将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2015年3月 1日 (日)

田丸が終盤で簡単な勝ち筋を逃した17歳の増田四段との竜王戦の対局

田丸が終盤で簡単な勝ち筋を逃した17歳の増田四段との竜王戦の対局

私こと田丸昇九段が2月26日に竜王戦・6組ランキング戦で増田康宏四段と対局しました。

増田四段は昨年の秋、5期目の三段リーグで13勝5敗の成績を挙げて1位となり、16歳で四段に昇段しました。森下卓九段の門下で、小学生時代は羽生善治名人などが育った東京・八王子将棋クラブに通いました。

増田四段は棋士最年少の17歳。見た目は一流大学をめざす受験生という感じです。四段昇段後は、島朗九段、橋本崇載八段に勝つ活躍ぶりです。

それにしても、5月には「前期高齢者」になる64歳の高年(田丸)と、17歳の若者が仕事で競い合うというのは、一般社会では稀なことです。ただ盤の前に座ると、年齢差や盤外の諸々のことはあまり考えないものです。

私はいつものように、流行型や定型を外した手将棋に誘導しました。中盤では駒組が圧迫された形となり、苦しい形勢でした。しかし一瞬の隙をついて攻め込み、相手の玉に厳しく迫りました。持ち駒に「あと一歩」があれば、攻めが続く、受けが利く、寄せ切れる状況でしたが、その一歩がなくて負け筋になりました。ところが増田四段がわずか1分で指した寄せの手が疑問で、私に逆転のチャンスが生じました。

それが写真の局面(断片図)です。私が▲3二馬と迫ると、増田四段は△5五角と打って▲2二馬の詰みを防ぎました。この局面で私の持ち駒はありません(相手は桂と歩)。数手前から負け筋と思っていた私は、形作りに▲2四歩△同歩▲1五歩と指すと、増田四段は駒(金銀)を渡さないうまい手順で詰めろをかけ、まもなく私が投了しました。

ところが終局後、増田四段に写真の局面で▲3一成銀と寄せて▲2一馬の詰みを狙われたら「負けでした」と言われてびっくりしました。△1四歩と逃げ道を開けても、▲1五歩△1九角成▲1四歩で相手玉は受けなしになります。

私は40年以上にわたる公式対局で、詰みを逃したりトン死を食って逆転負けしたことは何回もあります。しかし、あれほど簡単な詰めろを逃した記憶はありません。相手の玉から遠ざかる▲3一成銀は少し盲点ですが、プロなら(アマでも)すぐにわかる手です。持ち時間も充分にありました。それなのに、まったく見えませんでした。

増田四段の写真の局面までの数手は早指しで、「もう勝った」という感じでした。それに合わせて、私も負け筋と観念してしまいました。たぶん増田四段も▲3一成銀の詰めろをうっかりしたのでしょう。早めに気がついていたら、私もわかったと思います。両対局者の間で、テレパシーのようなものが行き交うことは時にあるのです。

竜王戦の対局で勝利寸前の局面になって敗れたのはとても残念ですが、あれほど簡単な勝ち筋をなぜ気がつかなかったのか不思議でなりません。

【2月は仕事や用事が立て込んでブログの更新が滞りました。3月からは更新の回数を増やし、様々な情報をお伝えするつもりです】

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コメント

田丸先生、ご無沙汰しました。
最新鋭相手にもう一歩の勝ちを逃されて残念でしたね。私も我が事のように残念です。

長い間の修業の成果を後輩に伝えてください。
今後の文筆活動も期待しております。

投稿: 五平餅 | 2015年3月 1日 (日) 20時15分

負けたとはいえ、大御所の棋士達がそう簡単には折れずに真摯に指している姿は棋譜からも伝わります。まだまだベテランがご健在で嬉しい半面、羽生世代のような脅威的な新星が出てこない近年が残念であります。

投稿: さすがA級経験者 | 2015年3月 2日 (月) 13時21分

A級リーグ最終戦を見ていて疲れました。やっている方はもっとでしょう。先生方ご苦労様でした。行方八段、渡辺ニ冠、久保九段、広瀬八段の4名によるプレーオフと大変な事態です。
「あれほど簡単な勝ち筋をなぜ気がつかなかったのか不思議でなりません」がいいところですね。「何を言っているのか」と思われる方はじっくりお考えください。衰え感は誰しもあるものですが、勝負への執念が感じられる言葉でしょう。まだまだ勝負へのこだわりは十分と見受けました。ちょっとこの分野の専門家的発言をしてしまいました。これからだんだんと脳細胞が老化していきますが、脳を活性化していくことが大事になっていきます。高齢者になってきている諸氏も簡単な脳の活性化を実践してください。ちなみにテレビを見ている時はあまり脳は活動していません。文字を読む時に声を一緒に出すのがいいですね。また、歌を歌う・両手も使う・両足も使う、ダンスしながら歌うことです。周りが気になり、恥ずかしいですが、居間で10分間位で済みます。どうでしょうか。場所柄もわきまえず申し訳ありませんでした。老害さんは嫌な人ですね。反論されそうでなお嫌だな。

投稿: 囲碁人 | 2015年3月 2日 (月) 16時06分

田丸先生もお若いです。ファィト一発の気が十分な残念感ですね。まだまだいけます。ただお若いころに較べて将棋自体の練習時間が圧倒的に少ないのではないでしょうか。将棋一筋から将棋関連事の仕事が増え、いたし方のないことですね。若い世代にはできないことが年季の入った田丸先生にはできます。羽生さん世代でも田丸先生のまねはできません。少し将棋勝負の勉強時間が欲しいところではないでしょうか。今一番頑張ってください!

投稿: 千葉霞 | 2015年3月 3日 (火) 10時21分

老害という言葉を安易に公共の場で使うような人間が偉そうに「引退しては?」等と言えるのでしょうか?そのような人間こそ将棋界には必要ないのではと思いました。

年齢を重ねて棋力と集中力が衰える中で、その変化に合わせて作戦を立てて、立派に戦う姿こそプロ棋士としての価値があるのだと思います。研究将棋が全てではないと思います。
田丸先生は生涯現役の棋士であり続けて頂きたいと思います。

投稿: 24歳大学院生 | 2015年3月10日 (火) 11時13分

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