将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年9月 7日 (日)

持将棋の規定についてのコメント、持将棋模様の小林九段―今泉アマの対局

8月14日のブログで「持(じ)将棋」をテーマにしたところ、その規定について、次のような内容のコメントが寄せられました。

「プロ(24点法)とアマ(27点法)でルールが統一されていないことはおかしい。そもそも24点という根拠がよくわかりません。1局で勝負をつけるほうがわかりやすいので、プロも27点法を採用すべきです」というコメント(8月17日)は《と久米希望》さん。「27点法では、勝負決着の可能性は高くなる半面、持将棋に至る手順は長くなる傾向が予想されます」というコメント(8月18日)は《好俗手》さん。「正確に持将棋の場面を作るまでもなく、両対局者に持将棋の意思があれば、立会人の裁定で持将棋にできないものでしょうか」というコメント(8月23日)は《千葉霞》さん。「先人の検討されたルール(24点法)は的確ですね」というコメント(8月24日)は《囲碁人》さん。「持将棋が入って3勝3敗で第8局までもつれ込んだ場合、再度の振り駒はするのでしょうか」というコメント(8月28日)は《popoo》さん。

江戸時代に「入玉になると見物碁にたかり」という川柳があり、昔から持将棋は不人気でした。現行の24点法の規定が決まったのは、たぶん昭和初期の時代でしょう。その根拠は私もよく知りません。《囲碁人》さんのコメントのように、先人がいろいろと検討した末の的確な点数だと思います。だからこそ、今日までずっと改定されませんでした。

プロとアマで持将棋の規定が違うのはおかしい、という見方は確かに正論ですが、アマが特別ルールを設けることもあります。草野球の大会の試合を例に挙げると、一定時間がたって同点だと、「無死2・3塁」の設定から点を多く取ったほうのチームが勝ちというケースがよくあります。これは大会進行上の措置によるものです。将棋のアマ大会でも、プロと同じ持将棋の規定にすると、進行上で不都合が生じかねません。

持将棋が成立する条件は細かく決められていますが、両対局者に持将棋の意思があれば、話し合いで持将棋にすることは可能です。今期王位戦(羽生善治王位―木村一基八段)第3局では、双方が入玉した状況で木村の点数が足りるかどうか微妙でしたが、羽生が持将棋を提案すると、木村が了承して成立しました。

王位戦第3局の持将棋は羽生が先手で、第4局は木村が先手でした。第5局は羽生が先手でした。持将棋は1局とみなし、先手・後手は入れ替わりました。そして3勝3敗1持将棋で第8局にもつれ込んだ場合、通常どおり最終局は振り駒で先後を決めます。

ただし千日手になって同日に指し直した場合、指し直し局は先後は入れ替わりますが、次の対局の先後は第1局からの順番で行われます。2010年の王位戦(深浦康市王位―広瀬章人七段)第5局で千日手になると(先手は広瀬)、指し直し局は深浦が先手で、第6局も深浦が先手でした。つまり番勝負では、千日手の有無にかかわらず、最終局までは先後が固定されているのです。この規定は何年か前に決まったもので、以前は千日手のたびに先後が入れ替わりました。

持将棋の24点法と27点法の是非について、私の見解を求めるコメントがありました。正直なところ、40年以上にわたる公式戦で持将棋の経験が1局もないので、考えたことはほとんどありません。大方の棋士もたぶん同じでしょう。過去10年の公式戦で、持将棋は年間平均で約4局。その比率は約0.15%。この数字では、将棋の本分に影響するような改定(27点法にする)は現実的ではないと思います。

9月3日に朝日杯オープン戦の小林健二九段―今泉健司・朝日アマ名人の対局が行われました。相振り飛車の戦型から今泉アマが攻め込むと、小林九段の玉は中段に逃げ出しました。そして双方の玉が敵陣をめざして持将棋模様になりました。しかし180手目あたりの局面では、小林の点数は16点ほどでした。その後、敵陣の駒を取ったり、金銀(小駒は各1点)3枚で相手の馬(大駒は5点)と交換したりして、小林の点数は増えました。最後は小林が相手の1筋の歩を取れるかどうかの攻防となり、今泉アマが逃げ切って249手で勝ちました。小林九段の点数は規定に1点足りない23点で、持将棋に持ち込めませんでした。

27点法の規定なら、小林九段はもっと早く投了したでしょう。しかし24点法だからこそ、通常の戦いでは見かけない点数の取り合いが繰り広げられ、ある意味で見ごたえがありました。私は24点法のほうが、人間同士の勝負らしいと個人的に思いました。

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コメント

持将棋のルールに関して不思議なのは、24点もさることながら、小駒は歩も金銀も1点であるのに、大駒は5点もの点数が与えられていることです。歩と金銀が同じ価値というのは納得いきませんし、大駒を特別扱いするとしても5点というのは巨大すぎるように思えます。

投稿: 山原コウ | 2014年9月 7日 (日) 21時42分

田丸先生お答えありがとうございます。「今泉アマが逃げ切って249手で勝、小林九段の点数は規定に1点足りない23点」これはマジ勝負だったのですね。「今期王位戦(羽生善治王位―木村一基八段)第3局では、双方が入玉した状況で木村の点数が足りるかどうか微妙、羽生が持将棋を提案すると、木村が了承して成立」こちらは「両対局者に持将棋の意思があれば」と裁定になるんですね。将棋は「持将棋指し直し、持将棋決着」どちらも面白いです。最近は見るばかりですが「将棋は楽しいですね」とつくづく思います。

投稿: 千葉霞 | 2014年9月 8日 (月) 11時49分

私は田丸先生のお考え
「先人の試行錯誤の結果として出来た24点ルールを変更する必要はない。変更しない方が見応えのある将棋になる」
に賛成です。

甲子園の高校野球とプロ野球で、野球の基本ルールは同じでも細部がいろいろ違うのと同じで、アマの将棋とプロの将棋で細部が違うのは何ら問題ないでしょう。

田丸先生の先日の記事を読むまで、持将棋のルールについて深く考えたことはなかったのですが、今回の記事と併せて勉強になりました。

投稿: オヤジ | 2014年9月 9日 (火) 20時38分

今泉アマはのちにブログで、生涯に今後ないかも知れない公式戦での師弟対決という趣旨のことを書いておられました。棋譜中継の端々にも、観戦者でも胸に迫る記述が多々ありました。
先生は櫛田先生や、あるいは師匠の佐瀬先生との対局の思い出はおありでしょうか。いつかご披瀝くだされば幸いです。

投稿: Britty | 2014年10月21日 (火) 17時42分

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