将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2015年5月15日 (金)

5月5日で65歳の前期高齢者になった田丸の1年後の引退への思い

私は5月5日に65歳となりました。誕生日には自分の親に感謝の思いを伝えるのが親孝行といいます。ただ母親の昭子(88歳)は耳が遠いので、同居する妹の一美(63歳)を通じて「元気に過ごしているよ」と電話で連絡しました。母親は認知症とは無縁で、とてもしっかりしています。4月に妹、孫の夫婦、ひ孫など4世代の家族が集まった母親の米寿のお祝いの会では、中華料理のコースをぺろりと食べていました。息子にとって、母親が元気でいるのは何よりの安心です。その母親から「お酒を飲みすぎて体を壊さないように」と、会うたびに言われます。息子が初老になっても、やはり心配なのでしょう。

65歳になって、介護保険証と老齢基礎年金などの手続きをする通知書が届きました。それ以外は日常生活で別に変化はありません。いわゆる「前期高齢者」の仲間入りをしたわけですが、日本は4人に1人が65歳以上の高齢化社会なので、周囲には同年代の人が多くいて年を取った実感はありません。日本人男性の平均寿命は80歳と高いです。しかし長く生きることよりも、健康に生きることが大事だと思います。

17年前の1998年に村山聖九段が29歳で早世したとき、私は過去30年間に亡くなった棋士のことを調べてみました。その人数は67人で、年平均で2人でした。棋士総数が100人台半ばの団体として決して少なくありません。平均享年は69歳で、世の平均寿命より10歳も下回る69歳でした。じつは長生きした棋士はけっこう多かったのですが、病気で早く亡くなった棋士もいて、平均寿命を下げる結果となったようです。

今年の1月に78歳で亡くなった河口俊彦八段は、その直前まで精力的に文筆活動をしていました。2月に95歳で亡くなった丸田祐三九段は、数年前まで元気な様子でした。棋士の平均寿命は決して高くありませんが、自立した生活を過ごせる「健康寿命」は低くないと思います。

現在、約60人の引退棋士の中で、70代と80代は約10人ずついます。いずれの棋士も元気のようですし、認知症になったという話も聞きません。頭を使う、指先を使う、普段の生活で時間が自由など、棋士は長命になる環境にいると思います。私も日々の「アルコール消毒」をほどほどにして、「盤寿」(盤の升目の数と同じ81歳のお祝い)までは元気に暮らしたいと念じています。

来年3月で引退が決まっている私に対して、「それを待たずに引退されてはどうでしょうか」というコメントが以前にありました。私が今年2月の竜王戦の対局で1手詰めの詰めろを見落としたり(3月1日のブログ参照)、長年の不勉強はトーナメントプロとして失格だという厳しい意見でした。

率直に言って、かなり耳が痛いですが、それを認めざるをえない現実(成績不振)があります。じつは2009年にフリークラスに転出したとき、満期を迎える16年の前に引退する考えはありました。引退後の生活設計のめどが立ったらという前提です。私の場合は文筆活動のことです。著作を出したり、将棋雑誌に評論を書いたりして、それなりの文筆活動を今まで続けてきました。しかし私が思い描く文筆活動の展望がなかなか開かれず、引退による減収分との兼ね合いもあって、決断できずに現在に至っています。

引退しても、対局以外の役割と仕事はあります。対局で活躍する現役棋士と、仕事で適切な棲み分けができれば、引退棋士の収入は安定して励みにもなります。しかし将棋連盟から依頼される審判・解説・出演・指導などの仕事は、現役棋士が優先されがちです。大方の棋士はそんな現実を見ているので、順位戦のC級2組に降級点3回で降級するまで在籍したり、フリークラスの在籍期限まで現役棋士を続けるのです。

私はあと1年間の公式戦で9棋戦・10対局の機会があります(竜王戦はランキング戦と昇級者決定戦に出場できます)。この対局数は全敗の場合です。少しでも勝って対局数を増やし、自分の持ち味を出した将棋を指したいと思っています。

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コメント

ふとしたきっかけで、田丸先生のブログを読み、愉しみにするようになりました。真摯な解答や、ご意見に勉強させていただいております。
 引退の件も、胸に響きました。人それぞれの事情は、普通の会社員と変わらないことも知りました。規定ギリギリまで現役で頑張って欲しいです。
 そして、引退後も(その前でももちろんいいです)地方を回って指導でアマチュアを愉しませてください。わたしの町にも是非きて欲しいです。若い棋士と年配の棋士の組み合わせは、話も弾んでとても面白かった記憶があります。
 
 あと、あまりにも若くして引退に追い込まれるのはかわいそうな気がします。せめて、五十五才くらいまで残れる仕組みをみなさんで考えてもらえないものでしょうか。よろしくお願いします。

投稿: すずき | 2015年5月15日 (金) 19時52分

自ら潔く辞めるのがプロであれば、最後の最後まで精一杯踏ん張るのもプロだと思います。
田丸先生は後者を選ばれたのですから、引退までの対局を精一杯の気力で指して下さい。
私たちアマチュアは気迫あふれる対局を望んでいるのですから。
引退まで1局でも多くの対局ができる様、期待しています。

投稿: Yoshiya | 2015年5月15日 (金) 20時17分

田丸先生頑張りましょう!気力、体力、闘志を存分に出し切りましょう。とかっこいいこと言い過ぎました。あらゆる面で衰えはありましょうが、ここまで頑張れるところを若手に見せてあげましょう。若いのが勝てて当たり前、今勝てなくてどうするですね。潔く辞めるとは?最後までやり通すのも潔いのではないか!将棋棋士は、その先死ぬまで将棋(棋士)人生なのですから偉大です。ややもすれば「やくざな稼業」と揶揄されていたのもそう昔の話ではありません。でも、今や健全なスポーツの一翼です。最高峰にプロがいるという、他のスポーツと同様です。競技人生が長いのも5指に入ります。あと一年、その時田丸先生は(号泣)…いや、なさそう、ほろり(* ̄ー ̄*)

投稿: 千葉霞 | 2015年5月17日 (日) 11時57分

私が子供のころ、田丸先生となっちゃん先生のNHK将棋口座を拝見していたのでなんか切ないですね。あと10ヶ月くらいで引退ですか。
大山先生のように亡くなるまでA級というのは、一握りのスーパースターしか出来ないですよね。中原先生でさえ、そうはいかなかった。谷川九段もこのところあまり勝てません。
大名人の羽生名人だってあと20年連続でA級以上(名人を含む)出来るのかと考えると、かなりハードルが高いかもしれません。

田丸先生のブログを拝見して、プロ棋士として恥ずかしくない棋譜を残すという想いもあるでしょうし、対局料という生活の糧も必要。色々な考え方がありますが、正直に露呈して下さる田丸先生に敬意を表させて頂きたいです。

あと何局指せるのかは勝ち方次第でしょうが、これからもプロらしく「会心の棋譜」である会心譜を残して頂きたいです。ポカが出てポッキリ負けてしまう棋譜もあるかもしれませんが、それは誰でもあります。
でもあと10ヶ月くらいなので、もう一度勉強し直して頂いて「これぞ田丸先生!まだ引退は早いですよ」と感じさせるような会心の棋譜も、何局かは残して頂きたいです。


話は変わって王位戦の仕組みがややこしくなりましたね。3勝2敗タイと4勝1敗タイでは決定戦になる・ならないなど、ややこしいですね。
木村八段は広瀬八段に直接で勝っていて、3勝2敗なのに来期リーグの残留も出来ないなど、なんか前のほうが良さそうに思うのは私だけでしょうか…。

投稿: ヨッシー | 2015年5月19日 (火) 01時53分

田丸先生の世代は、ベビーブームの時代でしたでしょうか。団塊の世代でもありましたね。今は少子化で子供が少なく、年金が云々されてはいます。でもそれは言うだけで、厚生労働省あたりがしっかりしていれば何の心配もないのです。しっかりしていないよといわれますね。各棋士もたくさん税金払われていると思いますので個人差はありますが、年金で何とか暮らせます。引退後も確定申告は毎年してください。住民税や保険証(国民健康保険であれば)の額に反映されます。言わずもがなですね。役所OBなのでついついです。天下りはしませんでしたので、節税第一です、私は。このブログを中心に楽しんでいます。先生の強かった頃覚えていますよ(賛同者多数?)( ^ω^ )

投稿: 囲碁人 | 2015年5月19日 (火) 15時38分

すずきさんの意見に賛成です。ルール上仕方がない現状ですが、先日は某棋士さんが30代で引退をされていました。本人都合なら未だしも、規定では残念です。引退問題でコメントが荒れたのを思い出しました。ケースは違いますが、昨今の定年時期が60歳から段階的に65歳までと官庁などでは行われつつあります。今は再雇用や非常勤での5年間というのが多いのですが、やはり年金が出るまではという措置でしょうか。棋士さんには前記の再雇用などは当てはまりませんが、現行ルールを改正し、C2からフリークラスに降級し、現行規定で引退ですが、これ以降60歳を目途に給与半減(公務員はもっとやすく、仕事量は同じ)以下で棋士を続けられる制度改正はどうでしょう。先生はこちらの委員でしたのでご検討をお願いしたいです。50歳位から引退は宣言できる項も入ればいいのかもしれません。あと、退職金はないのでしょうか?棋士として退職金あての積立金をされてはいないのでしょうか。(あったら余計なことでした)こもごも、宜しくご検討ください。

投稿: 東京散歩人 | 2015年5月20日 (水) 15時48分

引退といえば、熊坂五段が38歳の若さで引退されました。残念ですが勝負の世界である以上、規定に則って引退となるのは仕方ありません。
ところでその引退規定について、一部の人間が誤った解釈をして誤解を広めていたことがあります。
http://www.shogi.or.jp/kisen/junni/kitei.html
フリークラス棋士の引退規定によれば、フリークラス陥落後10年以内に4条件のいずれかを満たさなければ引退となり、4月1日に引退を発表され未対局の棋戦を消化した時点が引退日となります。ただし順位戦以外の棋戦について、条件を満たしていれば当該棋戦のみ継続することが出来るとあります。
http://www.shogi.or.jp/topics/2010/07/post-307.html
しかしある観戦記者が、熊坂五段が竜王戦の昇級者決定戦で5連勝をした場合、『「良い所取りで、30局以上の勝率が6割5分以上」のC級2組昇級規定を満たします。』とツイッターで述べ
https://twitter.com/ginnan81/status/579817202632630272
一部新聞でも10年を経過したあとに昇級者決定戦で5連勝できた場合に順位戦復帰可能と取れる記事が報道されました。
これらは引退規定を単に誤解しただけと思われますが、一部の人間は「発表されている引退規定以外の内規があって、10年経過後でもC2復帰可能なケースが有る」と主張しています。
田丸先生は以前にブログで引退規定の記事を書かれていたのでお詳しいと思いますが、熊坂五段がもし竜王戦の昇級者決定戦で5連勝していた場合、順位戦C級2組に復帰することが出来たのでしょうか。その場合は発表されている引退規定と矛盾が生じますが、発表されていない特別な規定が存在するのでしょうか。

投稿: 駒田少佐 | 2015年5月22日 (金) 12時46分

棋士にとって引退は結構厳しいようですね。いわゆる定年ですから、その先の生活設計を考慮しないといけないといわれる田丸先生の言は至極当然です。特殊能力を持っている集団の将棋棋士でも、それ以外の才能がないとやっていけないのはそのとおりです。ですから、フリークラスなどで年月を切られた場合には、貯蓄や自分の可能性を見つめ直す時間になるのでしょう。奨励会退会後、アマで活躍されたり、文才を生かした記者さん的なことをされている方もおられます。つまるところ、ある時期を決めて、人生設計なのでしょうね。棋士だけにいえることではないです。世の中厳しいです。幾つになっても!さて、先生の来年が楽しみです。グループ田丸など結成して、将棋運営コンサルタント的な連盟の諮問部門を立ち上げていたりするかも知れません?

投稿: 田舎棋士 | 2015年5月23日 (土) 13時10分

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