将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2013年9月27日 (金)

羽生善治三冠がタイトル戦で居眠りしたという『週刊文春』の記事

今週発売の『週刊文春』(10月3日号)に、「羽生善治三冠 タイトル戦の真っ最中に10分間熟睡」という見出しの記事が載りました。

9月18日に行われた王座戦(羽生善治王座―中村太地六段)第2局で、対局開始の9時から30分ほどたったとき、胡坐になった羽生が右手で前傾した頭を支えながら、「すう…すう…」と軽い寝息を立てて「居眠り」を10分ほどしたというのです。

当日は『ニコニコ動画』が王座戦の対局を生放送していました。視聴者たちは羽生の思わぬ姿を見ると、「疲れがたまっているのか」「相手を惑わす神経戦で、これぞ羽生マジック」などのコメントを寄せて、盤外で大いに盛り上がったそうです。

その局面は、矢倉模様の序盤戦で後手の中村が△5三銀右と上げて急戦策を見せたところでした。最近流行している指し方で、先手の羽生は作戦の岐路でした。羽生はその19手目に、23分を使って▲5七銀右と上げて中央を厚くしました。

ところで、羽生はその局面で本当に居眠りしていたのでしょうか…。羽生は後日、『週刊文春』の取材に対して、「作戦の分岐の場面なので、どの方針でいくか考えていたところでした。眠っていたつもりはないのですが、そのように見えた人も多かったようです」と答えました。相手の中村も「寝ていたことには気づきませんでした」と言ったそうです。

棋士は盤が目の前になくても、頭の中で正確に読み筋を立てられます。目をつむっても同様です。むしろ瞑目したほうが、かえって読みに集中できる場合があります。具体的に言えば、相手の立場になって手を読むとき(盤を反転する)、盤が見えないほうが考えやすいです。

羽生は前記の19手目の局面で、瞑目しながら考えていたと思います。ただ過密な対局日程の影響が出て睡魔にふと襲われ、数分ほど「舟を漕いだ」のかもしれません。中村は表向きはそれを否定しましたが、目の前にいたので気づいていたようです。

タイトル戦に出続けている羽生は、対局室に設置してあるカメラの存在をもちろん意識しています。もし眠気を感じたら、席を外して個室で休むこともできます。王座戦での居眠りは偶発的なものだったと思います。

棋士が対局中に居眠りすることは決して珍しくありません。私も経験がありますが、昼食後の午後1~2時頃によく眠くなりました。そんなときは、控室で少し横になることにしました。体力がある若い棋士でも、午後に控室で横になって休んでいる光景をよく見ます。たとえ自分の手番でも、もうろうとした状態で悪手を指すよりはましです。持ち時間の多い対局では、心身のコンディションを整えるのも大事な要素なのです。

夕食後は戦いが佳境に入るために、眠くなることはめったにありません。とくに持ち時間・6時間の順位戦では、夜戦になってからが勝負どころです。そこで最大限に力を発揮できるように、午後は少しぐらいの「昼行燈」でもいいのです。

王座戦第2局は203手に及ぶ大激闘で、「善悪を超えた人間の勝負」だったと評されました。結果は羽生が勝ち、1勝1敗の五分に持ち直しました。最後まで集中力を絶やさなかったのは、対局開始まもないしばしの「休養」が利いたのかもしれません。

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