将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年12月 9日 (火)

26歳の糸谷哲郎・新竜王の誕生と、41歳の今泉健司さんがプロ編入試験に合格

12月3・4日に行われた竜王戦(森内俊之竜王―糸谷哲郎七段)第5局で、26歳の挑戦者の糸谷七段が勝って4勝1敗とし、初タイトルとなる竜王を獲得しました。同時に八段に昇段しました。

森内竜王は第4局に続いて、第5局も勝ち将棋を落としました。そのような逆転が起きた背景には、不利な形勢でも粘り強い受け方で決め手を与えない糸谷七段の独特の勝負術があったと思います。

第5局では角換わり腰掛け銀の戦型から、糸谷七段が穴熊に玉を囲いました。森内竜王が穴熊をじかに攻めると、糸谷は自陣に銀を連打して徹底的に受けました。終盤では4枚の銀で穴熊の玉を守るという珍しい局面も出現しました。糸谷がそうして頑強に守っているうちに、森内が寄せを誤ってついに逆転劇が起きたのです。

糸谷・新竜王は2006年の新四段時代、才気あふれる将棋の指し方や堂々たる言動から「怪物くん」という異名がつきました。一方で大阪大学に入ってハイデッガー哲学を専攻し、卒業後は大学院に在籍して学問を深めています(現在は将棋に専念するために休学中)。対局中にたびたび席を外して廊下を歩き回ることが話題になりますが、それも冷静に局面を考えたり自己の内面を見つめる「哲学者」ならではの独自の行動なのでしょう。

今泉健司さん(朝日アマ名人)が臨んでいる「プロ編入試験」第4局が12月8日に行われました。今泉さんは石井健太郎四段に勝って3勝1敗とし、5局の試験対局に勝ち越した結果、プロ棋士になることが決定しました。41歳の新四段は最年長記録です。

今泉さんは14歳で奨励会に入って棋士をめざし、三段時代に25歳の年齢制限規定で退会しました。その後、アマ棋界に転じて大活躍しました。しかし棋士になる思いを捨てませんでした。2007年には特例の奨励会入会試験に合格し、三段リーグでまた戦いました。しかし規定の4期以内に四段に昇段できず、2回目の退会となりました。そして今年、特別参加したプロ公式戦で「10勝以上で6割5分以上の勝率」という基準を満たして、プロ編入試験の受験資格を得たのです。

今泉さんが自身の人生をかけたプロ編入試験は9月から始まり、幸先よく2連勝しました。しかし試験前にある棋士が「合格の確率は第1局で勝って3割、第2局で連勝して5割」と語ったように、合格に王手をかけてからが大変です。実際に第3局で敗れましたが、プレッシャーがかかった第4局で見事に勝ちました。

12月8日の夜、NHKがニュースで今泉さんの合格を報じ、今泉さんの地元の広島県福山市の介護施設の職員の人たちが万歳する光景を放送しました。じつは今泉さんは4年前から新たな人生として、資格を取ってその介護施設で働いていたのです。

今泉さんはプロ編入試験に際して「すべての人たちに感謝したい」と語りました。それには「今泉さんを応援する会」を立ち上げて公私にわたって支援した人たち、対局に出かける今泉さんを送り出してくれた職場への人たち、などへの感謝の念が込められていたようです。

今泉さんは2015年4月1日付で四段のプロ棋士となり、フリークラスに編入されます。規定では、10年以内にC級2組に昇級できないと引退に追い込まれます。しかし将棋への熱き思いと、今までの人生で経験した不屈の精神(本人はゾンビのようだと冗談で言っています)を発揮し、きっと良い結果を出すことでしょう。

ちなみに、プロ編入試験、奨励会三段リーグで次点2回でフリークラスに編入された棋士がC級2組に昇級した例では、伊奈祐介六段が約3年、瀬川晶司五段が3年半、吉田正和五段が2年4ヵ月、伊藤真吾五段が4年半、それぞれかかっています。昇級をめざしている渡辺大夢四段は2年目に入っています。

今年は年末になって、26歳の若きヒーローの糸谷・新竜王の誕生と、41歳の勤め人の今泉さんがプロ編入試験に合格したことで、社会的にも話題を呼びました。2人の今後のさらなる躍進に注目しましょう。

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コメント

糸谷哲郎・新竜王の誕生と、41歳の今泉健司さんがプロ編入試験に合格!誠におめでとうございます。将棋界に久々に明るいニュースでファンとして大変喜ばしいことです。糸谷さんのマナー?に心配気味の諸先輩方心配無用。ぜひ盛り立ててほしいですね。今泉さんはガッツですね。41歳とは思えないほど「さわやか!若い」ですね。惜しむらくは即C2になれないことですね。今後は飛付き5段などの懐の深さを期待したいものです。とまれ、おめでたいできごとの連続でした。

投稿: 囲碁人 | 2014年12月10日 (水) 11時57分

糸谷哲郎先生、竜王位獲得おめでとうございます。今泉健司さんプロ編入試験合格おめでとうございます。どちらもBIGニュースです。糸谷先生は強いですね。森内先生がひっくり返されて敗北、格が違うまで行かなくてもそれに近い思いがしました。名人戦の敗北が尾をひいていそうですね。また鉄板流の復活を期待しています。今泉さんは苦節27年でしょうか頑張り屋さんそのものですね。将棋連盟もありがたいファンの登場ですね。お二人の今後が益々楽しみです。

投稿: 千葉霞 | 2014年12月10日 (水) 14時12分

田丸先生こんにちは。
話題は違いますが、NHK講座テキストを拝見しました。
櫛田さんの「田丸先生の弟子で良かった」という文面はなかなか熱かったです。櫛田さんとはお会いしたことは無いので想像ですが、不器用な方なのでしょうか。

田丸先生の当ブログでも書かれていましたが色々なエピソード(NHK杯で寝坊し遅刻して2人で謝った、四段昇段後に酔っぱらい過ぎたなど)や文面の言い回しなどからそのように感じました。
すごく将棋の才能のある方だったのに、家庭の経済的理由で出遅れたのは痛かったですね。でも田丸先生が目にかけていらっしゃったからプロになれたとも言えるのではないでしょうか。経済的な理由で断念する少年少女を救済することは、今後の連盟の課題なのかも知れません。


もう1点。棋王戦の挑戦者決定トーナメントですが、本割で▲羽生名人が△佐藤康光九段に勝ちましたね。佐藤九段対深浦九段との勝者が羽生名人と決定戦を戦いますが、また振り駒をしますよね。
毎年思うのですが、決勝2番勝負の第1局は佐藤九段か深浦九段が先手、もし第2局があれば羽生名人が先手になれば良いのにな、と思います。

どちらのファンとかではなくて、なるべく平等にして欲しい気持ちなのです。もし佐藤九段が深浦九段に勝ち、決勝2番勝負の振り駒で全て羽生名人が先手番を引くと、さすがの佐藤九段でも後手番で連勝は簡単ではありません。
確かに本割での勝者と敗者復活の勝ち上がりのハンディキャップだと思いますが、「振り駒」ならぬ「不利駒」になってしまうので、毎年「なんとか均衡が取れないかな」と思っています。

投稿: ヨッシー | 2014年12月11日 (木) 12時35分

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