将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年5月29日 (木)

棋士が将棋会館で務める「対局立合人」という仕事の内容

棋士が将棋会館で務める「対局立合人」という仕事の内容

棋士が将棋会館で務める「対局立合人」という仕事の内容

棋士が将棋会館で務める「対局立合人」という仕事の内容

タイトル戦の対局では、棋士が立合人(原則として2人)を必ず務めます。東西の将棋会館で行われる通常の対局では、以前は立合人が付きませんでしたが、2年前からは棋士が交代で立合人を務めることになりました。私は5月27日にその「対局立合人」という仕事を務めました。

写真・上は、対局室の入口に設置されている部屋割りボード。右下に田丸の札がかかっています。

写真・中は、大広間の対局光景。手前の対局は、森下卓九段(中)―塚田泰明九段。

写真・下は、特別対局室の感想戦の光景(午後11時半頃)。竜王戦のランキング戦4組決勝の中村太地六段(右)―横山泰明六段で、中村が勝って決勝トーナメントに進みました。後列の右から、遠山雄亮五段、八代弥四段、飯島栄治七段、記録係の佐々木大地三段、元女流棋士で観戦記者の藤田麻衣子さん。

対局立合人の私は東京の将棋会館に早めに行き、午前10時の対局開始時刻に対局者が揃っていることをまず確認しました。対局者が遅刻した場合、その棋士から後で理由を聞き、将棋連盟に提出する報告書に記載します(5月27日は遅刻者はなし)。

対局中の仕事の内容は、たまに対局室に入って様子を見る、対局の「モバイル中継」を行っている会館の別室に顔を出してコメントを述べる、などです。それ以外は主に4階の対局者控室で待機しています。原則として昼食をとるほかは外出できません。

対局立合人の最も大事な役目は、対局中に何か問題やトラブルが生じたら、臨機応変に適切に対処することです。とくに夜間は会館に理事や職員がいないので、立合人の判断と措置が重要になってきます。

過去には、千日手、持将棋、禁じ手、秒読み、待ったなどの問題でトラブルになったことが時にありました。3年前に東日本大震災が起きた日には対局が一時中断されました。しかし近年は、対局中のトラブルめいた話はめったにありません。

対局立合人は、暇を持て余すような状況が望ましいのです。だから研究熱心な棋士は、仕事と研究を兼ねて控室で棋譜を何局も並べます。私も5月27日は合間に、連載している『将棋世界』の「盤上盤外 一手有情」の取材をしました。

その中でとても面白い将棋を見ました。加古川青流戦の佐藤慎一四段―小泉祐三段の序盤で、▲7六歩△9二香▲2六歩△1二香…と、後手の小泉三段が何ともユニークな指し方をしたのです。局後の話によると、「研究している作戦です」とのことです。小泉は実戦で右玉に囲いました。△9二香は△9一飛と転じて端攻め、△1二香は△1一角と引く余地を作るなどの狙いがあるそうです。そして激闘の末に、小泉三段が佐藤四段を見事に破ったのです。ほかの公式戦でも、そんなユニークな指し方をする小泉に注目したいです。

対局立合人の仕事は、主に40代以上の現役棋士と引退棋士が依頼されます。「ひふみん」こと加藤一二三九段が務めたこともあります。報酬は対局の持ち時間によって違います。5時間以上(竜王戦、順位戦など)だと、4時間未満(王位戦、王将戦など)より増額されます。最終対局の終了時刻が午後11時を過ぎた場合、1万円の「深夜手当」が加算されます。なお、持ち時間が短くて対局が早く終わったり、局数が少ない日は、対局立合人は付きません。

対局立合人は、すべての対局が終わるのを見届けるまで帰れません。持ち時間・6時間の順位戦の対局日や千日手・持将棋が生じると、帰宅は真夜中になります。

5月27日は計11局の対局があり、最終対局の終了時刻は午後11時20分でした(前記の中村―横山戦)。私はその対局の感想戦を少し見てから、将棋会館に残っている記録係の奨励会員たちが帰宅できるかどうかを確認しました。帰りの電車に間に合ったとしても、未成年者が深夜に外に出ることは好ましくありません。そんな場合は会館に泊まるように指示する決まりになっています。

私は対局立合人の報告書(棋戦名と対局者・遅刻者の名前と理由・最終対局の終了時刻などを記載)を、1階の通用玄関にいる守衛の人に預けました。こうして仕事を無事に務め終えて、深夜の12時頃に会館を出ました。

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コメント

棋戦中継ブログや観戦記に良く登場する「対局立会人」がどのような責任を負っているのか、どのように一日を過ごすのかが良く分かりました。先日、竹部さゆり女流がテレビに出た時に「加藤先生が対局立会人を務めて下さった時に、暖房の設定温度を異常に低くされて・・・女流棋士たちは震えていました」というエピソードを披露していましたが、田丸先生のお話を伺ってからですとなるほどと思います

投稿: オヤジ | 2014年5月29日 (木) 20時17分

田丸先生お疲れ様でした。
早速ですがブログ拝見していまして驚きました「内容は素直な」コメントですがネームが「羽生善治」には驚きました。これは反則、アウトではないでしょうか。lycopeneさんだと激怒かも知れません。内容的には羽生先生本人の可能性は0でしょう。今後のブログにこの類が増えないことを願うばかりです。

投稿: 千葉霞 | 2014年5月30日 (金) 12時17分

立ち合い人の話は滅多に聞くことができないので非常に興味深いです。
対局終了が午後11時を過ぎると10000円の深夜手当をもらえる、この日は午後11時20分に終了ということは、田丸さんはめでたく(?)深夜手当をもらった、ということですね。
私のようなケチ臭い人間ですと、10000円も違うとなると裏で「是非、11時を過ぎてくれ!!」と願ったりしそうです(笑)
もちろん、いろいろ気遣いがあるお仕事でしょうから、自分の懐具合の問題だけではないんでしょうか・・・

ところで、小泉三段の独特の指し回しは将棋世界でも紹介されていましたね。
私は小泉三段に電王戦に出てもらいたいです。
コンピュータは人間側が珍しいことをやってきたときにどのように判断するのか。
米長さんも第一回に初手△6二玉を指しましたが、あのときの狙いはあくまでも相手(コンピュータ)の読みを外すことのみを考えてのこと。
しかし、小泉三段は普通に非定跡をやる。
電王戦には適任じゃないのかな、心底思っています。

投稿: popoo | 2014年5月31日 (土) 00時23分

『小泉三段は普通に非定跡をやる』のですか?面白いですね。将棋は難しいからそうなのかなと思ってしまいそうですが、奇を衒う指し手は相当な作戦がいるのでは?普段指さない出だしで最後まで持たすのはどうでしょうか。電王戦対局にはこのブログでも色々と対策が出ていました。「力将棋」なら勝てそうだ。が興味深々です。「あいがかり」というそうですが、定跡があまりない手は有力でしょう。どなたかに「女子力で女流が案外強い」というのがありました。奨励会の方々は「プロ棋士の高段者より強い」といわせるほどですので、準備の時間があれば「電王戦には適任」は当たっていそうですね。小泉三段のほかにもぞろぞろといるのではないでしょうか。「棋士」をルールで決めていますので、これはプロ高段者にはプライドもあり、奨励会からとはいかないでしょう。女流も清水さんは負けていますからどうでしょうか?現役タイトル保持者は(女流4段以上)棋士ですので出られるのですが、その下の女流も強いですね。ここは思案の為所でしょうか。このあたりには田丸先生の個人的なご意見でもお聞きしたいところです。(前のページ横文字と漢字混じりの変なコメント、商品の売り込みでしょうか。ウイルス一杯の危ない気がします。どなたか解決をお願いします)

投稿: 囲碁人 | 2014年6月 2日 (月) 15時59分

田丸先生ありがとうございました。「女流問題」が解決を見たという連盟のコメントが掲載されていました。先生のブログで少々「何とかしてください」とお願いしたのがよかったと思います。先ずは大きな前進となり喜びで一杯です。なかなかシガラミガあって応えずらい問題でしたのにあえてコメントされたのはさすがに田丸先生です。あとは女流の待遇などを徐々に改善されていけばいいと思います。例としては「ここからがプロ棋士」という男子でいえば「4段」のランクとの整合性をどうしていかれるのかです。などなど山積みですが、お骨折りください。宜しくお願いいたします。(羽生棋聖(4冠)先ずは1勝されました、強いですね)

投稿: 古代子孫 | 2014年6月 3日 (火) 10時49分

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