将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年5月23日 (金)

羽生三冠が名人戦で森内名人に4連勝して3回目の名人復位を初めて達成

5月20日・21日に行われた名人戦第4局で、羽生善治三冠が森内俊之名人に勝って4連勝し、4年ぶりに名人位に返り咲きました。羽生の名人獲得は通算8期目です(森内とタイ記録)。

過去の例では、中原誠十六世名人(1985年・90年)、谷川浩司九段(88年・97年)、森内(2004年・11年)が2回の名人復位を果たしました。羽生は03年(森内に4連勝)と08年(森内に4勝2敗)に次いで、3回目の名人復位を初めて達成しました。

タイトルは獲得する以上に防衛するのが難しいといわれます。羽生も通算14回出場した名人戦で、防衛戦の成績は4勝3敗(森内に1勝2敗、谷川に1敗、森下卓九段、郷田真隆九段、三浦弘行九段に各1勝)でした。そして名人をそれぞれ失った後年に、一流棋士がひしめくA級順位戦を勝ち抜いて名人戦の挑戦者に5回(いずれも相手は森内)もなったのは、さらにすごいことでした。

今年の名人戦は、羽生が後手番の第1局で、力将棋から細かい攻めをつないで勝ったのが結果的にとても大きかったと思います。羽生は直近3期の名人戦第1局で森内に連敗していました。初戦の勝利で流れをつかみ、勢いを駆って4連勝した感じです。

第1局から第4局までの戦型はいずれも前例が少なく、中終盤で激闘が繰り広げられました。これは私の推測ですが、名人戦の開幕前後に行われた第3回「電王戦」(将棋ソフトがプロ棋士に4勝1敗で勝利)の結果が少なからず影響したと思っています。つまり森内と羽生には、「人間同士の迫力ある戦いこそ将棋の醍醐味」という潜在的意識が生じ、名人戦で呼応するかのようにそんな戦いになったというわけです。

6月から始まる棋聖戦では、名人戦とは立場が変わって、羽生棋聖に森内竜王が挑戦します。10月から始まる竜王戦では、ランキング戦の1組優勝で決勝トーナメント準決勝にシードされた羽生名人が森内竜王に挑戦する最短距離にいます。

今年は名人戦と棋聖戦に続いて、竜王戦でも森内と羽生の勝負が見られそうです。気の早い将棋ファンは、羽生が棋聖戦と竜王戦に勝ち、さらに王位戦と王座戦で防衛し、来年から始まる王将戦と棋王戦で渡辺明二冠にダブル挑戦して勝てば、1996年以来の「七冠制覇」が再現すると期待しているかもしれません。

羽生は数年前に七冠制覇について、「正当な競争原理が働いたら、七冠は難しいと思います」と語ったことがあります。いたって冷静で正直な見解です。しかし勝負というものは、理屈では図りきれない流れや勢いが重要な要素です。今年の名人戦で羽生が4連勝したのも、それが一因になったと思います。

羽生が名人獲得の勢いを維持して今後もタイトル戦で勝ち続ければ、18年前の大偉業が再現します。私はその可能性はあると思っています。

現代の棋士たちは、研究会の実戦、データベースの棋譜検索などで、日進月歩に進化している序盤の研究に取り組んでいます。中には将棋ソフトの指し方を参考にして、公式戦で用いる棋士もいます。

タイトル戦の対局などで多忙な羽生名人も研究会を行っています。メンバーは木村一基八段、松尾歩七段、村山慈明七段。持ち時間20分・秒読み30秒で、1日に3局指します。

また、羽生は長岡裕也五段と個人的に実戦を行い、長岡が仕入れた最新情報を参考にしているそうです。長岡は「羽生さんでも研究しないと勝てないと思っていて、あらゆる戦法を網羅しています。私は同じ八王子将棋クラブの出身の後輩なので、気にかけてくれているようです」と語っていました。

研究会の場所は、自宅・知人の家・将棋クラブ・自治体施設など様々です。東京の将棋会館では、以前は対局者の控室や空いた部屋がよく使われました。現在は、棋士が将棋連盟の施設を私的に使うのは疑問ということから禁止されています。音楽家がスタジオで練習したり、作家が仕事部屋で執筆するように、棋士が研究する場所を自分で見つけるのは当然といえます。ちなみに羽生は、自宅の近くのレンタルスペースで研究会を行っているそうです。

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コメント

羽生さん「名人復位」おめでとうございます。名人獲得の陰に長岡裕也五段ありですね。他の研究会のメンバーも大きな役割を果たしました。ご苦労様でした。ある意味「ブレーン」なわけですから感謝しなくてはいけませんね。米長さんも羽生さんらに教わったというのは自ら話され話題になったものです。「新しい考え」みたいなもの、「最新の分析力」は「若い能力」の大活用です。この研究姿勢があれば「負けない」将棋が何時までも持っていられる気がします。また、田丸先生のご指摘のように電王戦の影響は大だと思います。前例がない将棋はCOMでは将棋になりません。COM製作者もマニュアルが無いわけですので、手将棋が本来のプロの指し手技の見せ所でしょう。お二人があえて示されたというと大げさでしょうが、「これでやってみれば」どうか?だった気もしないではありません。本当に「見ごたえのある大一番」の連続でした。ありがとうございました。(田丸先生のブログをお借りして対局のお礼を申し上げます)

投稿: 古代子孫 | 2014年5月23日 (金) 11時05分

>棋士が将棋連盟の施設を私的に使うのは疑問ということから禁止
初めて知りました。
控室で公式対局を検討することは私的ではないので問題ないのでしょうが、例えば棋士同志で練習将棋をしているのは日常茶飯事かと思っていたので・・・
確かにあちこちでそんなに練習将棋や研究会などをはじめてしまうと収集つかなくなりますね。

投稿: popoo | 2014年5月25日 (日) 18時18分

田丸九段「語り部」はいいね。まだ原稿書きの域を出ていないのが惜しいね。後はどれくらいスムーズにしゃべりにうまさが出てきて「語り部足りうるか」ですね。I‐PADでしたか、モニターに表示させておいて紙のかわりにするするのも案です。頑張りましょう。

投稿: 東京散歩人 | 2014年5月27日 (火) 16時04分

田丸先生お邪魔します。
「棋士が将棋連盟の施設を私的に使うは禁止」ですか、ではそういった場面も公開にしたらどうでしょうか?(有料で)タイトル戦中継も棋士の様子が見られて大変好評だと思います。同じように定期に研究会を公開していきファンとの交流が図れると面白そうです。「とにかくプロの姿を見せる機会は」多い方がいいのでは?若干ヤラセ的ではありますが企画を練って行う方向で検討されてはどうでしょう。楽しみです。

投稿: 千葉霞 | 2014年5月28日 (水) 09時50分

東京散歩人さんが「口の利き方」を叱られた。実際は「コメントの書き方」でしょうな。前にもひどいのがいたけれど、東京散歩人さんはそんなに悪くはないな。田丸さんの先輩筋にそういうネームの方がおられるようですよ。
(あまり穿鑿はしない)コメント内容も応援しておるようだから lycopeneさんもコメントで応援してはどうでしょうな。かの人は結構「何様」だったりするのではないかな。「将棋九段」もここから撤退するか。口悪いしな。

投稿: 将棋九段 | 2014年5月30日 (金) 12時02分

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