将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2015年3月24日 (火)

NHK杯戦の橋本八段、四段時代の糸谷竜王など、公式対局での棋士の反則

NHK杯戦の橋本八段、四段時代の糸谷竜王など、公式対局での棋士の反則

3月8日(日)の午前11時45分頃。私がNHK・Eテレにチャンネルを回すと、NHK杯戦準決勝の行方尚史八段(先)―橋本崇載八段)の対局の感想戦が行われていました。だいたい局後の表情は、勝者のほうが険しく、敗者のほうが穏やかになるものです。しかし両対局者には和やかな雰囲気があり、その時点で勝敗はわかりませんでした。翌日の9日、新聞に橋本八段が「二歩」の反則を犯して敗れたという記事が載りました。数日後には週刊誌にも記事が載りました。

写真・上は、橋本八段が△6三歩と反則の二歩(6七にも後手の歩がいます)を打った局面。

新聞と週刊誌の記事によると、次のような状況でした。橋本八段は中盤の92手目で持ち時間を使い切り、1手30秒の秒読みに追い込まれました。序盤から中盤のミスが響いてすでに苦しい形勢となり、挽回の一手が見当たらない局面で、とっさの判断で指したのが△6三歩でした。その瞬間、相手の行方八段が「あっ」と声を上げ、少しして気がついた橋本は頭を抱えました。そして「すみません、失礼しました」と謝りました。

NHK杯戦の準決勝に初めて進出した橋本八段は、初優勝をめざしてその対局に和服姿で臨みましたが、とんだ結果となりました。しかし「今後の目標は、もちろんNHK杯戦で優勝することです。絶対に借りを返します」と語り、リベンジを誓いました。

NHK杯戦の橋本八段、四段時代の糸谷竜王など、公式対局での棋士の反則

2007年4月17日に行われた竜王戦・糸谷哲郎四段(先)―戸辺誠四段の対局の中盤の局面。戸辺四段が△7八角成と飛車を取って王手をかけました。糸谷四段は▲同玉△3八飛▲8七玉と逃げる手順を読んでいるうちに、盤面と頭の中の読みがごっちゃになってしまい、▲7八同玉と馬を取って駒台に角を載せると、そのまま▲8七玉と上げたのです。その瞬間、相手の戸辺と記録係の船江恒平三段(現・五段)は、いったい何が起きたのかすぐにわからず、キョトンと顔を見合わせたそうです。結果は、糸谷が二手指しの反則負けとなりました。

糸谷竜王は、四段時代から「怪物」の異名がついて大物の雰囲気がありました。反則もこのようにじつに豪快でした。大学に通学して哲学を専攻し、頭の回転がすごく速かったのですが、そそっかしい一面がありました。奨励会時代には、取った駒を相手の駒台に置くという珍しい反則負けを犯しました。

NHK杯戦の橋本八段、四段時代の糸谷竜王など、公式対局での棋士の反則

1978年7月6日に行われたC級1組順位戦・高田丈資六段(先)―青野照市五段の対局の中盤の局面。青野五段が角取りに打った△7六歩は反則の二歩(7一に後手の歩がいます)でした。当時五段の私も同じ部屋で対局していて、そのときの光景はおぼろげな記憶がありますが、少し異様な雰囲気が漂っていました。というのは、青野の△7六歩は「着手」したのかどうか微妙だったようです。駒を盤に置きかけて反則と気がつき、元の局面に戻すことは時としてあります。セーフかアウトかの分かれ目は、「指が駒から離れた」かどうかといいます。青野が記録係に「時計を押した?」(ストップウオッチを押せば着手となります)と尋ねると、記録係は困惑した様子でした。やがて相手の高田六段が「指したように見えたけど…」とぽつりと言うと、青野は自分の反則負けを認めました。

これと同じような例は、アマの大会でも起きうることです。「反則だ」「まだ指していない」と、もめることもあります。ただ勝負では、潔さがやはり大事だと思います。

青野五段はC級1組順位戦の初戦に反則で敗れましたが、その後は気持ちを切り替えて奮起しました。9連勝してB級2組に昇級しました。9戦目に昇級候補の棋士に勝つと、その時点で私の昇級も同時に決まりました(田丸の最終成績は7勝3敗)。

今年の3月22日に行われた「電王戦ファイナル」第2局(永瀬拓矢六段―将棋ソフト『Selene』)では、終盤で永瀬六段の△2七同角不成の王手に対して、ソフトが放置して反則負けになる結果となりました。ソフトの設定に問題があったようですが、成でも不成でも王手に変わりはないので、なぜそうなったのか不思議です。なおソフトがその王手に正しく対応しても、永瀬の勝ち筋でした。

秒読みに追われたり切れ負け将棋の場合、成でも不成でも同じなら不成と指すことはあります。1秒ほど早く指せるからです。

 

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コメント

やはり田丸先生です。現場の棋士エピソードと反則負けを織り交ぜてくれました。電王戦でも反則が出ました。ところで電王戦でのCPUの指し手が「秒読み」に対して遅かった気がしました。57秒位で「ガチャン」と機械音が鳴り、そこからおもむろに電王手さんのアーム動作が始まり10秒間位かかって指していたように見えました。指しますという合図が機械的になされた時点(あの音)で秒読みも聞こえていませんでした。厳密なところはどうだったのでしょうか?観戦諸兄のご意見も承りたいと思います。私の勘違いであればいいのですが?もし棋士が負けていたら問題になったかも知れません。持ち時間内の秒読みだったのでしょうか?宜しくお願いします。

投稿: 東京人 | 2015年3月25日 (水) 11時00分

電王戦では番組の冒頭でルールの説明があります。
「コンピュータが指し手を決定して、電王手さんが動作を完了させるまでの時間は、コンピュータの消費時間に含めない」
と説明されています。

コンピュータの手番の時は、指し手を確定させた時点で時計が止まります。画面を良く見ていると、記録係の前にあるコンピュータの側の時計の点滅が止まります。

電王手さんが動いて実際に駒を動かし、着手が完了した時点で手番が棋士に移り、棋士の側の時計が点滅を始めます。この時に、電王戦画面の上の手番表示が棋士側に変ります。

この取り決めについては、電王戦公式サイトの「対局ルール」からリンクが貼られているpdfファイル「将棋電王戦FINAL 詳細ルール」
http://ex.nicovideo.jp/img/denou/final/pc/Rules_denousen_final.pdf
の2ページ目の「着手確定について」で詳細に定義されています。

電王戦で、東京人さんが疑問に感じた場面の動画を見ながらルールを読むと理解しやすいでしょう。

投稿: オヤジ | 2015年3月25日 (水) 11時36分

プロの棋士が反則をしてしまう!人間らしい一面でしょうか。今まで言われてもいましたが、ある意味機械製造工場のごとく棋士の養成が行われてきました。全国の天才少年、少女達が集められて…と夢も希望もない評論家ではないので「ちょっとだけ」唸ってみました。将棋大好き、将棋浸りな大きな規模のサークルなのです。人間味は当たり前なことなのです。「2歩」OK、「2度」指しOK。でもやると負けです。頑張ってください。(オヤジさんは相当な将棋通プロですね。何か分からないことはオヤジさんへということになりそうですね)(* ̄ー ̄*)

投稿: 千葉霞 | 2015年3月26日 (木) 11時13分

明日は電王戦。その前に王将戦の今日は二日目でした。どちらも見どころ満載です。オヤジさんは田丸先生?と思わせる回答ぶり!東京人さんがどなたか教えてと声掛けしたので出番となった次第ですね。頼もしい生き字引ですね。「ぼーっと」眺めている小生では駄目ですね。

投稿: 田舎棋士 | 2015年3月27日 (金) 14時26分

電王戦は一部を見ただけでしたが、残念でした稲葉先生が負けるとは?相性なのでしょうか。対戦された棋士の談話に多いのは「練習でもあまり勝てない」的な発言があります。また「強い」もです。勝って言えば「そうですね」。負けて言うと「はい↗(相棒の右京風)」と思わずいいたくなります。いくら研究してもダメなんですね。2局目は反則勝(欠点を知っていた:プログラムに組んでいないこと)。実際は1勝1負1無勝負ではないでしょうか。プログラム不備は分かった時点で指摘した方が「後ろめたさは」無かったと思います(チャンスと思っていた的発言だったような?)。プロ側が大喜びしていたのは少なからずがっかりでした。勝は勝ちですね。この後の対戦で勝利に結びつけるのは相当難しい気がします。将棋の神様が2局目で怒っていなければいいのですが。フェアープレーとはいかないのでしょうか、と思ってしまいました。

投稿: 古代子孫 | 2015年3月30日 (月) 14時56分

王将位は郷田先生が奪取!おめでとうございます。渡辺先生はやや苦手意識があるのでしょうか。さて、やはり電王戦の話題ですが、2局目は違和感がありましたね。プログラムを作った方もまずかったけれど、そのミスを知っていて勝利の一つにされたのはどうだったのかです。将棋の神様云々はそのとおり、3局目はプロ棋士の完敗(稲葉先生)でした。プロにとっては4局、5局は勝ちにいくのは相当難しい対局になりそうです。始まった当初に相当COMとの対局に意見殺到していましたが、「COMは強い」が多く、私見ですが現状も変わっていません。棋士の将棋能力、将棋センスが相当に影響するのではないでしょうか?完全に勝利された先生も強いな!

投稿: 囲碁人 | 2015年3月31日 (火) 17時40分

good
プロの反則負けなどは、通っている道場主(某七段)から聞くのですが、田丸先生の場合だと、e棋譜を使っているので分かりやすいです。
自分もe棋譜が使いたいのですが、あまり棋力が伸びません。。。
それに持っている棋譜が少なすぎるという理由もあります。

投稿: 将棋好き大学受験生 | 2016年8月25日 (木) 21時57分

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