15年前にテレビドラマ『月下の棋士』で元女流棋士を演じた女優の川島なお美さんが54 歳で死去
私は1995年から2000年にかけて『週刊将棋』で、将棋を愛好したり将棋界に関連する各界の著名人に話を伺うインタビュー記事「コーヒーブレイク」を、水町悠の筆名で長期連載していました(計119回)。
9月24日に胆管ガンによって54歳の若さで死去した女優の川島なお美さんには、2000年7月に登場してもらいました。写真は、その紙面。
青年漫画誌に連載されて人気を博した『月下の棋士』(作・能條純一)が、00年1月から3月までテレビ朝日系列でドラマ化されました。
主な配役と出演者は、主人公の青年棋士・氷室将介(森田剛)、伝説の棋士で氷室の祖父の御神三吉(高松英郎)、永世名人の大原巌(中尾彬)、大原のライバルで氷室の才能を見抜いた豪快な棋士の刈田幸三(寺田農)、天才棋士で名人の滝川幸次(田辺誠一)、滝川の師匠の村木武雄(仲谷昇)、派手好きな棋士の幸田真澄(細川茂樹)、病気によって対局中に死んだ村森聖(デビット伊東)、天才女流棋士の大和岬(雛形あきこ)、元女流棋士で氷室の後見人となる将棋クラブ経営者の石丸千代子(川島なお美)など。役柄と役名で想像できるように、実在した棋士がモデルになっています。なお千代子は原作にはないオリジナルの役柄です。
第1話で、棋士をめざして上京した氷室が千代子が経営する将棋クラブで初めて会うと、和服姿の千代子は威儀を正して深い事情を語り出します。
「お待ちしていました。亡くなった主人は御神三吉のただ1人の弟子です。亡くなる前に《いつか御神三吉の〈歩〉を継ぐ者がここを訪ねてくる。そのときはよろしく頼む》という遺言を残しました。やっと…。名人になってください」
私は川島さんが指定した都内ホテルの喫茶室で1時間ほど話を伺いました。川島さんが話した内容を少し紹介します。
「着物姿で通せる役は久しぶりだったので、とてもうれしかったですね。私は将棋をまったく知りません。そこで役作りのために盤と駒を買い、将棋の入門書を読んでルールを覚えました。普段は読まない新聞の将棋欄にも目を通すようになりました。寝る前には『月下の棋士』の単行本を読むのが日課でした。ただ将棋を指す場面では、いくら練習しても棋士らしい手つきはできませんでした。でもあるとき、番組の監修をされた河口さん(故・俊彦八段)に《名人が指す場面じゃないので、軽やかな感じの手つきでいいんじゃない》とアドバイスされて、いっぺんに気が楽になりました。そして本番で私の最初の対局場面が一発OKとなったら、スタッフの人たちに《どうしてそんなに手つきが上手になったの?》と驚かれました。また、私と滝川名人、大原永世名人との対局場面を作ってくれたのは、とても名誉なことでした」
川島さんは大学生時代に『アイアイゲーム』という人気クイズ番組の司会を務め、レギュラー出演者だった故・芹沢博文九段の思い出も語りました。
「棋士のことをあまり知らない私は、なんで芹沢さんだけ名前の下に段が付いているのか不思議でしたね。スタッフの中には将棋好きの人もいて、《先生》と呼んで敬意を払っていました。芹沢さんには《なお美、なお美》とよく呼ばれて可愛がってもらいました。お酒が好きで、いつもお酒の匂いがぷんぷんしていましたよ(笑)」
私がそれまで取材した芸能人の中には無口な人もいて、話を聞き出すのに苦労したこともありました。しかし川島さんは積極的に話をしてくれて、1時間がすぐにたちました。理知的な美人という印象でした。そして最後に「今までにドラマでいろいろな役を演じるたびに、新しい世界が開けました。『月下の棋士』で大和撫子のように凛とした石丸千代子の役もそのひとつです」と語りました。
私は昨年の7月、将棋を愛好した作家の故・渡辺淳一さん(享年80歳)のお別れの会に出席しました(2014年8月7日のブログ参照)。帝国ホテルの会場では、渡辺さんの小説が原作のドラマ『失楽園』に主演した川島さんの姿を見かけました。その年の1月にガンの手術を受けたと聞いていましたが、いつものように華やかな様子で元気そうでした。それだけに、このたびの訃報に驚くばかりです。
次回も、私が以前に取材した著名人をテーマにします。
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コメント
川島なお美さんのアイアイゲームはよく見ていました。山城新伍がMCだったでしょうか。芹沢先生も出られていました。いつも酔っているようでした?ちなみに大橋巨泉の番組では大内先生が出ていました。御両所は棋士の違った面を世の中に知らしめた先駆者でした。枡田先生は時代劇に出ておられました。そんな時代の川島なお美さんでしたね。川島さんの晩年はワインでした。ご冥福をお祈りします。
投稿: 千葉霞 | 2015年9月29日 (火) 13時22分
将棋のドラマはなかなかないですね。月下の棋士は題名だけ記憶にあります。煙が目にしみるだったでしょうか?これはNHKでドキュメントか何かで見た覚えがあります。将棋の物語は原作が難しそうですね。坂田三吉の物語があまりにも有名ですが、フィクションが盛りだくさんですが、あまり真実ばかりでは面白みに欠けますから、いいのでしょう。田丸先生が昭和将棋戦争ばりの物語を一冊書いてくださるとドラマで拝見できそうです。今のプロデューサーでは将棋ドラマで視聴率取ろうとはしないだろうか。子供を主人公にしたコミックを読んだこともあります。これは「ヒカルの碁」のように人気が出そうです。単行本も結構出ています。「羽生善治物語」米長先生の物語もいいですね。一代記をNHKの朝ドラで見たい気もします。
川島なお美さんのご冥福をお祈りします。将棋3段を墓前に捧げます!
投稿: 田舎棋士 | 2015年9月30日 (水) 13時57分
こんにちわ
。川島さんの訃報は残念でしたが、先月激やせの姿でTVに出られたときはビックリしました
。申し訳ないですが、河島英五さんや今井雅之さんらと同じ印象を持ち『こりゃあ長くないかも・・・』と思っていましたが、事実そのとおりになりました・・・30年ほど前TBSナショナル時代劇『大岡越前』(加藤剛さん主演)で、知り合いの娘役の印象が強いです。他にも色々されていたでしょうが、私個人はこれですね・・・・週刊将棋『コーヒーブレイク』は切抜きして、残しています。改めてその記事を見ていますが、あのころと最晩年の川島さんの顔つきは全く違いますね・・・がんは本当に恐ろしい病気だとつくづく思いました・・・心より川島さんのご冥福をお祈りいたします
寒くなってきましたが、田丸先生も皆さんも風邪などには充分気をつけてください
。
投稿: S.H | 2015年10月 5日 (月) 11時07分
SHさんのコメントのとおりですね。胆管癌と聞いて、さらに腹腔鏡で十数時間の手術で大丈夫かなと心配はしていました。最近、NHKで肝臓のスペシャリストの先生の手術を見ました。回復手術でも、この先生以外ではできないというものでした。果たして腹腔鏡を行った都内某大学病院?上手くできたのかどうかは疑問ですね。もう仕方のないことですが、胆管癌と分かった時点で相当な何局面です。それにしても、川島さんの亡くなったのは残念です。ご冥福をお祈りします。(ここにアマ名誉五段に推薦したいと思います)
投稿: 東京散歩人 | 2015年10月 7日 (水) 12時07分