将棋文化検定の東京会場のトークショーでの受検者の感想と今後の課題
第2回「将棋文化検定」は10月13日に東京・大阪・名古屋・天童・広島の各会場で実施され、試験後に受検した棋士たちのトークショーが行われました。
写真は、東京の会場(調布市の明治大学附属高校・中学)の光景。左から、将棋文化検定の実行委員で試験官を務めた私こと田丸昇九段、Bコース(3級・4級)を受検した中村修九段、同じく富岡英作八段、Cコース(5級・6級)を受検した熊倉紫野女流初段。
受検した棋士たちは「難しかったです。合格できるかどうか自信ありません」と感想を語りました。とくに数字が解答の問題は、考えにくかったと思います。※中村、富岡は3級、熊倉は6級に合格しました。
その一例がBコース第27問の《大山康晴十五世名人がNHK杯戦で最年長記録で優勝した年齢》という内容の問題。ヒントは①59歳②61歳③63歳。富岡八段が「どの年齢で優勝してもすごい」と言ったように、2歳違いのヒントでは難しかったようです。
正解は②61歳。大山は1984年に決勝で加藤一二三前名人に勝ち、8回目の優勝をしました。ちなみに今期のNHK杯戦の出場者の中で、60代は森雞二九段、50代は谷川浩司九段、高橋道雄九段、堀口弘治七段と、50歳以上は4人しかいません。大山の偉大さが改めてわかります。
中村九段はDコース(7級・8級・9級)第57問の《中村修九段、屋敷伸之九段、丸山忠久九段が優勝したアマの将棋大会》という内容の問題を見て笑っていました。ヒントは①小学生名人戦②中学生名人戦③中学生選抜選手権。
正解は②中学生名人戦。中村は1976年の第1回、丸山は第9回、屋敷は第10回の優勝者です。1991年の第16回以降では、プロ棋士になった優勝者はいません。つまり棋士をめざして奨励会に入る年齢が若年化しているからです。過去38回の小学生名人戦の優勝者で棋士になったのは、羽生善治三冠、渡辺明二冠、鈴木大介八段、野月浩貴七段、村山慈明六段、高崎一生六段、佐々木勇気四段など11人います。
私はトークショーの会場で、受検者たちにも感想を聞いてみました。「難しかったけど勉強になった」「意外なことを知って面白かった」など、問題の内容はおおむね好評でした。一方で「マニアックな問題があった」という批判もありました。
マニアックという言葉はよく使われますが、実際にはどんな問題を指すのでしょうか…。問題の中には、将棋文化の知識のほかに、遊びの要素がある雑学が少しありました。
その一例がAコース第28問の《漫画好きの矢内理絵子女流四段が全巻を揃えているコミック》という内容の問題。ヒントは①金田一少年の事件簿②ワンピース③ガラスの仮面。
正解は①金田一少年の事件簿。棋士の個人的な趣味が将棋文化と関係があるのか、という批判はもっともです。しかしNHK杯戦の番組の司会者を長く務めている人気女流棋士の私的な一面は、将棋ファンに興味深いことではないでしょうか。私が矢内女流からじかに聞いた話で、その意外性が面白いと思って出題しました。
第2回将棋文化検定の受検者は約600人でした。第1回の約900人に比べて、残念ながら3分の2に減りました。その原因ははっきりわかりません。
受検者のアンケートには、「会場を増やしてほしい」「会場(東京)までの交通の便が悪い」「問題の内容に疑問がある」「特典を充実させてほしい」「詳しい内容の公式テキストを作ってほしい」「公的な資格にしてほしい」などの意見や批判が寄せられました。これらは今後の課題といえます。
私が実行委員として痛感するのは、将棋文化検定の存在がよく知られていないことです。その意味で、もっと宣伝する必要があります。近年は「見る将棋ファン」が増えています。そういった人たちを取り込めれば、発展する可能性は十分にあると思います。
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コメント
本日行われた田丸先生の対局、携帯中継で拝見させていただきました。
今年最後の祝日を返上しての武市三郎六段との力戦、大変お疲れ様であります。
勝ち負けに関わらず、田丸昇・獅子丸・ロン毛丸・ライオン丸先生の勇姿を携帯から拝見することができたのは、ファン冥利に尽きます。
今年度限りで引退が予定されている武市六段にとっても、悔いのない満足できる対局だったに違いございません。
投稿: 柳 | 2013年12月24日 (火) 01時15分
私も矢内さんの漫画の趣味の問題については感心しない1人です。しかし私は以前、中原さんが「左遷の哲学」という本に感銘を受けたということを何かで読み、興味を持ち本を購入し、今でもよく読んでおります。(ちなみに私は大変苦労しているサラリーマンです。)そのように、良いものを紹介する機会としてなら、良いかもしれません。
投稿: 地蔵流2 | 2013年12月29日 (日) 07時24分
かなり古いエントリですが、あえてコメントします。矢内女流の漫画の趣味について出題するのは私も指しすぎかと感じました。ことに問題があると感じたのは田丸先生が矢内女流から直接伺った、という情報源の性格です。矢内女流がNHK杯の放送やあるいは雑誌取材のなかで触れたから取材した出題なら、このような反応はなかったかと思料します。棋界関係者と直接交流がないものには知りえないような内容は、一般のファンが数千円を払って参加する検定試験の問題としては不適切と思いますがいかがでしょうか。
投稿: Britty | 2014年3月 4日 (火) 00時18分