将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2013年10月20日 (日)

第3回電王戦の5人の出場棋士は屋敷九段、豊島七段、菅井五段らに決定

来年の3月から4月にかけて行われる第3回「電王戦」の出場棋士が10月7日に発表されました。すでに出場が決まっていた屋敷伸之九段のほかに、森下卓九段、豊島将之七段、佐藤紳哉六段、菅井竜也五段の5人です。

屋敷は元タイトル保持者でA級棋士、森下は元A級棋士、豊島はタイトル戦経験者、佐藤はバラエティー番組に出演した人気者、菅井は関西のホープと、実績・段位・年代・話題性などを総合的に勘案して、多くの候補者の中から人選されたそうです。

第2回電王戦の出場棋士(三浦弘行八段、塚田泰明九段、船江恒平五段、佐藤慎一四段、阿部光瑠四段)の実力は相当なものでしたが、第3回はさらにパワーアップした感じです。

第2回はプロ棋士側が1勝3敗1持将棋と負け越しました。その敗因については、いろいろな見方があります。私はコンピューター将棋の実力がプロの水準にすでに達していることは認めますが、プロ側の「絶対に勝たねばならない」というプレッシャー、「終盤の一手違いの寄せ合いでは負けそう」というコンピューター将棋の底知れない詰めの能力への畏怖が、結果的に大きく影響したと思います。後者をマラソンに例えると、競技場での最後のトラック勝負になった場合、コンピューター将棋の速さには勝てないという心理です。

私は第5局(三浦八段―GPS将棋)で立会人を務めました。三浦が得意とする相矢倉の戦型でしたが、第4局(塚田九段―Puella α)でコンピューター将棋が持将棋模様の指し方に不得手だったという意識があったのか、三浦は中盤から入玉をめざすような指し方を採りました。私は盤側で「なぜ普通に指さないのだろうか」と不思議に思いました。もちろん三浦は勝つための戦略だったのですが、結果は一方的に攻められて完敗しました。

第3回の人選について、将棋連盟の担当理事は「勝利をつかめるという意味で人選し、良いメンバーが揃いました」と語りました。確かに前記の棋士たちなら、勝ち越して当然だと思います。また、第2回の反省を踏まえて臨むはずです。私は4勝1敗と予想します。敗者予想は言わないでおきます。

第2回は全局が相居飛車でした。第3回は、菅井五段の振り飛車が見られそうで、コンピューター将棋の作戦が楽しみです。とにかく第3回では、プロ棋士側は普段どおりの将棋を指してほしいと、私は思っています。

コンピューター将棋は、プロ棋士の棋譜を数多く入力してきたことで今日の実力をつけました。しかし最近は逆転現象が起きています。

その顕著な例が、今年の名人戦(森内俊之名人―羽生善治三冠)第5局です。実戦例がある相矢倉の中盤の局面で、森内が△3七銀と飛車取りに打つ新手を指したのです。羽生は意表を突かれたのか、104分も大長考して▲5八飛と逃げました。その後、森内の指し手は冴えわたり、羽生はついに挽回できませんでした。森内は快勝し、4勝1敗で名人位を防衛しました。

局後の話によると、第5局の20日ほど前に、将棋ソフト「ponanza」がネット将棋で前記と同一局面で△3七銀と打ったそうです。それを見たネット関係者が、第3局の打ち上げの場で森内に話しました。そして森内は第5局で、その△3七銀が有力と考えて実際に指しました。まさにコンピューター将棋の手を参考にして勝ったのです。

9月に行われたA級順位戦の渡辺明竜王―行方尚史八段戦の序盤は、電王戦第5局と同じ局面になりました(実際は先手・後手の違いで、端歩の位置が少し違う)。そして先手の行方は、GPS将棋が初めて用いた▲3五歩△同歩▲2六銀の手法で仕掛けました。以下も同じ手順で進みましたが、10手後の局面で行方は▲4六金と打って違う手を指しました。その手は行方の新工夫かと思われました。しかし単なる記憶違いだったのです。以後は苦しい形勢となり、行方が完敗しました。なおGPS将棋は、後に▲2六金(実際は△8四金)と打ちました。行方はコンピューター将棋の手を参考にしましたが、しまらない結果となりました。

ところで、プロ棋士がコンピューター将棋に勝てない時代がいずれくるかもしれません。私たち棋士にとっては切実な問題です。羽生三冠はそれについて、「そのときはルールをひとつ変えるだけでいい」と語ったそうです。なかなかユニークな発想です。それでプロ棋士が再び優位に立てる可能性はあります。ただ実際にはどう変えるのでしょうか…。また、プロ棋士が変化への順応力でコンピューター将棋より勝るとは言い切れません。何よりも懸念されるのは、将棋の本来の魅力が損なわれて将棋ファンに見放されたら元も子もありません。

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コメント

今回は持ち時間5時間ソフト貸出とプロにとって有利な条件ですが逆にいえば、これで負けたら、将棋が弱いと認めざる得ないですね!言い訳できないですね!開発者にとってはソフト貸出同一マシンは相当厳しいですが
トーナメント賞金とやりがいのある・・お互い納得できる良いルール
ですね!今から楽しみです。

投稿: オンラインブログ検定 | 2013年10月22日 (火) 21時12分

田丸先生こんにちは
ソフトがプロを凌駕してしまったことを危惧されているご様子ですが、一ファンの意見としてはそれほどたいしたことではないように思います。
私は24で高段タブのトップ対局をよく観戦しますが同程度の実力はあると思われる自分のPCに入っているソフトの対局を観戦しようとは全く思いません。
そんなものを観戦するくらいなら低級の対局を観戦した方がまだ面白い。
たぶん私と同じ感覚のファンが大多数かと思います。
なぜなら強さも重要ですが人間同士の「勝負」が実は将棋の醍醐味かと思われるからです。
確かにソフトの向上によって奪われる仕事も無くはないでしょうが売るパイを増やす、すなわち普及が伴えばそれも少なくて済みますからその点ではメリットも大きい。
なんにせよソフトには感情移入できないのでいくら強くてもソフトがプロに完全にとって変わることはできません。
ですから特に現役プロの方々には妙なことを気に病むことなく今までどおり鍛練して頂きたいと思います。

投稿: 紅葉 | 2013年10月23日 (水) 07時49分

なぜプロ棋士がコンピューターを恐れるのかがわからない
人間同士、己の頭と体で行うからこその競技です
例えばオリンピックの陸上競技で一人バイクに乗って参加して
勝ったところで、観てる人間は「だから何?当たり前だろ」です

投稿: | 2013年10月26日 (土) 16時41分

田丸先生、こんにちは。

紅葉さんが言われる「ソフトには感情移入できない」は、全くその通りですね。
先日の第二回電王戦は私も全対局を可能な限り生で見ました。感動しました。何に感動したかというと「間違わない、疲れないコンピュータに対して全身全霊で立ち向かうプロの姿」に感情移入し、感動したのだと思います。

その後、王座戦の現地大盤解説会に行く機会があったのですが、羽生さんと中村太地さんが繰り出す妙手の数々に酔うばかりでした。

王座戦は羽生さんのギリギリの防衛で終わりましたが、中村太地さんは次の機会には必ずタイトルを獲るだろう、と確信させる素晴らしいシリーズでした。

その後、渡辺竜王が十連覇を賭けて森内名人と戦うシリーズが始まっており、森内名人のファンである私は眼を離せません。

昨日は、女流王座戦第一局で、里見さんを「後手番で」粉砕した加藤桃子さんの強さに感動しました。女流棋界に君臨する里見さんがこういう負け方をしたのは記憶にありません。こちらのシリーズも楽しみです。

私は、どちらかというと女流棋士の将棋が好きなのですが、香川さんが女流王将に輝いたり(棋譜はまだ分かりませんが)、甲斐さんが深浦九段に持ち時間四時間の将棋で勝利を収めたりと凄いことが続いていますね。
里見さんの一人勝ちを許さない、という、女流棋士や女性奨励会員の奮起には眼を離せません。

私は、「プロの将棋にお金を出す人=真の将棋ファン」と考えていますが、
「将棋世界や週刊将棋の実売部数」
「囲碁将棋チャンネルの加入者数(囲碁ファンも入りますが)」
「タイトル戦の大盤解説会(有料)の来場者数」
などは、プロが負けてしまった第二回電王戦の後で、減るどころか逆に増えているのではないでしょうか?

プロの皆さんには、どうか自信を持って頂きたいです。
コンピュータには、決してプロの代わりは務まりません。
その理由は、紅葉さんが簡潔に言われたように
「ソフトには感情移入できない」
からです。

投稿: オヤジ | 2013年10月27日 (日) 17時23分

そういえば、最近はほとんどのタイトル戦がニコ生で中継され、大いに楽しませて頂いております。
先日は、田丸先生と本田小百合さんのコンビで名解説を堪能いたしました。田丸先生には、ぜひまた出演して頂きたいです。

ニコ生中継は、スポンサー様が経費を負担して下さることで実施されているものと思いますが、女流タイトル戦については行われませんね。

「棋士のタイトル戦に比べ、女流タイトル戦はスポンサー様が拠出して下さるお金が少ない」
という単純な理由もあるとは思うのですが、マイナビ女子オープンやリコー杯女流王座戦は、ニコ生中継ができないほどお金がないとも思えません。

いろいろな事情があるのでしょうが、「女流タイトル戦でのニコ生中継」をぜひ実現して頂きたいと常々思っております。

投稿: オヤジ | 2013年10月27日 (日) 17時31分

田丸先生こんにちは。
コンピュータ将棋がプロ棋士の実力を上回る=将棋の本来の魅力が損なわれる、というのは違うのでは?と感じています。
理由は他の方々がコメントしている通りです。

個人的に電王戦について気になるのは、コンピュータと人間が対局する上で平等な条件とは何かというのを連盟とコンピュータ将棋協会とではっきりと決めるべきではないか、という事です。
・クラスタでコンピュータを数百台使う事が平等か(第3回電王戦では無理ですが)
・棋士側が事前に実機で練習対局できるのは平等か(コンピュータ同士で数百局対局をしてその棋譜を棋士側に提供すれば、事前に棋譜を得ているという意味では平等ですが、棋士個人が棋譜をもとにしてコンピュータの対策を練るのは現実的ではない?)

第3回電王戦で棋士側が勝ち越した時に、棋士に有利な条件に変えたのだから勝って当然と言われるのは、出場したがらない棋士が多いであろう中で今回出場した5人が気の毒だなと感じます。

11月7日の竜王戦の解説も楽しみにしております。

投稿: 鰻 | 2013年11月 2日 (土) 19時52分

田丸先生。私は古くからの将棋ファンですが、コンピューター将棋に関する連盟の対応が見ていて歯がゆく、失礼を承知の上で書かせていただきたいと思います。

将棋ソフトが人外の強さになり、まともに戦ったらプロ棋士でもほとんど勝てないほどになりました。田丸先生のおっしゃる「プロ棋士がコンピューター将棋に勝てない時代」はまだ到来しておりませんが、実質的にはそれに近い情況になっているように思います。

第三回電王戦ではコンピューターの能力を一律に制限し、ソフト貸し出しを開発者に強制し、更にその後のソフト更新を一切認めないという途方もないルールが適用されました。人間側には何もなく、将棋ソフトとコンピューター側にのみ制限や義務を課すという一方的なやりかたですが、こうでもしないと勝負にならないのでしょう。電王戦出場のプロ棋士たちは、これから5か月間に及ぶ長い「自分探し」ならぬ「バグ探し」の旅に出るのだろうと思います。

コンピューター将棋が人間を凌駕しても大したことはないというご意見が多いようですが、私はそうは思いません。プロ棋士たちは深刻な事態に直面していると思います。第二回の電王戦でプロ棋士側が惨敗し、棋士のプライドは大きく傷つきました。これはもう取り返しようがありません。プロ棋士が今後も同程度の強さに留まっているのに対して、将棋ソフトはどんどん強くなってゆくからです。

強さを拠り所としてきた者たちは、その強さがほんのすこしでも疑われるとみじめなことになります。
「将棋ソフトに勝てなくても問題はない」
「人間同士の戦いにこそ価値がある」
「ソフト同士の対局など、見ていてちっとも面白くない」
プロ棋士に対する驚くほどの深情けで、連盟にとってはありがたい限りかもしれませんが、そういうファンばかりではないと思います。

対局禁止令を下してこのかた、将棋連盟はずいぶんと悪あがきをしています。女流棋士を出したり、引退棋士を出したり。これは姑息な時間かせぎでしたが、いずれもひどい負け方をしました。その間にも将棋ソフトはどんどん強くなり、手がつけられないほどになってゆきます。第二回の電王戦でプロ棋士が対局したときにはすでに遅く、五人も出ていながら、たったひとりしか将棋ソフトに勝てませんでした。このとき勝負はついたのだと思います。だから第三回の電王戦は、第二回のとき以上の極端なハンデ戦になりました。あれほどのひどいハンデ戦ですから、勝敗そのものにもう意味はありません。連盟の悪あがきは、まだ続いています。

将棋ソフトにはまるっきり勝てません。でも将棋のプロです。こう言わなければならない時代がもうすぐやってきます。

投稿: くろねこ | 2013年11月 9日 (土) 18時50分

くろねこさんの意見について。
「MLBではまるっきり通用しません。でも野球のプロです」
はそんなに深刻なことなことなんですかね。
あるいはMLBよりレベルの低い日本のプロ野球はMLBにどんどんファンを奪われていづれ衰退するんでしょうか。
ちょっと、というかかなり飛躍してるとしか考えられませんが。
ところで、電王戦はプロ棋士によるデバッグ作業なんでしょうか。
この件については確かにそういう側面はありますね。
でも私は楽しみにしてますよ。
面白そうだから。
プロが全敗じゃつまらないけどこのルールならプロ側の勝利が複数期待できそうですし。
出場棋士には申し訳ないけどファンにとってはお祭りなので楽しまないと損だと思います。
くろねこさんは羽生先生がプロの面子をかけて二日制でスーパーコンピューターと番勝負を戦う、みたいなのを期待してるようですがそれは残念ながら実現しないと思います。
そんなことやっても誰一人得しませんからね。
それこそおやじさんがおっしゃる「将棋にお金を出さない将棋ファンではないたくさんの人々」のニュースとして一瞬で消費されてそれでお仕舞いでしょう。
まあ、プロの面子なんて本人が気にすることであって押し付けるものではありません。
ファンなら楽しまないと。

投稿: 紅葉 | 2013年11月18日 (月) 05時45分

田丸先生、こんにちは。

羽生さんに出てほしいという将棋ファンが多いようですが、そうなっても結果はあまり変わらないでしょう。
へぼ将棋の素人から見れば羽生さんも三浦さんも同じように強いのと同様に、将棋ソフトから見れば羽生さんも三浦さんも同じような強さなのだと思います。

強豪の三浦さんがああいう負け方をしたのですから、将棋ソフトの強さはもうわかりました。羽生さんなら勝てると思っている人もいるようですが、いかがなものでしょうか。
ただ「羽生さんなら」という幻想がまだ死んでいないことも確かであって、将棋連盟はその幻想をできるだけ長く(おそらく永遠に)維持しようとしていると思います。
子供っぽい幻想であっても、すっかり幻想がなくなってしまって、化けの皮がはがれた状態になるよりはずっとましですからね。

かつて内藤さんが「名勝負師は言い訳をする」と言いましたが、これはプロ棋士たちの言いわけなのです。
羽生さんが負けていないのだから、プロ棋士が将棋ソフトに負けたわけではない。
いかにも苦しい言いざまですが、負けを正直に認めるつらさにくらべたらずっとましなのでしょう。
認めてしまえばいっぺんに楽になりますが、それこそ内藤さんのいう本物の「負け犬」になってしまいますから。

投稿: 榎 | 2013年11月19日 (火) 21時49分

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記事のタイミングがずれてしまいましたが、第3回電王戦の出場棋士が決まりました。 【第3回電王戦】 http://ex.nicovideo.jp/denou/ 片山理事がブログで「今度こそは勝つつもりで、かつ話題性も十分なメンバーを人選したつもりです」とあるように、日本将棋連盟の本気度を感じます。 メンバー構成は枠によって決めているように思います。 この枠は勝手な推測ですが、第2回と第3回を並べると、こんな感じ。 第1局 若手枠:阿部光瑠四段 → 菅井竜也五段 第2局 話題枠:佐藤慎一四段 →... [続きを読む]

受信: 2013年10月21日 (月) 06時29分