将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年7月15日 (火)

棋聖戦の佐藤和俊六段との対局に勝って1年半ぶりの勝利

棋聖戦の佐藤和俊六段との対局に勝って1年半ぶりの勝利

私は7月3日、棋聖戦の佐藤和俊六段との対局で1年半ぶりに勝利しました。

2012年(平成24年)12月に竜王戦の佐藤義則八段との対局に勝って以来、15連敗もしていたのです。主な対戦相手は、中村太地六段、高崎一生六段(2敗)、千葉幸生六段、永瀬拓矢六段、金井恒太五段、八代弥四段(2敗)、石田直裕四段など、生きのいい若手棋士たちで、大半は完敗の内容でした。昨年12月の竜王戦の武市三郎六段との対局だけはずっと優勢でしたが、終盤で悪手を指して逆転負けを喫しました。

じつは2008年7月から09年2月までも14連敗したのですが、順位戦の対局が含まれていたので約7ヶ月の期間でした。

このたびの1年半という期間は、とても長く感じられました。もしかしたら2年後に引退するまで、1勝もできないのではないかとも思いました。

昨年4月に九段に昇段したとき、八段の新しい名刺を多めに作ったばかりなので、昇段後の対局に勝ったら九段の名刺を作るつもりでした。その予定が延々と先送りされ、仕方なく今年5月に九段の名刺を1年後れで作りました。

7月3日の佐藤六段との対局前日、作戦をあれこれと考えました。佐藤は振り飛車を得意としていて、実戦経験と研究量が豊富です。普通の定跡や流行型を用いては勝ち目はありません。そこで、意表をつくある戦法を思いつきました。

写真は、田丸(先手)が佐藤(後手)の向かい飛車に対して、左銀を中段に進めて▲3五歩と仕掛けた局面。江戸時代からある「鳥刺し」という戦法を真似た指し方です。▲7六歩と角道を開けず▲4八銀も省略して、超急戦を図ったのです。実戦経験がなく研究したこともありません。半ば開き直った気持ちで臨みました。

写真の局面で、△3五同歩なら▲3八飛△2四歩▲3五銀△2五歩▲3四歩△5一角▲7六歩△2六歩▲4四銀△同銀▲同角と攻めるつもりでした。

実戦は写真の局面から、△3二飛▲3八飛△2二角▲3四歩△同銀▲7六歩△4二金▲2四歩△同歩▲3四飛△同飛▲2三銀と、私は飛車角両取りに打って攻めました。

単純で強引な攻めでしたが、佐藤に疑問手が続き、私が優勢になりました。終盤の局面で勝ちを意識すると、久しぶりに駒を持つ指が震えました。やがて勝ちをはやって、寄せで少しもたつきました。しかし佐藤の粘りと反撃を押さえ、ようやく勝てました。

棋聖戦の予選の持ち時間は1時間。当日は午前の1回戦の勝者は、午後に2回戦を行いました。私は1年半ぶりの勝利の余韻を味わう間もなく、午後に佐藤秀司七段と対局しました。結果は、攻めを余されてしまういつものパターンで敗れました。

過去の連敗記録では、1位が野本虎次八段の30連敗(1999年~2002年)、2位は清野静男八段の25連敗(1974年〜75年)。3位は沼春雄七段の23連敗(2003年~06年)。4位は意外にも加藤一二三九段で、1998年(平成10年)11月から99年10月までの1年間に21連敗しました。※コメントの指摘によって、記録を変更しました。

加藤九段は当時、A級に在籍していました。主な対戦相手は、羽生善治四冠(2敗)、谷川浩司九段(2敗)、丸山忠久八段(3敗)、三浦弘行六段、木村一基四段など、一流棋士と若手精鋭でしたが、これほど負け続けたことは驚かれました。なお連敗中に銀河戦で勝ちましたが、現在と違って非公式戦でした。※棋士の肩書はいずれも当時。

加藤には「秒読みの神様」という異名がありました。持ち時間を早めに使い切って秒読みに追い込まれても、瞬時に本手を見つけて難局を乗り切るのが常で、正確無比な早指しは神業といわれたものです。しかし60歳近くになった当時、秒読みでの指し手の精度が落ちて逆転負けを喫することが多くなり、それが響いて連敗したようです。

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コメント

昨今、棋士では高齢者に入ってしまう超ベテラン50歳代半ばから60歳代(70歳代もですね)引退規定ができて現役棋士に前記の年代が少なくなってきていますが、やはり年齢が高くなってくると特別な例を除いては将棋は弱くなるのでしょうか?記憶力や闘志力の減退は出てくるとは思われますが。若い人らでも「何かドツボにはまって」連敗はありましょうが、高齢とともに老化も天才たちの脳に忍び寄ってくるのでしょうか?最近の「谷川先生」は会長としての忙しさを割り引いても負けが多いと思います。あの大山先生のような会長現役は谷川先生には見られません。(いやまだまだ強いよといわれそうですね)田丸先生ご自身の日常はどうでしょうか、若い頃のように勉強漬けではないのは当然でしょうが勝負勘、勝負将棋の闘志力、鮮明な勝負読みなど将棋に向かう気持ち的なものはどうでしょう?もう引退ですか?確か先生が制度改革に携わっていらしたと記憶していますが。また、本当に実年齢でも高齢になられた(引退されている)名棋士の先生方の近況などがほとんど出てこなくなってしまっていますが、いかがされているのでしょうか。田丸先生の久しぶりの勝利にかこつけてこんなことをコメントしてしまいました。やはりおめでとうございます。(連敗は知りませんでした)

投稿: 千葉霞 | 2014年7月16日 (水) 10時15分

加齢とともにキツイのは持ち時間の長い順位戦だと昔習っていたプロの先生に聞きました。
私も50を越えて信じられないような見落としや単純な筋が見えないといったことが多くなりました。
将棋に限らず若い人に勝つのはなかなか大変です。

投稿: こうめい | 2014年7月16日 (水) 19時24分

田丸先生「勝利」おめでとうございます。もう引退ですか残念です。連敗をされていたのは知りませんでした。連勝に向けて頑張ってください。さてさてと、電王戦の「菅井先生のリベンジマッッチ」を19日に行うとのことです。勝ってどうされるのでしょうか?また負けたらどうされるのでしょうか?勝たれても「自己満足」(俺の方が強いのだ!ではどうしようもないですね。負けたら「廃業でしょうか」(少しキツイコメント過ぎましたか)?でもこうとられかねない面もあります。主催者は対戦自体を歓迎こそすれ責任は全くないのですから。イベントとしては最高でしょうね。その昔、囲碁界では「呉清源」(字が間違っているかも)さんが日本の碁界に挑戦というのがありました。専門棋士の最高クラスとの十番勝負です。その前にいろいろ対戦があっての勝負となったと読んだ記憶があります。全勝されたようです。その後は破竹の勢いであっという間にトップ棋士になり日本の碁界の顔にもなったと簡単にまとめてみました。正確には間に様々あったでしょうが。今日のCOM(ソフト)が呉清源さんであり、対戦する棋士たちが日本のプロ棋士のように思えなくもありません。将棋連盟も「ソフト側」になんらかの対応がそろそろ必要ではないでしょうか。相手はアマではありますが、負けていることは事実ですので、「ここで勝てばいい」では可笑しいと思います。対戦結果には結構なリスクがあるということ、アマだから10番させば7割は勝てる(もっと勝率は高い)という昔ながらの言は今のところ通用していません。スポンサー報酬も大事(これはプロの最大の収入原)ですが「安易な」対戦は自重すべきではないかと心配するばかりです。今回勝ってもどなたかのコメントにありました「お付き合い」勝負と言われないような厳格、正式さも求められていると考えます。アマであるソフト製作者は優しい方ばかり、長時間もお付き合いされることに敬意を表します。ソフト側に勝つなとはいいませんが、負けるなとは言いたいですね。賛否両論というか将棋ファンの欄なので「お叱り」が多いことは覚悟ですが、なんか意味のない「リベンジ戦」と言いたいですね。田丸先生申し訳ありません。

投稿: 囲碁人 | 2014年7月17日 (木) 13時10分

昨年度田丸先生が公式戦で1勝も出来なかった事に対してこのブログでは全然触れていなかったので、「もう現役棋士としての対局への情熱は全く無くなってしまったのかな」とさえ思っていましたが、今回の記事を見て少しだけホッとしました。

プロ棋士といえども「公表する価値もない、アマチュアの手本にすらならない酷い棋譜で敗北」することも有るわけで、ブログに自分の対局についての論評を書くのも大変かつ大事なプロ棋士の仕事なのかな、と思いました。

投稿: sadof | 2014年7月19日 (土) 23時25分

ブログで自分の将棋にばかり触れることは確かに必要ないですね。田丸先生の真骨頂は面白将棋話を書かれていることに私は惹かれるわけです。本になる前の、あるいは元ネタのようなたくさんのエピソードの中で公開していないものからサワリを紹介してくれることです。先生が連敗されていて「いや勝ちました」はこれいいネタですよ。「知らなかった」方が意外と多いのも面白いです。贔屓の先生の細かい成績が気になる方も多いでしょうが、案外気にされずに「現在の」動向、活躍(いろいろな面で)を知りたいと思う方が多いかもしれません。ところで「菅井先生」の電王戦のリベンジマッチ残念でした。どなたか(わたしも?)が再戦する意味があるの?的なコメントがありました。手抜きがあるかもというのもありましたが、これは無しでした。COMは本気で勝っていました。「菅井先生」はCOM対戦は相性が合わないかも知れません。力が出せないというか、読み負け(素人感)かなと思いました。もう少し力を付けてから対戦されてはどうかというコメントがありましたが賛成ですね。若手の実力者といってもタイトル挑戦争いまでの力が付いていないとどの若手のグループでの実力なのだろうと考えさせられる。勝率も高いけれど7大タイトルや銀河、NHKは優勝されたの?となり、まだまだ修行がたりませんよとなります。ただし、私は若手の強いのを電王戦に出したらいいと言っていた派ですので連敗は残念です。

投稿: 囲碁人 | 2014年7月21日 (月) 16時05分

菅井先生は、2011年、19歳・四段の時に『大和証券杯ネット将棋・最強戦』で優勝し、「類まれなる成績により・・・五段へ昇段」しています。

菅井竜也四段が五段へ昇段! 2011年8月24日
http://www.shogi.or.jp/topics/news/syodan/2011/08/post_459.html

これは、
日本将棋連盟 昇段規定
http://www.shogi.or.jp/kisen/kitei.html
五段への昇段条件
「全棋士参加棋戦優勝(現状の全棋士参加棋戦は『NHK杯』『銀河戦』の二つ)」
と同等の扱いです。

『大和証券杯ネット将棋・最強戦』は「前年度の成績等で選抜された棋士が出場する、全棋士参加棋戦と同等に扱われる棋戦」です。
同様の棋戦で現存するのが『JT杯将棋日本シリーズ』です。

投稿: オヤジ | 2014年7月21日 (月) 21時47分

オヤジさん「ありがとうございます」。でも、そろそろこの段位で7大タイトルを奪取されるといいですね。トップ棋士A級八段、九段になり活躍されるには羽生先生のごとくこの段位(クラス)でのリーグ入り、タイトル奪取が大事ですね。高橋九段、谷川九段、加藤九段、中原16世名人は早かったです。集中的にタイトル奪取をされていたのは内藤九段、米長先生とほかにもおられますが、こういった先生クラスになれるべく期待してはいます。COMなんぞにカマケテイル場合ではないのでは?2連敗から何かを学ぶかもしれないけれど大山、米長、中原、羽生将棋をオサライする方がどれだけいいか。百も承知でしょうが「電王戦はつまらない」対戦と思うのは私だけでしょうね。人間のマジックや引っ掛け、対戦相手の圧力のようなものが人間将棋の醍醐味でもあり、相当先までの計算からの「不思議な手」ではとまどいが、油断が大きいのではないでしょうか。それこそCOMは「羽生マジック」の連続でしょうか。将棋界の一角を制覇してからの対戦をされるのも一考ではないでしょうか。これは若手、ベテランにこだわりません、「今が旬の棋士先生」の出番です。とはいうものの「COM」将棋は別物ですね。ふとアマ高段者クラスの方が、アマの方が向いているのではないか?菅井先生の対戦ソフトより強いソフトががあるわけですから。「菅井先生」のコメントを承知していないのですが、再再戦されるのでしょうか?3連敗になると「コマ落ち」?升田先生ではないですが「名人に香をひいた男」のごとく「プロ棋士に駒落ちさせたソフト」とは聞きたくないです。もう負けないよと怒られそうなので「菅井先生ファィト」とエールを送ります。

投稿: 囲碁人 | 2014年7月22日 (火) 12時48分

囲碁人さん、お返事ありがとうございます。「全棋士参加棋戦は2つ」と先のコメントで書きましたが『朝日杯将棋オープン戦』が抜けていました。計3棋戦、それに同等に扱われる『JT杯将棋日本シリーズ』を加えて計4棋戦というのが現状ですね。

菅井先生に「棋士相手の棋戦」でもっと活躍して頂きたい、と言うのは私も同感です。同じ若手の俊英である豊島先生や中村太地先生は既にタイトル戦登場を果たしている訳ですしね。羽生・渡辺・森内の三強がタイトルを分け合っている状況は早く解消して欲しいな、とは日頃から思っております。

ただ、今回の電王戦リベンジマッチは結果として残念な結果に終わってしまいましたが、連盟の担当理事である片上先生が「ドワンゴ社から提案があった時はいったん自分の判断で断り、菅井君に話したら『それでやりたいです』と言われて驚いた」と言う常識外れの対局条件「持ち時間8時間、1日指し切り」を敢然と受けて立った菅井先生の意気や壮と褒め称えたいです。

私は土曜昼の対局開始から休憩を挟んで24時くらいまで観戦していましたが、当たり前ですが寝ました。翌朝、起きてみると既に終局しており、タイムシフト再生でAM5時の瀬川先生・貞升先生の解説開始の所から終局までを時間差で観戦しました。

私が暢気に寝ている間も菅井先生はずっと戦っていた訳で・・・「自分で望んだ対局条件だろ」と言えばそれまでですが、やっぱり「偉業」だと思いますよ。

菅井先生は今回と前回のコンピュータとの対局、そのための準備で多くのことを学ばれたはずで、必ずや「棋士相手の棋戦」の成績に表れてくるでしょう。
私も「菅井先生ファイト」とエールを送ります。

投稿: オヤジ | 2014年7月22日 (火) 14時40分

王位戦第2局、羽生先生1敗を受けてでしたが強かったです。長手数でもあり、双方粘りました。木村先生はず~と調子が良くなかったイメージでしたが、今季は羽生先生と同じ位の成績で絶好調(羽生先生の連勝に土を付けました)。次の局以降が楽しみです。それから、プロ試験制度変わったのは知っていましたが、今回今泉さんの挑戦記事で分かりましたのは「合格即フリークラスですが4段」となることです。今泉さん41歳ですからいい改正であったと思います。アマトップクラスですので「ほぼプロ」でしょうからこの制度になったのはいいことです。できれば続くステップが欲しいですね。C2へいきなり張り出しです。フリーはジャンプですね。合格者にさらに5段への挑戦までは欲しいです。合格すればC1でのスタートとはならないかなと(B17段までは可能ではないかとも思いますが?)アマトップは無論のこと将棋ファンへのアピール度としてはいいのではないでしょうか。期待したいです。瀬川さんの時に戻っただけではだめだといえないでしょうか。(若干ニュアンスの違いはありますが)ご検討ください。田丸先生連勝へGO!GO!頑張ってください。(北村先生、桐山先生、田丸先生、西村先生は全盛期は独特な将棋でした。個性でしたでしょうか。見ていて面白い将棋という感じですね)

投稿: 千葉霞 | 2014年7月26日 (土) 11時34分

田丸先生お邪魔します。今泉さんがプロに挑戦という連盟のホーム記事を見ました。今回はプロ4段との対戦で3勝で合格即プロ4段ですね。瀬川さんと似た条件ですか。その前のは絶対にプロにはさせないという厳しいものでしたが(3段リーグで勝て!)、今回はもう少しUPして欲しいと思いました。フリークラスは半分引退、棋士の救済クラスのようで今回の挑戦でプロ試験合格者(今泉さんが合格されたら)にはやはりハードルですね。千葉さんのコメントのようにC2飛付合格にならないとおかしいと思われます。そして更にC1、B2、B1(可能ならA級も)の特別飛付試験を行う位は行うにしてほしいと思うのは将棋ファンの多くが望み、期待しているものだと思います。どのクラスに入られても俗に「潰せば」いいわけですから、緩さもあっていいのではないかと考えます。結構強いアマはいますよ。ただ、奨励会からスタートではなくて、社会人(中高校、大学も)で覚えた将棋でのチャレンジを認める意味でも実績を積んでいるアマトップにはプロ入りをしやすくするのは悪いことではないと思います。連盟がアマの普及に力を入れている意味も生きてくるのではないでしょうか。奨励会からのは25歳を目処に退会、アマか社会人に行きなさい。これは「将棋の普及をうたうこととは矛盾していますね」、でも個人の将来を考えての配慮には一理あるといえます。囲碁界は今でも飛付的なものはあると聞いています。こういった点を考慮いただけると将棋ももっと面白くなると思います。

投稿: 古代子孫 | 2014年7月27日 (日) 14時29分

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