将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2015年7月 5日 (日)

棋士の命がけの対局についての田丸の見解、森田正光さんの榧盤と森本レオさんの将棋

「将棋は頭脳労働なので、棋士が対局で死ぬことはありません。しかし対局中に駒を握ったまま血を吐いて死ぬ、といったことが面白いのです。ファンは棋士が命をかけて戦うところが見たいです。棋士が安定した生活を送って天寿を全うするのは結構なことですが、それでは伝説は生まれません。棋士の中には物語になるほどの劇的な生涯を送った人は誰もいません」というコメント(5月27日)は《田舎初段》さん。

《田舎初段》さんは命がけで戦ったり生きた例として、漫画『あしたのジョー』に登場するボクサーの力石徹、真剣師の小池重明さん(元アマ名人)などの例を挙げました。力石は主人公のジョーに激闘の末に勝ちましたが、リング上で息を引き取るという劇的な死をとげました。その後、出版関係者や読者によって力石の死を惜しむ葬儀が営まれました。小池さんは酒・女・博打に溺れた生活を送った影響で体調が悪化し、最後は病院で自死しました。その後、作家の団鬼六さんが著した小池さんの評伝が大きな話題になり、テレビ番組でも特集されました。

力石と小池さんの生涯は、多くの人たちに感動を呼びました。ただ前者は約15キロも減量するという命の危険に及ぶ設定でした。後者はかなり破滅的な人生を送りました。漫画と現実の違いはあっても、なるべくしてなった結末だと思います。

「吐血の対局」といえば、戦前の昭和17年に行われた名人戦(木村義雄名人―神田辰之助八段)を思い起こします。胸の病を患っていた挑戦者の神田八段は、対局の延期を勧める関係者の声を押し切り、木村名人との7番勝負に臨みました。その命がけの対局は、好局を逃したことが響いて4連敗で敗退しました。《オヤジ》さんは「神田八段は何度も血を吐きながら指し続けた」というコメント(5月27日)を寄せました。実際には対局中に吐血したわけではないようです。名人戦で疲労困憊した後に吐血して倒れ、翌年に亡くなりました。なお現代の対局規定では、伝染病を患った棋士が対局することは不可能です。

そのほかに、ガンが再発して医師から安静を忠告されても自分の意思で精力的に活動した大山康晴十五世名人(1992年に69歳で死去)、将棋一筋の生活を送って健康にも人一倍に留意しながら奇病で亡くなった山田道美九段(75年に36歳で死去)、幼年時代から病弱で20歳の誕生日を迎えたときにとても喜んだ村山聖九段(98年に29歳で死去)らの棋士がいましたが、運悪く病気になったにすぎません。命がけの対局に勝っても、病魔には勝てなかったのです。

ひとつの技芸や文化に優れていても、ほかのことは何も知らない人を「○○バカ」といいます。しかし現代では、どの世界にもそんな人はほとんどいません。物語になるほどの劇的な生涯は、破滅的な人生ではなく、作品や哲学が尺度になる時代だと思います。また、棋士の生活が安定すれば安心して将棋の研究に打ち込め、長生きすれば棋士人生を全うできます。

以上、棋士の命がけの対局に関するコメントについて、田丸の見解を述べました。

「お天気キャスターの森田正光さん(6月2日のブログ参照)が以前に買った日向(宮崎県)榧(カヤ)の盤の話は残念でしたね。中国・雲南省の榧でしたか」というコメント(6月5日)は《千葉霞》さん。

森田さんは気象協会に勤めていた約30年前、ボーナスが出た日に将棋盤店に行くと、美しくて香り高い榧盤が目に入りました。価格は60万円でした。大山十五世名人の「将棋を強くなりたかったら、盤と駒は高いものを買いなさい」という言葉を思い出しましたが、懐にあるボーナスは35万円でした。しかし店主からその将棋盤と10万円の駒をセットにして30万円にまけると言われ、思わず買ってしまいました。そして喜んで帰宅したら、奥さんにひどく怒られたそうです。その榧盤を『なんでも鑑定団』の番組に出品すると、専門家の鑑定は何と10万円でした。日向産ではなくて中国産だったのです。でも森田さんは気に入っているので、ぜひ使い込んでほしいですね。

「俳優の森本レオさん(6月2日のブログ参照)はドラマの十津川警部(高橋英樹)のシリーズで、刑事役を長く演じています。撮影の合間には誰彼と将棋に誘っているのでしょうか」というコメント(6月6日)は《田舎棋士》さん。

森本さんは以前、撮影の合間に将棋好きの俳優たちと楽屋でよく指しました。相手は長門裕之さん、花沢徳衛さん、小松方正さん、大滝秀治さん、小坂一也さん、荒木一郎さん、石原良純さんなど。その将棋仲間は半数以上の人が亡くなり、森本さんも何年か前に病気になりました。今は楽屋で将棋を指すことはあまりないそうです。

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コメント

森田さんが将棋盤にお金をかけた理由が少しだけわかる気がします。趣味の世界ですから、愉しんで欲しいですね。

 趣味ということで、田丸先生は写真をよく撮られるようですね。現在はどのような環境(機材)で愉しまれておりますか。カメラや写真に対するのめり込みよう、こだわり、また棋士仲間で写真好きの方のお話なども拝聴したいです。

 ゆるりと気ままに、よろしくお願いします。

投稿: スズキ | 2015年7月 5日 (日) 10時13分

田丸先生ありがとうございます。森本レオさんいい役者さんです。でも案外年齢が高いんですよね。お体大切に!森田さんの榧盤はいいと思います。メイドインジャパンは高いです。希少価値だけですよ。沢山ある中国の木でも私もお金があったらほしいです。国宝のお寺の修復材に結構外国産の木を使う時代です。木が、ヒノキの太いのがないようですね。お寺、仏教はそもそも外国由来でした。外国産の木の盤を普及するのもいいのではないでしょうか。将棋に対する先生の見解はごもっともです。

投稿: 千葉霞 | 2015年7月 5日 (日) 11時04分

奇病に罹り、しかも不運が重なって若くして逝かれた山田九段、子供の頃からの重い病を克服して棋士になったが若くして逝かれた村山九段、お二人とも死の寸前まで「生きて将棋を指したい」と思っておられたはずです。田丸先生のご意見に全面的に賛同します。田丸先生はいつまでもお元気で棋界に貢献なさって下さい。

投稿: オヤジ | 2015年7月 5日 (日) 23時03分

漫画『あしたのジョー』に登場するボクサーの力石徹、真剣師の小池重明さん(元アマ名人)の評伝。確かにどちらも画像や文章的にはよかったです。でもやはりフィクションが混ざっているのではないでしょうか。漫画は当然フィクションそのもので感動そのものですね。小池さんの真実はなかなか知りえないところでしょうが、表現されたもの(文章も映像も)がベストなところなのでしょう。これも歴史の一つになっています。そして、現代の棋士の勝負前後はというと田丸先生のおっしゃる見解が一番分かりやすいです。やはり、現代棋士もある種命がけの勝負の毎日です。勝てば官軍と古い表現ですが、プロの勝負ごとは勝ってナンボの世界ですから、プロになるのも「介護士からプロへ」の先生ではありませんが、並大抵ではなれません。またそこから頂点目指すのもたやすくはありません。これはどうみても「命がかかって」います。時代が変わって棋士をとりまく環境が良くなっても「天才たち」のしのぎ合いは傍から見ていては分からない大変過酷な世界でしょう。奨励会退会がその垣間見ることのできる現実でしょうか。

投稿: 囲碁人 | 2015年7月 7日 (火) 12時22分

やはり田丸先生はうんちくがありますね。棋士人生はできるだけ長い方がいいです。ただ「腕前」が落ちてくるのは否めない(以前引退問題の時意見殺到?)のは仕方のないことなのかどうか?分かれるところですね。それも許容範囲でしょう。できればあまり腕前が落ちたりしないでほしいと思うのですが。「欽ちゃん」の大学受験の苦労話がYVでありましたが、年取ると覚えようとする気力(勉強)が相当弱くなるようです。70歳過ぎですので大変な努力をされたようでした。将棋もそうだろうと思います。脳生理学者の茂木先生も、記憶自体は脳にあるのだがそれを引き出すことが出来なくなるのではないかといわれました。「腕前」が落ちるのはこのような原因があるようです。これらを衰えないようにする工夫もあるようですが、個人によって様々のようです。50、60、70歳台の棋士先生も毎日将棋盤に向かって努力されている姿が浮かびます。将棋人生まっしぐらをまっとうしてほしいです。

投稿: 田舎棋士 | 2015年7月 8日 (水) 12時38分

いつも興味深く拝見しています。今回のテーマと違うのですが前回の聞きそびれてしまい、ここで投稿します。
「叡王戦」の称号ですが、優勝者が「第1期叡王」、つまりタイトル保持者となりますか。その後ソフトと「電王戦」を戦い、2勝や1勝1分けで「第1期電王」となりますか?負けても「叡王」を名乗りますか?また「電王戦」は公式戦でしょうか。エキシビジョン?
田丸九段、また詳しい方がいれば、教えてください。

投稿: 見る将棋ファン | 2015年7月 8日 (水) 17時11分

はじめまして。
田丸先生のブログを拝見して4~5年経ちますが、初めてコメントします。
私は将棋歴20年ほどになります。1996年当時からNHK杯で田丸先生の将棋を拝見して、型にはまらない自由な指し手により一層将棋が好きになるきっかけをつくっていただきました。現在でも当時のVTRを保存していますが、日浦市郎さん、中田宏樹さん、らの対戦が記憶に残っています。日浦さんとの一戦は、感想戦で最後詰む詰まないで、そちらの方が興味深く、棋譜をとって私自身も盤に並べて調べた記憶があります。

本題なのですが、最近少し勉強しようと思い、「羽生の頭脳3急戦中飛車・三間飛車破り」を読んでいます。本文p221に羽生善治さん×加藤一二三さんの実践譜が掲載されています。最終盤(本文ではD図の局面)で先手玉が詰んでいると記載されていたのですが、詰み手順までは記載されていませんでした。一応詰むかどうかやってみたのですが、私の力ではどうにも解けませんでした。恐縮ですが、田丸先生に回答を教えてもらいたいのですが、いかがでしょか。

今回のブログ内容とは関係ないのですが、是非見解をお聞かせ願えないでしょうか。よろしくお願いします。

投稿: 自休自足 | 2015年7月 8日 (水) 22時35分

羽生先生の本の解答を聞いていますか?最近の棋士先生の本は読まないので内容は分からないが、もっと頑張ってみてはどうかな。すぐにギブアップではもう20年将棋の勉強をしてくださいといいたくなります。ちよっと厳しいかな?このブログを拝見していてはじめてですね、こんなのは。せめて田丸先生の本の分からないところだといいのだが(私見)、私も東京さんと同じで、羽生先生に勇気を出して聞かれた方がよりいいかも知れません。返事には時間はかかると思うけれど、羽生先生も喜ばれると思います。

投稿: 将棋九段 | 2015年7月10日 (金) 12時32分

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