将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2016年3月 6日 (日)

田丸の弟子の井出隼平三段が最終日の時点で確率が1%弱の厳しい状況で奇跡の四段昇段

田丸の弟子の井出隼平三段が最終日の時点で確率が1%弱の状況で奇跡の四段昇段

第58回三段リーグ(2015年10月〜16年3月)の17回戦と18回戦の対局が最終日の3月5日に東京の将棋会館で一斉に行われ、私こと田丸昇九段の弟子の井出隼平三段(24歳)が昇段への確率が1%弱という厳しい状況で奇跡的な四段昇段を果たしました。

写真は、井出がいつも研究場所にしている東京・荻窪「将棋サロン荻窪」で、当日の夜に師弟で昇段の喜びを分かち合っているところです。

このブログには多くの方から祝福コメントが寄せられました。厚く御礼を申し上げます。

今年の3月で引退が内定している私としては、現役中に井出が四段に昇段することをずっと願っていました。しかし3年前の第52回三段リーグで昇段のチャンスを逃して以降は成績が低迷していました。

井出は今回の三段リーグでも前半で4勝5敗と負け越しましたが、後半で追い込みました。最終日を迎えた時点で、14勝2敗の都成竜馬三段はすでに四段昇段が決定していて、11勝5敗の渡辺和史三段、佐々木大地三段、大橋貴洸三段、石川優太三段、10勝6敗の石川泰三段、黒田尭之三段、井出三段らが残る1つの昇級枠を争いました。井出は7番手でしたが、順位の関係で昇段の可能性がわずかにありました。ある人の計算によると、その確率は0.78%でした。17回戦で井出が池永天志三段に勝つと、上位の4人が敗れたので4番手に上がりました。確率は6.25%になりました。そして18回戦で井出が藤田彰一三段に勝つと、上位の3人が次々と敗れました。その結果、順位8位で12勝6敗の井出は、順位下位で同成績の佐々木三段、大橋三段、石川優三段を押さえて2位に入り、奇跡的な四段昇段を果たしたのです。

井出は18回戦で勝った後、残る1局の黒田―佐々木戦の結果を待ちました。30分ほどの時間でしたが、1時間以上に感じるほど長く、手から出る汗が止まらなかったといいます。じつは私は、上位者同士の対戦があるので井出の上がり目はないと思っていて、当日の午後に将棋連盟ホームページの三段リーグ速報を見て昇段の可能性があるのを初めて知りました。そして夕方に関係者から、井出の四段昇段が伝えられました。

私は13年前の2003年、たまに指導対局を務めていた東京・吉祥寺「将棋サロン吉祥寺」の席主の新井敏男さんから、奨励会入会志望の井出(当時12歳)を紹介されて師弟関係を結びました。井出は同年に奨励会に6級で入ると、順調に昇進を重ねて18歳で三段に昇段しました。

井出は研究会に参加して勉強するのは、時間に縛られるから嫌だと言って、毎日のように将棋サロン吉祥寺に通って主に強豪アマと指して腕を磨きました。私は将棋の勉強法については本人に任せていたので、何も言いませんでした。井出の父親のような存在の新井さんも「1人くらい将棋クラブで育ったプロ棋士がいてもいいでしょう」と理解を示して応援しました。将棋サロン吉祥寺が現在の荻窪に移ったときは約3ヵ月の休止期間があり、井出はその時期に調子を崩して連敗しました。将棋サロンで勉強することは生活の一部になっていたのです。

井出は兄弟子の櫛田陽一六段に仕込まれたこともあって、角筋を止める従来の四間飛車を武器にしていました。7期目の三段リーグでは11勝5敗で最終日を迎え、連勝すれば四段昇段の可能性がありました。新井さんは当日、将棋会館に行って吉報を待ちましたが、井出は17回戦で敗れて望みは絶たれました。

井出は以後の三段リーグで成績が低迷しました。私は弟子に対して放任主義でしたが、さすがに心配して2年前に話し合いの場を持ちました。技術的なことは教えられませんが、精神面や勝負への心構えについて自分の経験を話しました。そして苦境を脱するひとつの方法として、「何かを変えてみるといい」とアドバイスしました。

井出はその後、嫌々でしていた公式戦の記録係を積極的に務めるようになりました。四間飛車オンリーでしたが、居飛車も勉強して将棋の幅を広げました。また、行方尚史八段には居飛車、窪田義行六段には振り飛車を教わりました。やがて三段リーグの成績は良くなり、前回は11勝7敗と久しぶりに勝ち越しました。

井出は今回の三段リーグで前半に4勝5敗と負け越しましたが、少しでも勝って順位を上げようという無欲の気持ちが幸いし、後半の8勝1敗の成績で結果的に昇段できました。

3月5日の夜。将棋サロン荻窪を研究場所にしている棋士、女流棋士、奨励会員らが集まり、井出の四段昇段をお祝いしました。その中には四段昇段を逃した人もいました。井出も後輩の奨励会員の四段昇段を祝ったことがあります。人生をかけた厳しい戦いだからこそ、最後は競争相手というよりも「戦友」のような思いになるのです。新井さんは井出に「就職おめでとう」と、四段昇段者に必ず言う決まり文句で祝福しました。

それにしても今年の春に引退する私と入れ替わるように、弟子の井出が棋士になったことは、まるで夢を見ているようです。心おきなく引退できそうです。

最後に、井出に対していろいろな面で応援してくれた多くの方たちに、このブログで感謝を申し上げます。ありがとうございました。

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コメント

いやいや、いいお弟子さんを持たれましたね!
田丸先生の引退で寂しさを感じていたのですが、
これからはその代わりに井出さんに注目していきたいと思います(笑)

どうもおめでとうございます♪

投稿: ホネツギマン | 2016年3月 6日 (日) 19時03分

井出新四段の努力が第一にあると思いますが、このタイミングで弟子の四段昇段が決まるというところに田丸先生の人間力というか目に見えない力があるのだと思います。

投稿: | 2016年3月 7日 (月) 01時08分

私が唯一指導対局していただいたのが、井出新四段でした。同い年ということもあり成績は気にかけていたのですが、奇跡的な昇段が決まり自分のことのように嬉しかったです。
ご活躍を期待しています。

投稿: | 2016年3月 7日 (月) 15時56分

おめでとう。あなたが奨励会にはいる前後に何回か指した者です。勝負強さがあったので期待して週刊将棋の三段リ-グを見て影ながら応援してました。確率的に難しいが、これを見事にひっくり返して万歳、障害を持つ子供がいる生活に努力は裏切らないと励みになります。

投稿: 外園長文 | 2016年3月 9日 (水) 11時40分

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