将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2014年4月18日 (金)

第3回電王戦第5局でプロ棋士が将棋ソフトに敗れて1勝4敗でまた負け越し

第3回電王戦第5局でプロ棋士が将棋ソフトに敗れて1勝4敗でまた負け越し

5人のプロ棋士と5つのコンピューター将棋ソフトが団体戦形式で対戦した第3回「電王戦」の第5局(屋敷伸之九段―『Ponanza』)が4月12日に東京の将棋会館で行われました。

写真は、対局光景。右から屋敷九段、記録係の貞升南女流初段、立合人の私こと田丸昇九段、将棋連盟理事の片上大輔六段、将棋ソフトの指し手を盤上で操作するロボットアーム「電王手くん」。※写真は「週刊将棋」提供。

昨年の第2回電王戦は、プロ棋士が将棋ソフトに対して1勝3敗1持将棋と負け越しました。今年の出場棋士は、菅井竜也五段、佐藤紳哉六段、豊島将之七段、森下卓九段、屋敷九段(対局順)。若手精鋭、名人戦挑戦経験者、元タイトル保持者などで、昨年より戦力が増強された感じでした。私はプロ棋士の4勝1敗と予想しました。

電王戦第1局では、通算勝率が7割台の菅井五段が得意とする中飛車を用いました。しかし『習甦』(しゅうそ)の手厚い指し方に攻め切れず、早くも初戦でプロ棋士が敗れました。その後、第3局で豊島七段が勝ちましたが、第2局で佐藤六段、第4局で森下九段が敗れ、昨年に続いてプロ棋士の負け越しが決まりました。

第5局は、前期までA級棋士だった屋敷九段と、昨年の世界コンピューター将棋選手権で準優勝した『Ponanza』(ポナンザ)が対戦しました。屋敷はプロ棋士の「大将格」として、最終戦に勝って意地を見せたいところです。昨年に『GPS将棋』に敗れた大将格の三浦弘行八段(当時)は研究仲間で、仇を討ちたい心境でもあったと思います。

戦型は後手番の『Ponanza』が誘導して横歩取りになりました。プロ棋士間で流行している形ではなく、実戦例があるようでない進展でした。39手目には早くも飛車交換され、攻め合いになりました。屋敷が角を活用して相手の飛車を取った展開は、少し有利になったと思いました。

しかし「ニコニコ生放送」の画面に表示された形勢判断の評価関数(本局では『GPS将棋』が担当)と、『Ponanza』の自己評価関数は、いずれも将棋ソフトの+400点〜800点台が続きました。飛車対金桂香の三枚替えの駒得を高く評価したものです。

私たちプロ棋士が見た『Ponanza』の攻めは重い感じがしました。角取りに△1六香と打った局面では、「えっー…」という声が控室で上がりました。プロ棋士が嫌う「イモ手」だったからです。屋敷は相手の攻めを十分に余せると考えていました。将棋ソフトの自己評価関数も、+120点に下がっていきました。

私は終盤の局面で、ニコニコ生放送に出演しました。『Ponanza』は2枚の角と、1筋に打った香を△6九成香と働かせて迫りましたが、やや息切れ気味に思いました。だから△7九銀と王手したとき、私は思わず「ついに暴発したのか…」と言いました。屋敷も「ありがたい」と思ったようで、▲9七玉と手順に中段に逃げました。しかし△9六歩〜△9五歩〜△9四歩の連打で玉の上部に拠点を作られると、意外と難しい形勢でした。△7九銀は、プロ棋士の誰もが気づかなかった実戦的な勝負手だったのです。

その後、屋敷の悪手によって『Ponanza』が勝勢になると、屋敷は何度も席を外してトイレに行きました。局後の話では、「どうやって形を作るか…」と考えていたそうです。そして最後の手段として、▲5五金と捨てる王手をしました。△4三玉と逃げられてまったく詰みませんが、将棋ソフトは△同玉と取りました。3手詰めのトン死の危険があるので、人間なら詰まないとわかっていても逃げるところです。そして△9四銀と捨てる王手で、即詰みに討ち取りました。屋敷の気持ちを察したようなきれいな勝ち方でした。

第3回電王戦は第5局で『Ponanza』が屋敷九段に勝ち、プロ棋士は将棋ソフトに対して1勝4敗と負け越しました。第2回より下回る結果となりました。

私は立合人として戦いを見て、将棋ソフトがさらに進化して強くなったことを改めて認識しました。正確な形勢判断、攻防のバランスの良さ、常識を超える指し方など、プロ棋士が学ぶことが多いと思いました。一方で人間的な面もあり、「将棋ソフトは感情的なぶれがない」という見方は通用しません。

来年も第4回電王戦が行われます。プロ棋士が巻き返すためには、出場棋士の人選が重要になっています。

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コメント

Ponazaの開発者の山本さんの電王戦観戦記読んでいたら、
「プロ棋士もcomに教えてもらう時代になったか!」そう感じる
のは、私だけなのでしょうか?
http://ponanza.hatenadiary.jp/entry/2014/03/27/004716
将棋連盟としても一番頭の痛いのは、来年comと誰を対戦させるか
でしょうが、私の個人的提案は今までcomに勝った人、渡辺二冠、・阿部光瑠四段
豊島五段、+矢倉37銀では絶対負けないと豪語するネットで一番人気の加藤一二三九段
comの弱点は知りつくした、勝又六段 いずれにせよcomに絶対自信ある、
プロ5勝0敗の必勝体制で本腰いれて挑まなければ、将棋界の未来はないと思い
ますが、田丸先生はいかがお考えですか?そのことが、人口知能の大きな発展
にも結びつくと思うのですが、いずれ囲碁界(現在アマ六段レベル)も7年後は将棋界と同じ現象が起きると予測していますが、少なくともminimax法、モンテカルロ法、ボーカロイド人工知能 多少なりとcomの思考を理解している人間しか、comに勝てないことは、はっきりしたと思うのですが・・・

投稿: オンラインブログ検定 | 2014年4月19日 (土) 02時09分

将棋クラブのメンバーと観戦していましたが屋敷戦の△1六香は縁台将棋のような手だと皆思っていました。
ソフトはプロレベルの棋力なのでしょうが疲れない間違えないというのは人間にとては大きなハンデで同条件とはいえないような気がします。
連盟としても羽生、森内、渡辺の3強を出場させて万一負けてしまってはどうにもならないので慎重にならざるをえないとは思いますが
むしろベテランが持ち時間2、3時間程度でどうなんだろうと思います。
加藤、中原、森けいじ等のメンバーでの対戦を見たいです。

投稿: こうめい | 2014年4月19日 (土) 09時43分

たびたびお邪魔します。どうも手厳しいコメントが多くなった。電王戦の性であろうか。勝てるためのアドバイスがいいね。勝又教授は出ない方がいいでしょう。一二三先生もどうだろう?そうそう連盟もプロ試験の要綱を変えましたね。少しだけ進歩しました。次の、最終学業成績証明書(在学中の方は前年度期末か今年1学期のもの)、受験料50万円(税別)、※師匠(受験の推薦を受けたプロ棋士)を通じて提出(郵送・持参いずれでも可)することとする。の3点は相変わらずでした。学校の成績?いらないな。50万円?対局相手の賃金の自己負担分?師匠とは相撲部屋?相変わらず門は狭いな。素行調査はいいのだろうか?有名なアマの方がいました、松田先生の関連だった。まっいいか、三段リーグを飛ばしてフリークラスで四段だからな。希望としては一人はB1かA級からの試験官を出してほしいな。

投稿: 将棋九段 | 2014年4月19日 (土) 13時33分

大変興味深い文章、楽しく拝見しました。
次こそはカド番のつもりでプロの人選をして欲しいと思います。それから豊島先生以外はハッキリ言ってソフトを甘く見ていたのではないでしょうか。タイトル戦に臨むくらいの準備と覚悟でプロの勝つところを見たいです。
これからも将棋のプロの皆様を応援しています。

投稿: 第4回こそは | 2014年4月20日 (日) 06時19分

田丸九段の文章いつも楽しみに拝見しています。
電王戦は残念な結果でした。屋敷九段に期待していた
のですが・・・
COM君は攻めも守りも強いですね。
何かの本で読みましたが、アマチュア相手に強いのは
神吉六段だそうです。(アマの心がわかるらしい)
神吉対COMを見たいな(電王戦でなくても)

また、投稿される方は、「あんた」とかやめましょうよ。
最低限のマナーはまもりましょう。
もっとも、田丸九段と対面で「あんた」とは言わないで
しょうけど。

プロ棋士のみなさん、頑張ってください。
気概のある棋士で「第4回」に向かってください。

投稿: 見る将棋ファン | 2014年4月21日 (月) 10時45分

投稿コメントがマジなものもあって「?」となります。次回の電王戦への期待は大きいですね。それと共に心配も多いはずです。プロのメンツが丸つぶれの状態ですから、棋士の選抜も難しいですね。ニコニコ見ていましたら、女流はどうだろうというコメントが流れていました。清水さんクラスよりは画面に出てくる女流の方方で結構戦えそうです。男子の四、五段よりアマっぽい指し方もされたり、プロの手も当然指しています。強いです。案外花あり、勝ちもありでいい企画になりそうです。はじめに奨励会員や女流での対戦でスタートした方が勝ちきったりしていたかもと思います。高段男子プロはマジ過ぎたのかも知れない面があったのでは?ドツボだったかも?「女流は強いですよ」是非ご検討ください。scissors

投稿: 千葉霞 | 2014年4月27日 (日) 17時23分

電王戦プロが勝てませんね。意気込みは全勝でしたが、結果は惨敗でした。前予想もプロ棋士間では断然プロ勝ちだったようですが、前の対戦からの予想はそう甘くはないと囲碁界友では思っていました。やはり事前の研究なしでやるのもプロでしょうが、万全の対策を練るのもプロでしょう。厳しい見方をすれば、羽生さんでもかなり勝利するには難しいといえます。人では結局間違いか考えが及ばないが勝敗を分けているのですが、CPにも間違えさせる手を人は案出しなくては、とどなたかも話していました。CPを超える将棋が必要です。現在はCPがデーターを基に新手(マジック)を指しています。データーコピー型風の力ではだめですね。今回の名人戦を評して朝日の記者は「CPを意識させるような指し方、データーが無い展開」と書いていました。さすがに名人戦です。考えましょう将棋を指すということを!

投稿: 囲碁人 | 2014年4月30日 (水) 11時45分

電王戦について、ファンが興味があるのは結局は羽生・渡辺・森内ら本当の意味でのトップ棋士とソフトが対戦したらどちらが勝つのか、つまり頂上決戦が見たいんだと思います。
なので今回団体戦では負けましたが、上記真のトップ棋士に近いと言われてる豊島七段が勝ったので、「豊島クラスには勝てない=なら羽生や森内にもまだ勝てない」という脳内変換で、まだ棋士側にもフォロー出来る部分はあると思ってます。
ソフトにおける「勝ち」は、「ソフト側の全勝」「誰が相手でもほぼ100%勝てる」、その象徴が「羽生・渡辺・森内に勝つこと」という立場なので。逆に言えば、もうこれくらい決めに来られてる段階に入ってると思います。

私は前回から疑問でした。何故5vs5にするんだろうと。今回だったら、豊島七段の5番勝負でいいんじゃないかと。これなら勝ち越せてた可能性も十分あったと思うし、仮に負けても豊島七段にはダメージですがプロ棋士全体がどうのということにはなってなかったと思いますがどうでしょうか?
対戦するプロとしても、負けても次があるのでプレッシャーが軽減する、この対局(経験)を次の対局に活かせるなど、人間ならではのメリットがあります。

最後に、第五局で屋敷九段がこの手をうっかりしてたと語ってた△8三歩(104手目)の局面、次の一手は入玉一直線の▲8五玉はなかったですか? ソフトによるとこの手をもって五分の評価値で、事実上の最後のチャンスだったように思います。てっきりこの手を指すために、わざと△8三歩と突かせるために▲8一成香(103手目)と桂馬を取ったんじゃないかという気さえしてたんですが。

投稿: やまね | 2014年5月 3日 (土) 06時32分

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