田丸の勝率、里見香奈女流四冠へのコメントと遅刻の罰則規定について
「700敗ですか! A級経験ありのベテラン棋士で、600勝していない棋士は珍しいのではないでしょうか。思いつくのは木村義徳九段くらいかな。勝率もひょっとしたらワーストでは? 意外性の棋士・田丸九段らしいといえば、その通りですが(笑)」というコメント(8月30日)は《ホネツギマン》さん。
A級経験がある50歳以上の現役棋士で、通算勝利が600勝に満たず通算勝率が負け越しなのは、私こと田丸九段(540勝。0.435)だけです。引退棋士の中には通算勝率で負け越しが何人かいますが、いずれも600勝以上で勝率も私より高いです。最年長記録の44歳でA級に昇級した木村九段は412勝455敗(0.475)。どうやら勝率は私がワーストのようです。なお木村九段は早く引退したので(55歳。棋士年数は30年)、勝利数は400勝台にとどまりました。
《ホネツギマン》さんのコメントのように、私の通算の勝利数・勝率でA級に昇級したり九段に昇段できたのは、まさに「意外」というしかないでしょう。だから42年の棋士人生を振り返ってみて、「運」が良かったとつくづく思っています。ただ勝負に生きる者にとって、運こそがとても重要なのです。その運をつかみ取るには、日頃の努力が大事なことはいうまでもありません。後は時世の流れに乗れるかどうかでしょう…。
「里見香奈さん(女流四冠)が7月に、奨励会で女性として初の二段に昇段しました。彼女の人柄や印象について語っていただけますか」という内容のコメント(7月30日)は《将棋太郎》さん。
里見さんが奨励会に1級として編入されたのは2年前の5月。それ以来、華やかに注目を浴びる女流トップ棋士と、地道な修業を重ねる奨励会員という「二足の草鞋」の日々を送っていますが、何とか両立させているようです。先日も、終局が深夜になる順位戦の記録係を務めました。ただ本人も自覚していると思いますが、二段はあくまでも通過点です。三段リーグに入ってからが本当の勝負といえます。
私は里見さんと個人的に話したことはありません。とにかく将棋一筋に打ち込んでいて、人柄も良いので関西の先輩棋士に可愛がられている印象があります。
里見さんが11年前(当時10歳)に女流アマ名人戦に出場したとき、私は『将棋世界』編集長として話を聞き、「幼稚園の頃に棋力三段の父親から将棋を習った。今では広島、米子の大会に出て力をつけ、父親が10局のうち2局勝てるかどうか。詰将棋は10題解くのが日課。将来は女流棋士志望。好きな棋士は、2年前の出雲市の将棋の日イベントで2枚落ちで教えてくれた高橋和二段」という記事にまとめました。
ところで今年6月の将棋連盟総会では、「持ち時間にかかわらず最長1時間の遅刻で不戦敗」という規定が決まりました。以前は持ち時間・6時間の順位戦の場合、1時間59分の遅刻で持ち時間を3倍引かれても、残り3分で対局できました。しかしほかの競技に比べて甘いという指摘があり、1時間に短縮されました。
じつは昨年11月には、「テレビ対局」(NHK杯戦・銀河戦・女流王将戦)に関する遅刻規定が新たに決まりました。テレビ対局では、収録の準備やリハーサルがあって、通常の対局のように定刻どおり始まりません。それをいいことに、所定の集合時間(対局開始の30分前)に遅刻する例がたまにありました。
新規定では、5分以内の遅刻で5千円以下、10分以内で1万円以下と、5分きざみで罰金が増え、30分を超える遅刻は10万円以下の罰金が生じます。遅刻によって対局が行われない場合、さらに高額の罰金と次期出場停止という処分が課せられます。これは対局者のケースです。解説者・聞き手・記録係などの出演者の遅刻も、前記と同様の罰金が生じます。
私は、プロである以上、決して厳しい罰則とは思いません。演劇の舞台公演で、出演者の1人が日時をうっかりして公演が休止され、高額の賠償金を請求された事例もありました。
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コメント
将棋世界で、青野先生が書いておられた連載を引き継がれるのですね。来月から、田丸先生の文章を毎月拝読できるのが楽しみです。
「ホネツギマン」さんのコメントは、正直、田丸先生にずいぶん失礼だよなあ・・・と感じていたのですが、田丸先生の返しはお見事でした。
「ただ勝負に生きる者にとって、運こそがとても重要なのです。その運をつかみ取るには、日頃の努力が大事なことはいうまでもありません。後は時世の流れに乗れるかどうかでしょう…。」
実に深いお言葉ですね。
投稿: オヤジ | 2013年9月 2日 (月) 20時59分
以前、朝日杯で久保vs阿久津戦で阿久津さんが13分遅刻して、持ち時間からそのまま引かれたことがありましたね。
朝日杯の規定ではそのままですが、仮に3倍ひかれていたら残り1分だった・・・という話になったのを覚えています。
朝日杯などの短時間戦の場合はどうなのですか?
お聞かせいただけますでしょうか。
投稿: popoo | 2013年9月 8日 (日) 17時02分
田丸先生、遅れましたが、九段昇段おめでとうございます。私は田中寅彦さんや小林健二さんと同世代なので、田丸先生は少し年上の将棋のプロといった印象です。私が高校にはいった頃は中原さんが名人になった直後で、加藤さん、内藤さん、米長さんなどがすでにA級にいました。森さん、勝浦さん、桐山さんの若手三人(24~5歳)がB1の七段で、もうすぐAにのぼって八段になるだろうと言われていました。
田丸先生が更なる若手として台頭するのは、もうすこしあとだったように思います。私の記憶では、田丸先生は青野さんや真部さんなどと同世代だったような印象です。このお三人が抜いたり抜かれたりしながら、A級にのぼっていったように記憶しています。古い記憶なので間違っているかもしれません。
亡くなられた方もいますが、田丸先生たちベテラン棋士の多くが今なお現役でいらっしゃることは、私にとってたいへんうれしいことです。末永く現役棋士としてご活躍ください。偉そうな物言いになって失礼しました。
投稿: くろねこ | 2013年9月13日 (金) 14時22分
通算勝率が低くても、現役を継続して九段に到達したのは過去の貯金でしょう。
田丸九段の棋風は攻め立てる重厚というより軽快を好み、その分、崩壊する危険性もはらんでいるのでしょうね。最盛期の将棋は華麗だったのでしょうね。
投稿: ぱちょり | 2014年1月23日 (木) 00時24分