将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2015年11月18日 (水)

荒川区・三ノ輪の将棋クラブ、稲葉聡アマが加古川青流戦で初優勝、『週刊将棋』が休刊

「荒川一中~ジョイフル三ノ輪~都電荒川線。なんとも懐かしい地です。私はかつて都電・三ノ輪橋の近くに住んでいて、三ノ輪商店街でよく買物をしました。写真の鳥居(9月15日のブログ参照)も覚えています。そこから小路を入ると将棋クラブもありました」というコメント(9月21日)は《と金読者》さん。

私は51年前の昭和39年(1964年)2月の中学1年のとき、東京の荒川区・三ノ輪の将棋クラブに初めて行きました。荒川一中から下校のときに窓から覗いてクラブの様子はわかっていましたが、タバコの煙がもうもうと立ち込める10畳ほどの薄暗い部屋で大人たち(子どもは私だけ)と将棋を指すのは勇気がいりました。しかし将棋を指したい一心で、週末は50円玉(通常の席料は100円)を握りしめて通ったものです。

そのクラブでは賭け将棋がよく行われていて、盤の脇にお金が置いてありました。時には「真剣師」と思われる人が来てクラブの師範の人と指すと、周囲は緊張感がみなぎりました。私はそんな人にも指してもらいましたが、子どもなのでもちろん賭け将棋ではなくて指導将棋でした。昭和39年(東京オリンピックが開催されました)2月にクラブに初めて行ったときは8級ぐらいの棋力でしたが、夏の頃には1級ぐらいに上達し、棋士になりたいと思い始めたものです。当時の思い出は、また改めて書きます。

「加古川青流戦・決勝3番勝負で稲葉聡さん(朝日アマ名人)が増田康宏四段を2勝1敗で破り、アマとして初優勝しました。全棋士参加のプロ公式戦ではありませんが、戦績から見てプロ編入試験での合格を上回る快挙だと思います。将棋連盟は稲葉さんのプロ入りを認めてフリークラス編入が相当だと思います」という内容のコメント(10月26日)は《将棋九段》さん。《千葉霞》さんと《古代子孫》さんからも、同じ趣旨のコメントが届きました。

稲葉アマ(30歳)は加古川青流戦で石川優太三段、今泉健司四段、宮本広志四段、渡辺大夢四段、甲斐日向三段を連破して決勝に進出しました。そして10月24日・25日に行われた増田四段(17歳)との決勝3番勝負で、第1局は敗れましたが第2局と第3局に連勝して初優勝しました。

稲葉アマは稲葉陽七段の3歳年長の兄で、中学生の頃に奨励会に在籍しました。退会した後は、アマ竜王戦や朝日アマ名人戦で優勝して活躍しています。決勝の対局が行われた兵庫県加古川市は少年時代を過ごした地元でした。同じ加古川出身で奨励会時代の師匠だった井上慶太九段には「優勝してこそ値打ちがある」と激励されました。そして師匠の森下卓九段が「羽生善治名人を負かすのは増田だ」と公言するほど逸材の増田四段を見事に破り、稲葉アマは元師匠の井上九段の期待に応えました。

《将棋九段》さんらのコメントが届いた10月26日。私は将棋連盟の役員会と棋士たちの会合である「月例報告会」で、加古川青流戦で初優勝した稲葉アマの処遇について質問しました。つまりプロ編入を認めるかどうかです。それについて担当理事は「特例の措置は考えていません」という見解でした。なお稲葉アマはプロ公式戦で9勝3敗の成績を挙げていて、あと1勝でプロ編入試験(昨年の秋にアマ時代の今泉四段が合格して棋士になりました)を受験できる権利が生じます。当の稲葉アマは『週刊将棋』のインタビューに答えて、「条件を満たしても、今のところ受験はしません」と心境を語りました。

「『週刊将棋』が休刊のニュース。以前は将棋雑誌もいっぱい出ていて、少ないお小遣いでどれを買おうかと思っていた時代でした。それも地方にいると情報が遅くて…。今では懐かしい思い出です」という内容のコメント(10月26日)は《将棋太郎》さん。

31年前の昭和59年に創刊された『週刊将棋』は来年の3月で休刊となります。月刊の将棋雑誌が主流だった時代には、週刊の新聞で新しい情報を発信する役割を果たして好評でした。しかしネット時代の到来によって、目玉記事としたタイトル戦の棋譜や情報がリアルタイムで全国に流され、結果的に部数が低迷していったようです。ただ大半の将棋ファンがパソコンやスマートフォンで情報を得ているわけではありません。活字媒体が減ることで将棋ファンも減るのではないかと、私は少し不安に思っています。

|

裏話」カテゴリの記事

コメント

田丸先生「稲葉アマ」の件、ありがとうございました。でも今後このようなことがあった場合にはどうするのでしょうか?(今回はプロよりもアマとのご本人の意向があるようですので)意外とアマで強い人いるんですね。あえてプロにはならない人ですね。それも人生といえばそうなのでしょう。
千葉霞さん、古代子孫さんも気が抜けていそうですね。飛び付け5段とかは今は昔でした。個人的には「プロ棋戦」に参加するアマはどれだけ勝っても「おめでとう」だけですね。昔いましたね!最後に8段(A級)が出てきてアマを阻止したというのが、今回のもしばらくすると忘れてしまいますね。しばらく隠遁しますか。

投稿: 将棋九段 | 2015年11月19日 (木) 16時00分

週刊将棋新聞の休刊は残念ですね。毎日新聞ですか。全国紙の新聞デジタル化を進めても、紙自体はなくさないでいますね。各全国紙、地方紙共にです。速報性云々はやめようと思った時のいいわけですね。タブレット、PC、スマートフォンに取って代わられるということは100年経ってどうかでしょうね。専門家の解説、様々なトピックス、連載物は紙媒体でないと読む気がしないですね。将棋世界誌は無くなっていません、これは不思議ですね。これと同様です。歴史観の欠如ですね。内部努力が足りなかったのか、新しもの好きなのか、少し文句たらたらのコメントになります。まだ出てきそうなのでこの辺で。稲葉さんのことでは大変ありがとうございました。多分、稲葉さんは断りそうですね。お一人プロで活躍されているからいいのでしょう。もったいないけれど、厳しさを知るお方のようです。今後もアマでのご活躍をお祈りしています。

投稿: 千葉霞 | 2015年11月20日 (金) 12時57分

何事も「採算」でしょうか?週刊将棋新聞の休刊(廃刊)は残念ですね。将棋ファンはこの採算にも随分協力(値上げ)してきたはずなのに、電子媒体にさっと切り替えてしまういやらしさでしょうか???言い過ぎですね。全国紙を見ても殆ど広告だらけ、記事は何処かと探さなくてはいけなくなるのもそう遠い話ではない。活字媒体はじっくり読めるのと、よほどの事がない限りよく取材やデーターなど内容に力を入れている。電子版は流石に速報性はすごいです。フィギアスケートなどをネットで結果速報を見てTVを見るとまた一段と違います。こんな違いが将棋新聞にも当てはまりそうですね。購読させる努力をするべきでしょう。名人戦の棋譜を有料にしたのも「おかしい」というかなぜ?将棋ファンは連盟財政のためと支援ですね。これも消費税8%、10%と同じであまりいいものではない気がします。見なければいいのですね。ドワンゴがあるし、全国紙に結果は掲載されるからいいとしましょう。でも結構どこかで棋譜を流してくれるところがあるのです。これいうと削除せよとやられてしまうかもしれません。まずかったかな???

投稿: 東京散歩人 | 2015年11月22日 (日) 10時15分

稲葉さんのプロ棋戦優勝はすごかったけれど、プロ挑戦は本人次第ですから、また元奨励会でしたかそれなりに力はあるのですね。今後のこと、アマ棋戦で活躍されているのだからアマのままでも良しとすべしですね。ところで女流は里見さんが「女流」だけでは絶好調ですね。奨励会では昇級は早難しそうですが、野球の大谷選手と同様、二刀流はきつそうですね。どちらか、できれば年齢もあるから「女流」一本でやってもらいたい気持ちです。当然、個人的な意見です。現状を歓迎する向きが多いのは承知の上ですが、体調面を考えると、また対局日の変更などで相手側にも多少のリスクをもたらします。と、非難めくのは自分ながら困りもんですね。やれるところまでやるしかない「やるっきゃない」はかの土井女史(元社会党委員長)の言。里見さん頑張って!

投稿: 田舎棋士 | 2015年11月24日 (火) 15時55分

将棋雑誌、将棋新聞の廃刊は寂しいものです。デジタル化はいいのですがそれが限定化や有料化になるとさすがにファンといえども離れることになるのではないかと危惧します。それでなくても少数のお宅(将棋フアン)だけの狭いところの話なのです。便利さもありますが、例えば対局をすべてネット中継にできるのかということになります。現場感ですよね、だからイベントも同時開催で全国で「実演」されているわけです。新聞、雑誌は「実演」なのです。つまらない内容もありましたが、なかなか充実度があがり(値段のあがるのはいただけない)いいものでした。雑誌も自分の昇段が載っているだけで購入し、将棋に興味が薄い人に見せたりもしました。免状に至っては驚嘆されました。将棋や棋士(連盟)の認知度は高いのです。よくよくご考慮の程を連盟を牛耳っている方にご検討をお願いしたいものです。

投稿: 古代子孫 | 2015年12月 2日 (水) 16時49分

年も押し迫りお忙しいとは思います。
里見さんは3段リーグでは勝てません!女流ではあっという間にタイトルを取り戻したといいますか、全制覇まであと一つくらいでしたでしょうか。以前に女流将棋を嫌うお方がいました。実力が男性に比べてかなりある云々でした。まだ3段リーグが終わってはいませんが少しひいき目でも残念な状況です。目標はあるのでしょうが、どちらかに専念するというわけにはいかないのでしょうか?いかないんでしょうね。もう一方3段リーグに上がった女流さんがいました。専念組だったと思います。なんとも期待される女流さんです。里見さんのことは見守るしかないのでしょうか?年齢枠は適用されるのでしょうか?そろそろ制限年齢ではなかったでしょうか?
頑張ってもらいたいです。
また来年も面白いブログをご展開ください。
よいお年をお迎えください。

投稿: 千葉霞 | 2015年12月29日 (火) 17時00分

~アマ棋戦スーパークラス”案”について~

稲葉アマの強さは、加古川青流戦でよく判りました。

この大会はプロ、アマが両方出場できる、
数少ない大会ですが、多くの大会では、
「アマはアマ」の大会です。

その様な「アマ棋戦」に、以前に比べて、
元奨励会の方が多く出場されているように感じられます。

元奨励会の方は「普通のアマ」に比べるとやはり”強い”です。
敵わないことが多いです。

そこで1案なのですが、アマ棋戦に
「スーパークラス」の様なものができないか、
ということなのです。

元奨励会の方のみが参加できる
”スーパークラス”の様なものがあると
観ている方も興味がわきますし、
「普通のアマ」も、「普通の棋戦」で
伸び伸びと戦えるのではないかと思います。

1つか2つくらいでも、その様な大会があると
楽しいと思っております。

何らかの展開があることを期待したいです。

最後になりましたが、
今年は田丸先生のラストイヤーですね。
その戦いに期待しております。

今後とも宜しくお願い致します。

          サカイ

投稿: サカイ | 2016年1月 2日 (土) 20時36分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 荒川区・三ノ輪の将棋クラブ、稲葉聡アマが加古川青流戦で初優勝、『週刊将棋』が休刊:

» 第23期大山名人杯倉敷藤花戦 里見 香奈 女流3冠 甲斐 智美 倉敷藤花 [オンラインブログ検定]
山陽新聞 編集局 文化部 三島 翔 記者 お世話になりました。我が家では山陽新聞創業から購読していますが 紙面が充実しているので何も書くことがありません。 ... [続きを読む]

受信: 2015年11月24日 (火) 21時43分