将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2015年3月 6日 (金)

3月1日のA級順位戦の最終戦で名人戦の挑戦者争いは4者プレーオフに

3月1日に行われた「将棋界のいちばん長い日」といわれるA級順位戦の最終戦は、6勝2敗の行方尚史八段と久保利明九段が敗れ、5勝3敗の渡辺明二冠と広瀬章人八段が勝ちました。その結果、行方(2位)、渡辺(3位)、久保(7位)、広瀬(9位)の4人が6勝3敗で並びました。

A級順位戦では、順位下位の棋士から勝ち上がる「パラマス方式」で名人戦の挑戦者を決めます。そのプレーオフ1回戦(久保九段―広瀬八段)は3月5日に行われ、久保が勝ちました。2回戦(渡辺二冠―久保九段)は10日に行われ、16日の3回戦(行方八段―渡辺・久保の勝者)に勝った棋士が羽生善治名人に挑戦します。いずれの棋士も名人戦の舞台は初登場となります。

今年のA級順位戦の最終戦は、「囲碁将棋チャンネル」が朝10時の開始から最後の対局の終了まで昨年に続いて生中継しました。初めて日曜日(昨年までは平日)に行われたので、自宅でずっと観戦した方は多かったでしょう。私も執筆の仕事をしながら、ちらちら見ていました。解説者の棋士の話の合間に、対局者が注文した食事、控室や大盤解説会の光景を紹介して、面白い構成になっていました。ただ注目の対局で大きな動きがあったとき、解説をすぐに切り替えると、もっと良かったと思います。

私が最も注目したのは、森内俊之九段と行方八段の対局です。森内は敗れると降級の可能性があり(前年の名人が降級した前例はありません)、行方は勝つと結果的に名人戦の挑戦者になれました。そんな対照的な勝負は、森内が積極的かつ落ち着いた指し方でリードし、寄せ合いを制して勝ちました。森内は昨年、名人と竜王のタイトルを奪われてどん底の状態でした。今年は、A級降級の窮地を脱したことを契機に立ち直ると思います。

順位戦の最終戦では、昇級・降級に関わる棋士たちに微妙な思いが生じます。例えば、Aが●でBが○だとAが降級する(またはBが昇級する)「4分の1」の確率はよくあります。そんな場合、AはBの勝負がもちろん気になります。しかしAはB(BがAも)の対局を見ない、控室のネット中継を見ない、のが暗黙の決まり事になっています。Bの対局が先に終わっても、原則として周囲の人たちはAに結果を伝えません。以前にA級最終戦で残留が決まった棋士の感想戦では、心配して来た家族の人が伝えたことはありました。

25年前のB級1組順位戦の最終戦は、田丸(大阪で対局)が●で棋士K(東京で対局)が○だと田丸が降級する状況でした。私は深夜の12時頃に負けました。その後に残念会のつもりで関係者と飲みにいくと、「助かって良かったね」と言われて安堵しました。Kの対局は夕方までに終わっていました。私は「もっと早く教えてよ」と苦笑しましたが、良い結果だからこそ伝えられたのです。悪い結果だと周囲は押し黙ったままです。当事者の棋士はそんな空気でだいたい察するものです。

A級順位戦の最終戦で、4者プレーオフになった例は2回ありました。1979年(昭和54年)は、順位上位から森雞二八段、米長邦雄八段、大山康晴十五世名人、二上達也九段が6勝3敗で並びました。そして二上―大山○、大山―米長○、○米長―森という結果になり、米長が名人戦の挑戦者になりました。

1992年(平成4年)は、順位上位から谷川浩司竜王、南芳一九段、高橋道雄九段、大山康晴十五世名人が6勝3敗で並びました。そして大山―高橋○、○高橋―南、○高橋―谷川という結果になり、高橋が名人戦の挑戦者になりました。

大山は91年12月に肝臓ガンの手術を受けました。それから2ヵ月後に対局に復帰すると、A級順位戦で3勝3敗から高橋九段、米長九段、谷川竜王に3連勝して、4者プレーオフに進出しました。まさに不死鳥のように蘇ったのです。しかし、さすがの超人も病気には勝てませんでした。92年7月に現役のA級棋士のまま69歳で死去しました。

過去2回の4者プレーオフでは、最上位の棋士が名人戦の挑戦者になれませんでした。今年はどうなるでしょうか…。

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コメント

今年は東京将棋会館でしたね
去年のようなタイトル戦仕様の旅館対局を恒例にはできないんでしょうか
何年かに一回は関西将棋会館というのもいいですね

投稿: ともっち | 2015年3月 6日 (金) 13時51分

今期の名人戦は楽しみです。さてさて本日までの有名棋士A級とB1を主にピックアップしてみましたが、成績はとてもいいとは言えません。若手にはたくさんいい成績が多いのですが、このランクになると相手も強いので難しい面も多いのでしょうか。しかし、年間30勝して一流棋士とかつては言われていたように思いますが、トップクラスの棋士ではこれを満たしている棋士は少ないですね。全体の好成績順表になると以下の先生方はなかなか残っていません。8割、7割台が上位を占めてしまい若手満載です。対戦相手の違いも多いですが高段、高クラスの先生方には次年度は奮起してもらいたいです。(若手にはあまり負けないでほしいですね:新陳代謝論がまたまた出てくるとうるさいですから)
棋士名 対局数 勝数 負数 勝率  (日本将棋連盟HP)
羽生 善治 54 39 14 0.7358
糸谷 哲郎 38 30 8 0.7895
渡辺  明 35 24 11 0.6857プレーオフ出場
谷川 浩司 31 12 19 0.3871
佐藤 康光 38 21 17 0.5526
森内 俊之 41 15 26 0.3659A級残留(前名人)
先崎 学 25 12 13 0.48
屋敷 伸之 38 20 18 0.5263昇級(A級)
丸山 忠久 39 20 19 0.5128
郷田 真 43 23 20 0.5349
藤井  猛 35 14 21 0.4  降級
深浦 康市 40 24 16 0.6
三浦 弘行 38 21 17 0.5526降級
久保 利明 32 18 14 0.5625プレーオフ出場
行方 尚史 36 21 15 0.5833プレーオフ出場
木村 一基 43 25 17 0.5952
山崎 隆之 33 19 14 0.5758
阿久津主税 29 12 17 0.4138降級
橋本 崇載 33 18 15 0.5455
広瀬 章人 41 27 14 0.6585プレーオフ出場
佐藤 天彦 37 26 11 0.7027昇級(A級)
豊島 将之 52 31 21 0.5962
稲葉 陽  31 22 9 0.7097昇級
A級昇級の佐藤天彦先生はさすが高勝率で他棋戦では渡辺先生にも勝っていますね。若手が昇段されて来るのを待っていることで楽しみとしましょう。

投稿: 田舎棋士 | 2015年3月 6日 (金) 18時26分

A級順位戦よかったですね?の反面どんぐりの背比べと思わぬこともありました。史上3回目だそうですが、過去2回とは粒(失礼)が違う気がしますし、背景も違っていました。森内先生は降級危機なんて成績が3割台では仕方ないかも知れません。名人在位当時の成績並みで今回は本気度が発揮されました。結果的には残留(負けても残留)おめでとうございます。田舎棋士さんの成績一覧はホームでよく見ますが、段位順ですからやや気恥ずかしい先生方もおられるのではないでしょうか。あれを見ると例のクレーマー氏が色々注文を出すのも無理からぬことですね。是非5割は勝たれることを願うものです。棋士なのですから一にも勉強、二にも勉強(三四が以下は省略)されてください。クレーマー氏的には「これでは退職勧告」ですね。そうは望まない多くのファンのためベテラン棋士先生方には昇級目指して、名人目指して(大山名人のごとく)収斂著しくを望みます。皆さん頑張ってください。scissors

投稿: 散歩人 | 2015年3月 7日 (土) 10時16分

将棋界でも囲碁界でも「段位」は「現在の強さ」を表すものではなく「どこまで行けたか」を示すものです。

将棋界の場合、順位戦のクラスが「現在の強さ」を表すものとしてはっきり存在し、順位戦C2を維持できなければフリークラス入りして収入が大きく減り、一定年数で引退となります。将棋界のシステムは十分に合理性があると思いますよ。大山十五世や加藤先生や羽生名人のような「超人」でない限り歳を取れば棋力はどんどん落ちます。

青野先生、中川先生、島先生のように運営で活躍する棋士も必要です。昔で言えば丸田先生、原田先生、西村先生などがそうでしょうか。
将棋世界の今月号で、青野先生が「若い棋士が運営にあまりに無関心で将来が怖い。自分が退く前に、きちんと運営を出来る後輩を育てるのが使命と考えている」と書いておられました。

河口先生、田丸先生、先崎先生、沼先生のように文筆で将棋界に貢献するのもあり。
井上先生、淡路先生、森信雄先生、所司先生のように後進の育成で将棋界に貢献するのもあり。
遠山先生、北尾女流のように自分だけが出来ることで将棋界に貢献するのもあり。

これも青野先生の言葉ですが「棋士は、棋力以外にもう一つ売りを持たなければならない」と言っておられました。

例えば渡辺二冠は、羽生名人と並ぶ棋界最高の棋力を持ちつつ、盤外の活動も活発に行っておられます。常に普及のこと、将棋ファンを増やすことを考えておられます。
日々ブログを更新したり、他の有名棋士とは一線を画す質の高い一般人向けの本を書いたり、軽妙洒脱な解説で大盤解説会を沸かせたり。まだ30なのに良くできた人だと常々敬服しています。

投稿: オヤジ | 2015年3月 8日 (日) 17時13分

順位戦A級のプレーオフも佳境です。渡辺先生は残念でした。羽生先生は一安心ではないでしょうか。一時期の深浦先生相手の時のように渡辺先生にはやや苦手感があるような気がします。とにかく気を引き締めて挑戦者を迎えて欲しいと願うものです。NHK杯の橋本先生はどうしたのでしょう「2歩」でした。驚きです。公式戦テレビ中継では私自身は2度目の遭遇でした。これまた残念な勝負でした。田丸先生、こういった反則負けの例などもし紹介していただけるものでしたらお願いしたいと思います。他にも面白エピソードもありましたら(本が出ているのかな?)一端を紹介してください。

投稿: 東京人 | 2015年3月12日 (木) 13時19分

反則負けについては、田丸先生が以前にブログで詳しく書いて下さっています。
http://tamarunoboru.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-fb86.html

投稿: オヤジ | 2015年3月13日 (金) 10時58分

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