将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年6月13日 (金)

田丸が議長を務めた6月6日の将棋連盟通常総会の模様

田丸が議長を務めた6月6日の将棋連盟通常総会の模様

田丸が議長を務めた6月6日の将棋連盟通常総会の模様

公益社団法人・日本将棋連盟の今年の通常総会が6日6日、東京の将棋会館に隣接する「けんぽプラザ」3階の集会室で、午後1時から行われました。

写真・上は、会場の光景。228人の会員(現役棋士・引退棋士・女流棋士)のうち、約8割の181人(委任状は26人)が出席しました。

冒頭で連盟会長の谷川浩司九段が挨拶した後、私こと田丸昇九段を議長、浦野真彦八段を副議長に指名して承認されました。昨年も同じ組み合わせでした。

写真・下は、前列右から、谷川会長、田丸議長。後列右から、非常勤理事の深浦康市九段、藤井猛九段、杉本昌隆七段。※写真はいずれも『週刊将棋』撮影。

総会の議事は新会員(石井健太郎、三枚堂達也、香川愛生、星野良生、宮本広志)の紹介から始まり、全員が前に出て自己紹介しました。氏名・棋士番号・師匠のほかに、何か一言を語るのが通例です。飯島栄治七段は14年前、四段昇段後に連敗していたので、「早く1勝したいです」と正直に語って大爆笑となりました。昨年は石田直裕四段が「投手と野手を兼ねているプロ野球の大谷翔平選手のように、私も対局と普及の二刀流で頑張ります」と語って喝采を浴びました。今年の新四段らは、何も語りませんでした。

なお、昨年の秋にタイトルを初めて獲得した香川女流王将は、規定によって連盟の会員になりました。四段に昇段した女流棋士も同様です。

連盟は東京将棋記者会(主に棋戦担当者が加盟)の要請によって、2年前と昨年の総会では開会から閉会まで傍聴取材を認めました。今年は事前に記者会に通知して、各部担当理事の挨拶と報告が終わったとき(1時半頃)に退室してもらうことになりました。棋士の待遇に関する内輪の問題を話し合うためです。

今年は、定款の変更などで投票が行われました。連盟にとって、定款は憲法のようにとても重要なものです。条文を改定するには、会員の3分の2以上の賛成票(今年は152票)が必要です。その案件は理事改選の制度で、すでに大方の棋士に了解されていました。ただ総会の出席者数が例年よりやや少なく、規定の票数に達するか心配する理事もいました。しかし164票を得て、定款の変更は成立しました。

将棋ファンに注目されている来年の電王戦については、あるベテラン棋士が「棋士の人選に問題がある。20代と30代を中心に勝率の高い棋士を選び、最強の布陣で臨んでほしい。負けた棋士には対局料を払わなくていい」と、かなり辛口の注文をつけました。電王戦の主催者は、来年も同じ5番勝負の方式を希望しているそうです。詳細については、連盟との協議で決まることになります。

昨年の総会は、2年ごとの理事改選が行われました。ただ事前の予備選挙で選出された理事たちを、拍手で承認する手続きだけですみました。さらに重要な議案があまりなかったので、議事は速やかに進んで閉会は2時30分でした。

今年の総会は、前記の投票があり、ある議案で理事の説明が長かったり、質疑応答に時間がかかったりして、夕方まで延びました。そして予定の議案がすべて終わり、最後に「その他の議案」になりました。ここで会員は自由に発言できます。過去の例では、想定外の質問が出たり、質問と応答がかみあわなかったりして、もめたことがありました。2年前には、会長だった故・米長邦雄永世棋聖に批判的な棋士が辛辣な意見を述べ、気色ばんだ米長が向きになって反論して紛糾しました。

議長の私は「その他の議案」に先立ち、「公益法人の総会の場なので、それにふさわしい将棋界の発展につながるような建設的な発言をお願いします」と伝えました。過去には、総会にふさわしくない発言が出ることがありました。しかし今年は、理事会に批判的な棋士からの発言もなく、会場は静まりかえっていました。これには拍子抜けしました。私はすぐに閉会を宣言しました。時刻は5時10分でした。

現在の連盟の運営は割りと安定していますが、将来的な不安を持っている棋士は多いようです。内輪でもめている状況ではないと、大方の棋士は思っているのでしょう。

|

裏話」カテゴリの記事

コメント

書き辛いことも含めご紹介いただきありがとうございます。失礼に聞こえたら本意ではないのですが、ご年配の棋士の方々にはいまだに人間がコンピュータ将棋と互角以上の戦いが出来るとお思いの方が多いのでしょうか。週刊新潮の西原理恵子さんの連載で、先崎先生の弁として「ソフトには負けるのがもう当たり前だから、(棋士は)みんな祭りで楽しんじゃおうって空気になってる」というようなことが書いてあったので、意外に感じました。

投稿: Britty | 2014年6月13日 (金) 14時48分

さっそくの報告ありがとうございます。

電王戦も難しいですね。
谷川会長も「今度やる場合は相当の覚悟を持ってやらないと」という主旨の発言もしていましたし。
電王戦は「超ローリターン超ハイリスク」というものですからね。まあ、ここまできて「勝って当たり前、負けて棋界の恥さらし」みたいなファンばかりならば、やりたがる人は出てきませんよ。
根本的なところとしてタイトル戦は蔑ろにはできませんしね(電王戦にはドワンゴ等がいるのと同様に、タイトル戦にも主催者という大スポンサーがいますから)

今更ながら米長前会長が亡くなるのが早すぎた、という気もします。
あの方なら「プロが機械に勝てない将棋界」はどうあるべきかというビジョンを持っていたと思われますから(ファンがそれを受け入れられるか、という問題は別として)。


今回の他にも公表できる議案がありましたら教えてください。

投稿: 通行人 | 2014年6月13日 (金) 21時52分

皆様が反応している電王戦の件に私も反応せざるを得ない。

「棋士の人選に問題がある」という発言を引用されていますが、
これまでの電王戦ですべての人生が最善だったわけではないにせよ、菅井先生や船江先生は実績的にも対ソフトという意味でもまさに最善と思える人選だったわけで、その方々が敗れている現状で何をいまさらという気もしますね。
エースが打たれて負けた。が、エース級を5人揃えれば勝てる。
そんな言い訳にしか聞こえません。

投稿: Shellby | 2014年6月14日 (土) 00時44分

初めて投稿させていただきます。

電王戦が盛況になることを祈っておりますし棋士の先生方の注力も期待していますが、コンピュータに負けることを必要以上に屈辱と考える状況は好ましくないと考えます。

例えば、その昔、将棋世界の「アマ・プロオープン戦」で終にプロ(飯野健二当時四段)がアマ(小池重明氏)に敗れた時 (1978年11月)、表題には「プロ落城の日」、本文には「敗れた飯野四段の心情を思うと…」と掲載され衝撃的な表現でした。
そして、その後もプロの敗戦が発生して編集後記的に「プロが敗れたことについて批判があるが、アマとの交流の場と思っていただきたい」とコメントされ、間もなくこの企画は終了となりました。
(あまり良い幕切れではなかったように記憶しています)

しかし、現在ではタイトル戦予選等にアマの出場枠があり、プロが勝つべきとの考えは当然あるものの必要以上に辛辣な雰囲気はなくアマのレベル向上を称える側面の方が強く感じられ、明らかに1978年当時と比較して意識の変化が見られます。
(建設的な意識の変化であると考えています)

電王戦に関しても建設的に意識が変化することを願っています。
プロ対アマ平手戦の意識がいつごろから変化を見せたのか、歴史的に考察してみると何らかのヒントがあるかもしれません。田丸先生は過去の著書からしてその辺りのことに秀でていらっしゃるようですので、御考察の上フィードバックをいただければ幸いに思います。

投稿: 好俗手 | 2014年6月14日 (土) 15時54分

田丸先生お邪魔します。今回もコメントが多くて驚いています。将棋連盟にあててコメントのできる場がないので皆さんこちらに殺到するようですね。私にとってもありがたい場であると感謝しています。こちらのブログではやはり「電王戦」が話題になっています。とにかく関心が高いのは確かでファン心理としてはいずれの方のも「もっとも」ですね。ベテランの棋士の方からの「キツイ注文」これも「正しい」ものではないでしょうか。かつての自分らの将棋に対する姿勢からのご発言はありがたいものです。「気を入れて闘え」、「ファイトマネーだけもらうのはよせ」といわんとするのは分かる気がします。内藤先生の言から「この年になると勝負欲が薄れてきている、勝とうなんてあまり思えなくなってきている」と加藤、米長先生らとお好み将棋のTVでいっておられました。でも若手から中堅がCOMと勝負するのを見て、何だ「人は勝てんな」と思われているかも知れません。(思っていないかも知れません)ベテランの範囲がどのあたりかは分かりませんが大御所の先生方からするとCOMとの対戦は「不甲斐ない」と見られているでしょうね。棋士でも50、60、70歳代になると一握りの棋士(大山先生、中原先生、米長先生など)棋力(気力)が相当落ちてくるといわれています。若手、中堅棋士に「活」を入れるのは当然なことで「自分らが出る幕ではないとの自覚もお持ちです」。怒られるのはいいことで、ファンが非難すべきことではないと思います。「相撲」と似ていて「「土俵にお金が落ちている」(対局で勝ち続けて名を上げろ」といっているのでしょう。「先輩からの「活、檄」はありがたいものです。将棋界のベテランの定義は?棋士の皆さんは20年は続けておられるので難しいと思います。C2で長くいるか、駆け上がってAで長くいるか大変なことです。最近は定年引退があるので加藤先生のように超長く現役の先生は数人のみ、この先生方に「COMに負けてなんだ」といわれても文句はいえませんでしょう。「お前出ろ」ともいえませんよ。とにかくCOMと対戦されるのであれば「とことん対策されるべきです」、人選も検討されるべきです。確かに?と思われる棋士の方が出ているといわれた方に賛成です。現在成績のいい先生を選ばれるべきでしょう。COM対戦に向けて頑張ってくださるよう期待します。

投稿: 千葉霞 | 2014年6月14日 (土) 17時55分

総会ご苦労様でした。議長役お疲れ様でした。「うむっ、田丸先生が会長かなと」一瞬思いました。米長先生の禅譲スケジュールがやや早まって谷川先生が会長になられましたが「人物、識見、実績」は申し分はないのですが、個人的にはやや貫禄的(イメージ)には「どうかな?」という思いがあります。任期を重ねていけば次第に備わってくるものかもしれませんが、No2でいましばらく経験を積んでおられた方がとも思います。「実際は凄腕、連盟をぐいぐいリードしているスーパー会長」なんだよ。とお叱りを受けそうですね。外見からの判断はいけないよ。スマートで紳士なイメージが強いせいか線が細いとの印象から個人的には判断しているのでしょうか。力不足のところはまわりの役員、職員がサポートはされているので全く「心配無用」ですね。またまた個人的には「内藤先生、有吉先生、加藤先生」ら大御所に会長職をやっていただきたかった、はどうだったのだろうか。田丸先生、森けいじ先生らの世代の先生方はどうしたのだろう。一つ谷川先生で残念なのは「(本業の?)成績が良くない」ことです。「大山先生」とは比べられませんが、兼務であればどちらも良くなくては将棋の顔とはいえないでしょう。実際、「羽生、渡辺、森内」がもう随分前から「将棋の顔」になっています。実態を全く知らない「ゴタク」ですが、ふと「自分の中の違和感」をブログってしまいました。(失礼の段お詫びします)

投稿: 囲碁人 | 2014年6月17日 (火) 09時04分

貴重なじょうほうありがとうございます。
気になったのが、電王戦に20代30代の棋士を~という意見でした。
今までの布陣の一部をベストという方もいますが、船江さんや菅井さん、豊島さん、屋敷さん、三浦さん、などなどは果たしてベストな布陣だったのでしょうか?
失礼な言い方になりますが、この方達は森内さん、羽生さん、渡辺さんからタイトルを奪えていない人たちです。(下手すれば3人から長い間連敗している方も)中にはC級でくすぶっている方もいます。勝率に関しても、A級在籍時の勝率なら分かりますが、C級などでの高勝率では参考にならない気がします。
そういった意味でも本当のベストの布陣は例の3人しかいないのではないでしょうか?
人間とソフトのガチの戦いなのか、お祭りなのかスタンスがどうも見えてきません。前者なら例の3人、後者なら伸び盛りの若手でもいいでしょう。そこら辺を谷川会長ははっきり示すべきです。
スポンサーの問題などで例の3人が実現するかは分かりませんが、今のようなガチに近い雰囲気ですと、3人が出てこないことには決着しないし、今後ネチネチと毎回つつかれることになると思います。(3人が出てこないなら私は今後一生、ねちねち言うことでしょう。)
間違っても、谷川会長が出場して幕引きなんていうことだけはやめて欲しいです。(失礼ながらここ数年の成績を見てしまうと・・・)
あとい1つ、将棋会館の老朽化問題です。
現在の会館は様々な方の尽力によって建ちましたが、時間とともに老朽化することは避けられないことです。
電王戦の際に「会館の設備~」という単語を見かけました。
河口さんが以前何かのコラムで羽生さんが建て替えに関する発案をしたが頓挫したということを書いていました。
今すぐにと言う話ではないですが、必ずやって来る問題です。この件は継続して話し合っていかないと何かがあった時に動けなくなるのではないかと心配です。
以上、勝手に書かせていただきました。

投稿: ルーニー | 2014年7月20日 (日) 16時46分

電王戦に関して貴重な情報ありがとうございます。

>あるベテラン棋士
色々な場所での発言をみるに現役タイトル保持者のご発言だろうと思いました。

連盟は、電王戦には引退棋士や低勝率棋士などあえて負けても言い訳のつきそうな人選を続けて、果たして大きく負け越している状況です。
ソフトがどんどん強くなる中、まだ今なら、トッププロなら勝ちこせるはずだと考える人には歯がゆい思いを強いてるのだと思います。

プロ棋士の敗戦で一時的には将棋界に大変な注目が集まり賑わいましたが、今後も賑わっていくためには次回こそプロ棋士側が勝っておかないといけません。人選された5人の方々の勝利を期待しています。

投稿: たろさ | 2014年10月21日 (火) 22時42分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 田丸が議長を務めた6月6日の将棋連盟通常総会の模様: