将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2016年3月 1日 (火)

A級順位戦の最終戦で佐藤天彦八段が名人戦に初挑戦、残留争いは波乱の結末

「将棋界のいちばん長い日」といわれるA級順位戦の最終戦が2月27日に東京の将棋会館で一斉に行われました。昨年は挑戦者争いが大混戦になり、最終戦の勝敗によっては8人によるプレーオフの可能性もありました。そして4人(行方尚史八段、渡辺明二冠、久保利明九段、広瀬章人八段)によるプレーオフの結果、行方八段が名人戦の挑戦者に初めてなりました。※棋士の肩書は当時。以下も同じ。

今年は最終戦で7勝1敗の佐藤天彦八段と6勝2敗の行方八段が対戦しました。佐藤が勝てば名人戦の挑戦者に初めてなり、行方が勝てばプレーオフで佐藤と再戦します。行方は大山康晴十五世名人の弟子で、佐藤は大山の弟子の中田功七段の弟子。天上にいる大山先生は、弟子と孫弟子の挑戦者争いをじっと見守っていたことでしょう。

行方―佐藤戦は横歩取りの流行形から激闘が繰り広げられました。終盤では佐藤が勝ち筋のようでしたが、意外に難しくて一時は形勢が逆転したかに思えました。しかし佐藤は冷静に対処し、難局を切り抜けて勝ちました。

佐藤八段(28歳)はA級1期目で名人戦の挑戦者になりました。同じ例では1996年(平成8年)の森内俊之八段以来です。また20代の挑戦者は、2000年の丸山忠久八段以来です。この15年ほどの名人戦では、主に「羽生世代」といわれる棋士たちが対戦してきました。それだけに佐藤の登場は新鮮な感じがします。

ただ名人戦の歴史を振り返ると、加藤一二三九段は20歳、中原誠十六世名人は24歳、谷川浩司九段は21歳、羽生善治名人は23歳で、それぞれ名人戦の挑戦者になりました。この4人の棋士は順位戦を駆け抜けてA級に昇級しました。しかし近年は若手棋士同士の競争が激化していることから、A級に昇級するまでの年数がかかって年齢が上がっている傾向があります。

私は佐藤八段のことで印象的な思い出があります。2004年に三段リーグで2回目の次点の成績を挙げ、規定によってフリークラス編入の権利があったのにそれを放棄したからです。佐藤は当時16歳と若く、正規のルートで四段に昇段したかったのでしょう。しかし競争が激しい三段リーグで勝ち抜くのは容易なことではありません。実際に以後は10勝8敗、12勝6敗、12勝6敗とわずかに及ばず、同世代の広瀬三段、高﨑一生三段、糸谷哲郎三段、中村太地三段らに先を越されました。そして2年後の06年、14勝4敗(2位)で四段に昇段しました。佐藤が棋士になって以降の活躍ぶりの原点は、12年前にフリークラス編入をあえて放棄した志の高さにあると思います。

佐藤八段は棋王戦で渡辺明棋王に挑戦していて、3月1日時点で1勝1敗。最終の第5局は3月31日に行われます。その翌週の4月5・6日に、佐藤八段が羽生名人に挑戦する名人戦第1局が行われます。今年の春は佐藤が将棋界の目になっています。

A級順位戦の最終戦では、一流棋士の証であるA級の地位を守る残留争いも大きく注目されます。今年は危険な順に郷田真隆王将(2勝6敗)、広瀬八段(2勝6敗)、久保九段(2勝6敗)、森内九段(3勝5敗)の4人の争いとなりました。久保―森内戦の直接対決がある関係で、郷田以外の3人は勝てば自力で残留できました。

その当事者たちの対局では、まず23時45分に郷田が屋敷伸之九段に勝って残留に望みをつなぎました。しかし24時33分に広瀬が深浦康市九段に勝ち、郷田は順位下位によって降級しました。そして24時56分に森内が勝ち、久保が降級しました。その将棋は終盤の土壇場で、久保が▲8六銀と打てば詰めろ逃れの詰めろになって勝ち筋でしたが、▲9六銀と打ったので即詰みが生じました。1筋の違いが明暗を分けました。

今期のA級順位戦の残留争いは、前期のA級順位戦でプレーオフ決勝に進出した久保九段と、2007年と09年の名人戦で挑戦した郷田王将が降級し、名人在位が通算8期で十八世名人の永世称号がある森内九段が降級の危機に陥るという波乱の結末となりました。

来期のA級順位戦には、2010年の名人戦で挑戦した三浦弘行九段と、若手精鋭の稲葉陽八段が加わります。また激しい戦いになることでしょう。

|

対局」カテゴリの記事

コメント

寂しいですな。
田丸さんが今月一杯でプロ棋士をお辞めになられるなんて……
元棋士の櫛田さんとの師弟対決をNHK教育(現・Eテレ)で拝見させてもらいましたが、あれを拝見させてもらっていた頃、僕はまだ中学2年でした……
あれから22~23年が経つんですね。
長い間お疲れ様でした。

投稿: 竜魂 | 2016年3月 2日 (水) 00時09分

今期のA級順位戦は佐藤八段(28歳)はA級1期目で名人戦の挑戦者になり一先ず決着でした。郷田王将が降級、久保九段が降級しました。これは残念です。郷田王将は順位差、久保九段は今期は調子が今一でしたか。変わっての三浦弘行九段と、稲葉陽新八段の昇級はよかったですね。稲葉さんは即名人挑戦を期待しています。さてさて田丸先生はラストスパートは柔らかくですね。血圧が高めそうで、やや脂肪肝がありそうです?自分にも言えるのですが少しだけ節制して息長く将棋界の御意見番でありますように!

投稿: 千葉霞 | 2016年3月 2日 (水) 19時21分

今期のA級順位戦は佐藤八段(28歳)で決まりました。果たして羽生名人に通じるかどうかが楽しみです。さて女流棋戦ですが、室谷女流二段は結構強いですね。西山朋佳奨励会三段を破りました。堂々たるものです。室谷さんはテレビ(ニコニコ、NHKなど)露出が多い割に腕前の程は承知していませんでした。これまたタイトル戦挑戦が楽しみです。

投稿: 田舎棋士 | 2016年3月 4日 (金) 14時08分

こんにちは。ご無沙汰しています。佐藤天彦八段とは、昨秋『NHK将棋の日イン倉敷』の前夜祭で写真におさまったことがあります。控えめで落ち着いた棋士、という印象でした。・・・さて、1994(平成6)年、羽生先生が米長先生を倒して初の名人位に就いてから22年。谷川先生を除いて『名人戦は関東・昭和40年代棋士の舞台』だった、というのは皆さんご存知だったでしょうか?smile今回、久保先生や渡辺明先生ら『昭和50年代棋士』をすっ飛ばして、『昭和60年代棋士、名人戦初登場』となったわけですから、『時代の新たな1ページ』が刻まれた、といってもいいでしょう。しかも関西では同じく昭和60年代棋士の稲葉陽七段がA級昇級しました・・・もし今回佐藤先生が名人位奪取し、来期稲葉先生が挑戦、となると『史上初、東西同い年(昭和63年同士)の名人戦』となるでしょう(羽生-森内戦、丸山-森内戦は関東同士でした)・・・気が早いかな?coldsweats01でもありえないことじゃあないsmile。今回の名人戦を機に、将棋界の歴史が大きく動いていく、と見ているのは私だけでしょうか?名人戦の両雄健闘に期待しています。田丸先生も体調に気をつけて、お過ごしくださいhappy01papernote

投稿: S.H | 2016年3月 4日 (金) 18時01分

田丸先生、こんばんは。
この度はお弟子さんの井出さんが四段昇段しましたね。
おめでとうございます!

田丸先生が現役最後の年にお弟子さんが昇段とは、田丸先生の「魂」を引き継いでくれそうですね。
1局目が終わった本日昼過ぎに連盟のHPを見ると、井出新四段はキャンセル待ちの4番手位だったと記憶しています。
上位陣の誰かが勝つだろうと思い、「これは難しいなぁ」と心の中で思っていました。先ほど帰宅して連盟のHPを見るとビックリです。
過去にも大逆転劇がありましたが、勝負事は何があるか分かりませんね~。

今夜は美味しいお酒を飲んで下さい!

投稿: 新宿の虎 | 2016年3月 5日 (土) 20時39分

田丸先生こんにちは。初めてコメントさせて頂きます。

井出隼平三段の四段昇段、本当におめでとうございます。井出新四段の将棋は「目指せプロ棋士」で何度か拝見させて頂いたことがありましたが、ノーマル四間飛車で堂々と居飛車穴熊に立ち向かっていた印象があり、個人的にも応援していたのでとても嬉しく思います。

兄弟子、櫛田先生の魂を引き継ぎ、四間飛車党の星になるようなご活躍を期待しています。

投稿: Beーg | 2016年3月 6日 (日) 04時52分

田丸先生、井出新四段の誕生、おめでとうございます。井出四段のインタビューで田丸先生はそんなに驚いていなかったとありましたが、実際はどうだったのでしょうか。

投稿: ソフトバンクファン | 2016年3月 6日 (日) 07時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/545452/63279451

この記事へのトラックバック一覧です: A級順位戦の最終戦で佐藤天彦八段が名人戦に初挑戦、残留争いは波乱の結末: