歳)以来です。20代名人の誕生は、2000年の丸山忠久名人(当時29歳)以来です。A級順位戦の1期目で名人戦の挑戦者になって名人を獲得したのは、1994年の羽生名人(当時23歳)以来です。

私は4月5日・6日に東京・目白「ホテル椿山荘」で行われた名人戦第1局の1日目に、「ニコニコ生放送」の番組で解説者を務めました。その時点で羽生名人と佐藤八段の対戦成績は羽生の5勝3敗でした。ただ2015年の王座戦で挑戦者の佐藤八段が羽生王座に2勝1敗と勝ち越してタイトル初獲得まであと1勝と迫り(結果は羽生王座が3勝2敗で逆転防衛)、同年は互角の戦績でした。私は「第2局までに佐藤が1勝すれば、名人戦は十分に戦える」と予想しました。

写真・上は、4月4日の前夜祭で両対局者に花束が贈られた光景。右から、清水市代女流六段、羽生名人、佐藤八段、カロリーナ・ステチェンスカ女流3級。

名人戦で挑戦者の佐藤天彦八段が羽生善治名人を4勝1敗で破り、佐藤新名人誕生

名人戦の第1局は羽生が勝ちました。第2局は激闘の末に写真・中の終盤の局面(先手が佐藤。▲2四飛まで)に進みました。両者は持ち時間を使い切り、ともに1分将棋になっていました。羽生は▲5五桂打以下の詰めろを防いで△3四銀と引きましたが、佐藤は▲4四金で詰めろをかけました。そして佐藤が即詰みに討ち取り、名人戦で初勝利を挙げました。

じつは写真の局面(2手後の▲4四金でも)では、△8九銀▲同玉△6七角成▲同金△7八金▲同玉△8六桂(▲同歩は△6九馬以下詰み)▲8九玉△7八銀▲8八玉△7九銀不成▲8九玉△7八桂成▲同玉△6八馬▲同金(▲8九玉は△6七馬以下詰み)△同と▲8九玉△8八金までの即詰み手順があったのです。

羽生は局後に即詰みを指摘されると、「あっ、△6八馬か…」と声を上げました。さすがの羽生も見落した不詰め感のある読みにくい詰み手順でした。一方の佐藤も気がつかなかったようです。ただ自玉の受けがなければ、とりあえず△8九銀から△6七角成と王手したいところですが、詰みがないと思っていて王手を続けることは一流棋士ほどためらうものです。

佐藤にとって第2局の勝利はとても大きかったと思います。続く第3局と第4局も勝って3勝1敗とリードし、名人獲得まであと1勝と迫りました。74期にわたる名人戦の歴史で、名人が1勝3敗から3連勝して逆転防衛した例は、1992年の名人戦(中原誠名人―高橋道雄九段)しかありません。しかし将棋界の第一人者の羽生がそのまま土俵を割るとは思えませんでした。2011年の名人戦(羽生名人―森内九段)では、羽生は3連敗から3連勝して巻き返しました(結果は森内が4勝3敗で名人獲得)。

名人戦で挑戦者の佐藤天彦八段が羽生善治名人を4勝1敗で破り、佐藤新名人誕生

写真・下は、第5局の終盤の局面(先手が羽生。△3六歩まで)。羽生は中盤で角を取られて苦しい形勢になりましたが、懸命に挽回を図りました。羽生のことだから何か勝負手を用意しているはずだ、という空気が周囲に漂っていたようです。実際に難しい変化がありましたが、羽生はその順を見送りました。そして写真の局面で、攻防ともに見込みがないと判断して投了したのです。▲3三桂の王手は△同金▲同歩成のときに、桂を渡したので△4八銀以下の即詰みが生じます。しかし△3三同金に▲8五角の王手を打つと、後手の応手によってはまだ難しい変化になったようです。

第2局で即詰みを逃す、第5局で早まったと思える投了、名人戦のシリーズを通じてやや変調な指し方など、羽生にいったい何があったのでしょうか。不調説も流れています。

羽生は名人を失冠した後の6月3日に行われた棋聖戦(羽生棋聖―永瀬拓矢六段)第1局でも、千日手指し直しの末にタイトル戦に初登場した永瀬六段に完敗しました。

羽生は棋聖戦のほかに、7月からは木村一基八段との王位戦、9月からは王座戦と、タイトル戦の防衛戦が続きます。

囲碁界は井山裕太七冠の誕生が大きな話題になっています。将棋界はタイトルを分け合う戦国時代になるのかとうか、夏から秋にかけての羽生の勝負が注目されます。

佐藤天彦新名人のことは、次回のテーマにします。

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コメント

羽生さん変調ですね?どうされたのでしょう?若手が強くなったのは確かですが、不調なのでしょうか。棋聖戦も負けています。確か相性は良くなかったようにも記憶していますが?防衛は危ない気がします。名人戦の時、コメント諸氏は言っていましたが、席を立つたびに(挑戦者が)ポナンザを見ているのではと揶揄していましたが、そんなことはあるのでしょうか?ないでしょうね。失礼しました。

投稿: 千葉霞 | 2016年6月 5日 (日) 17時13分

こんばんわhappy01papernote。佐藤天彦新名人誕生、天彦先生おめでとうございます!・・・私は羽生先生より2歳下なので、中学生の時に第36回NHK杯開幕戦での羽生四段(当時16歳)から、同世代棋士の活躍を見てきましたが、ついに『新名人・新時代突入』の意識があります・・・といいますのも、名人戦は昨年まで、平成6年・第52期名人戦で羽生先生が初の名人になられて以降、『名人戦は谷川先生を除いて関東昭和40年代棋士の舞台』(羽生・佐藤康光・丸山・森内・郷田・行方 敬称略)だったということです。昭和50年代棋士(久保・渡辺明 敬称略)をすっ飛ばして、昭和60年代棋士の名人戦登場、それだけでも斬新なのに、『谷川・羽生以来の新A級での挑戦、そして奪取』では前述の2人が4-2だったのに対し、1局早い奪取ですから驚きました。・・・すでに昭和60年代棋士は、広瀬王位・糸谷竜王の実績がありました。ただ、お二人は防衛なりませんでした。『来年のことを言うと鬼が笑う』ではありませんが、1年は短いです。天彦名人が来年度のような防衛戦を戦うのか楽しみです。また、王座戦本戦も残って二冠目を目指しているとのこと。もう1回羽生-佐藤天彦戦が見られるかも・・・?
今後の羽生先生の巻き返しも期待したいですし、関西では同じく昭和60年代棋士の稲葉新八段がA級入り・・・まさか稲葉先生が挑戦者になれば第39期・中原-桐山戦以来の『東西同じ年での名人戦』になります。ホント今年度の将棋界は、今まで以上の注目を集めるでしょうね。どうなっていくか、じっくり拝見させていただきますsmilenotepaper

投稿: S.H | 2016年6月 6日 (月) 01時11分

田丸先生も佐藤天彦新名人の誕生を喜ばれている旨を伺い、喜びを共有できたことを光栄に感じております。

当時まだ四段だった佐藤名人と、2008年6月11日の第80期棋聖戦で対局されたようで、この対局に関するエピソードなど、非常に興味深い限りです。

田丸昇・獅子丸・ロン毛丸・ライオン丸先生のことですので、さぞかし、
プロ2年目のホープ・佐藤天彦四段にも泥勝負で立ち向かったことと存じ上げます。
8年前の対局の話、楽しみに待ち詫びております。

投稿: 柳 | 2016年6月 6日 (月) 09時50分

いや~佐藤さんが名人奪取でした。強いという印象ですね。ただ、羽生さんが「何やってんだろう」という印象も強く残りました。棋聖も危ないかも知れないと心配ですね。棋聖は比較的若い方もチャンスはある棋戦ではあります。名人戦は確かに羽生さんはあまり強いというイメージはありませんでしたが、どうだったのだろうか?ここらあたりで若手が続々と出てくるのだろうか。今までは、羽生さんの前に防いでくれる強豪が多かったのですが、A級で断トツで優勝ですから、これは実力も付いているということですね。コンピューター以前にこれらの若手に対応するのが課題になってくるのではないでしょうか。糸谷さん、稲葉さん、当然渡辺さんが筆頭ですが、佐藤新名人も羽生さんの前に立ち塞がるのでしょうか。時代が変わるのでしょうか?楽しみです。

投稿: 田舎棋士 | 2016年6月 7日 (火) 15時36分

参りましたね。羽生さんは過去の名人戦あまり良くはなかったけれど、こうも簡単に奪取されるとは思わなかったですね。田丸先生が引退されるのがなにやら不吉な前兆?か。先はわかりませんが、できれば60歳代までタイトル保持者であってほしい羽生さんですね。名人位を長く保持し続けないと第一人者とはなかなかいいずらいと思います。せっかくタイトル獲得数で最高ですので、名人位は15回くらいまでは新たに将棋の修練して獲得に向け頑張ってほしいですね。渡辺さんも頑張らないと2番手で終わってしまいそう。佐藤さん相手だとやりやすいのでは?名人獲得に向けて頑張ってほしいです。

投稿: 東京散歩人 | 2016年6月 8日 (水) 16時55分

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