サプライズの九段昇段の贈り物、九段免状の文言、九段昇段後の初対局
私が半年ごとに開いている知り合いの将棋愛好家たちとの懇親会が6月初めにあり、今年4月に九段に昇段した私に対してお祝いの言葉が相次ぎました。お酒好きの私にシャンパン、ワイン、酒器などの贈り物もありました。
写真・上は、中でもサプライズだった贈り物でした。
上側は、九段昇段にかけた「九谷焼」の陶器。少し見にくいですが、目が飛び出た鯛が染め付けられていて、「目で鯛(めでたい)」という意味だそうです。
下側は、私の似顔絵が描かれている駒形の「デコレーション・ケーキ」。キャンドルの数は段位と同じ「9本」でした。それにしても、ケーキ職人が私の写真を見て作り上げた似顔絵は、私の特徴をよく捉えています。その精巧さにはとても感心しました。生クリームやフルーツの部分は、みんなで分け合って賞味しました。似顔絵の部分は私が記念品として自宅に持ち帰り、今でも冷蔵庫で保存しています。
先日の懇親会では、九段昇段の喜びを改めて実感しました。
写真・下は、私の九段免状です。文言を説明します。
「夙ニ将棋ニ 天賦ノ資有 蘊奥ヲ極メ 明哲ノ師宗 ナルニ依而 茲ニ九段ニ推ス」
その意味は「早くから将棋に才能の素質があり、将棋の奥義を極め、聡明な師として尊ぶによって、九段に推薦する」です。読み方は「つとに将棋に てんぷのしあり うんおうをきわめ めいてつのしそう なるによって ここに九段におす」です。
将棋の免状の文言は、将棋を愛好した作家の滝井孝作さん(故人)が約55年前に将棋連盟から作成を依頼され、熟慮と推敲を重ねた末に格調の高い文章を撰文しました。初段から九段まで、文言はそれぞれ違います。ちなみに初段は「夙ニ将棋ニ 丹念ニシテ 研鑽怠ラス 進歩顕著ナルヲ認メ 茲ニ初段ヲ允許ス」です。なお初段から七段までの最後の文言は「允許ス」(許可する)ですが、八段と九段は「推ス」(推薦する)です。
私は九段免状の文言のように、将棋の奥義を極めた実力は持っていませんが、今後は聡明な棋士として尊敬されるような生き方をしていきたいと思っています。
私は6月5日、竜王戦6組昇級者決定戦で植山悦行七段と対局しました。4月に九段に昇段して以来、初めての対局でした。
植山七段は今年4月にフリークラス棋士規定によって引退が内定していて、ただひとつ残っている竜王戦で敗れると引退が確定します。つまり私が本局に勝つと、佐瀬(故・勇次名誉九段)一門の弟弟子でもある植山に「引導を渡す」ことになるのです。
故・米長邦雄永世棋聖は現役時代、相手の大事な一戦こそ全力で戦えという、自ら唱えた「米長哲学」を実践してきました。私も兄弟子の米長の言葉どおり、順位戦で昇級候補の棋士を破ったことがあり、順位戦で降級候補の私が逆に負かされたこともありました。とにかく米長の哲学は後輩の棋士たちに浸透し、勝負に情実はまったくありません。
私は植山七段との対局で、米長哲学を実践する思いがある半面、自然体で指したいとも思いました。将棋の戦型は、私が得意としている矢倉模様の急戦型となりました。本来ならば、自分の棋風どおりに攻め込んでいくはずなのに、中盤のある局面でなぜか受けに回ってしまいました。さらに見落としもあって、完敗の結果となりました。
じつは、昨年の弟子の櫛田陽一六段との竜王戦、3年前の飯野健二七段との竜王戦の対局も、今年の植山戦と同じケースでした。櫛田戦は私が負け、飯野戦は私が勝ちました。
3年後に引退が決まっている私も、やはり竜王戦が最後の対局になることでしょう。その対局では「悔いのない現役棋士生活だった」という平静な気持ちで臨めるように、これからの3年間を大事にしたいと思っています。
【追記・6月20日】
私のパソコンに不具合が生じているので、ブログの更新をしばらく休止します。
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コメント
九段ご昇段おめでとうございます!
八段が長かったような気がしますが、九段は最高位で人数も少ないので
お喜びもひとしおかと思います。
ケーキの似顔絵が素敵ですね。良く似ていらっしゃいます。
かなり腕の良い職人さんとお見受け致しました。
投稿: フライドポテト | 2013年6月11日 (火) 16時57分