4月15日の昇段者免状授与式で九段昇段の田丸が挨拶
私は今年の5月5日、63回目の誕生日を迎えました。太陽が昇り始めた朝の5時に生まれ、ちょうど鯉幟(こいのぼり)の季節だったので、祖母が「昇」と命名しました。
私が生まれたとき、逆子の状態でかなり難産となり、助産婦の人は「この子は運が強い」と言ったそうです。その後、少年時代は気管支喘息や小児リューマチの病気で苦しんだこともありましたが、成人してからは健康な体になりました。63歳まで病気で入院したことは一度もなく、元気で暮らしています。また、常備薬、体の消毒、健康をチェックするリトマス水溶液と称して、毎日のように適量の「お酒」を「服用」しています。
4月15日に東京の将棋会館で、第40回将棋大賞表彰式と併せて、昇段者免状授与式が行われ、4月1日付で九段に昇段した私も出席しました。
写真・上は、私の九段免状。手すき和紙の大高檀紙に、将棋愛好家で作家の故・滝井孝作さんの格調高い文章が毛筆で書かれています。
免状の文章は、初段から九段までそれぞれ別になっていて、プロ棋士もアマ愛好者も同じものです。ただアマの免状は「〇〇△△殿」と敬称がつきますが、プロは「棋士 田丸昇」と敬称がつきません。また、アマは将棋連盟会長、名人、竜王の棋士の署名が入りますが、プロは連盟会長の署名だけです。九段免状の読み方と文意は、後日にお伝えします。
写真・下は、連盟会長の谷川浩司九段から九段免状を授与された田丸(中)。
当日は、東京に所属する8人の棋士、3人の女流棋士、9人の指導棋士に免状が授与されました。
写真・中は、私が昇段者を代表して挨拶しているところで、それを次のように紹介させてもらいます。
※写真・中と下は『週刊将棋』が撮影。
「私は22年前に八段に昇段しました。それ以後は公式戦で不成績がずっと続き、現役中の九段昇段は難しい状況になっていました。私が引退した後に九段を贈呈してもらうか、亡くなったら九段を追贈してもらおうと思っていました。それがフリークラス規定によって、思いがけず九段に昇段でき、とてもうれしいです。今日まで棋士を長く続けてこれたおかげだと思っています。その意味で、若手棋士時代に競い合った同年代の滝誠一郎八段と関西の坪内利幸八段、奨励会時代に対戦した田川信之さん(指導棋士七段)と古澤耕二さん(指導棋士六段)とは、ともに昇段した喜びを分かち合いたいです」
「盤上における勝負や技術の向上については、本日の将棋大賞で表彰された優秀な棋士の方々にお任せします。私のようなベテラン棋士は、盤外での何らかの活動を通して将棋界の発展に尽くしたいと思っています」
「この将棋会館が建設されてから37年たちました。当時の連盟副会長だった大山康晴先生(十五世名人)は、献身的に募金活動を展開し、そのおかげで会館が無借金で建ちました。このたび九段に昇段した剱持松二先生も、募金活動で大いに貢献されました。中でも、剱持先生が長年にわたって将棋部の師範を務めていた三菱電機からは、先生の尽力によって多額の寄付金が連盟に寄せられました。会館の4階には、特別対局室に次ぐ格の対局室として《高雄》の間があります。その名前の由来は、東京の《高尾山》でも台湾の《高雄》でもありません。会館が建設された当時、三菱電機は《高雄》という商標名のテレビを販売していました。私の推測ですが、連盟は三菱電機への感謝の印として、《高雄》という名前の対局室を設けたのだと思います。この将棋会館の話が示すように、今日の将棋界があるのは、多くの先輩棋士たちの尽力の賜物です。とくに若い棋士たちは、それを忘れないでください」
将棋大賞表彰式・昇段者免状授与式の後に行われた懇親会では、多くの人たちから「とても良い挨拶でした」と誉められました。私としては、先輩の剱持九段を差し置いて挨拶したので、将棋会館建設時の功績をぜひとも伝えたかったのです。また、《高雄》の対局室の名前の由来を初めて知った人が多かったです。
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コメント
田丸先生、改めまして九段へのご昇段おめでとうございます。昇段者代表として挨拶なさったことは連盟HPや将棋世界の記事で承知しておりましたが、先生ご自身による記事はひと味違いますね。先輩の劔持九段に花を持たせ、「高雄の間」の由来を考察し、先輩棋士達の尽力に感謝するという素晴らしいスピーチで感嘆いたしました。
名人戦第3局のニコ生解説ですが、田丸先生はニコ生で解説なさるのはたぶん初めてですよね。本田女流三段との息のあったご解説を楽しみにしております。
投稿: オヤジ | 2013年5月 6日 (月) 13時36分
ニコニコ動画、名人戦解説はネタが豊富で楽しませてもらいました。「解説9段」の実力を認めます。何より準備がすばらしい! 映像用に明るい色のスーをツ選ぶなど、盤外勝負も完璧でしたね。将棋検定受けてみたくなるから不思議です。いちばんびっくりしたのは、巨人二人の後妻話でした。勝負師の配偶者は難しいのか… アンケート96パーセントが「よかった」はすごいことです。次回が待たれます。
投稿: K島 | 2013年5月 9日 (木) 18時57分
初めて書き込みます。ニコニコ動画で田丸-島戦についてメールした者です。初手から並べて下さり、本当に有難うございました。
私は今でも、田丸先生がA級に昇級したときの対局を次の一手問題にまとめた将棋世界 平成4年7月号付録『突っぱり流 実戦次の一手』を読み返すことがあります。
特に最後の島戦は、勝った方がA級昇級・内容も二転三転の凄い将棋で印象に残っていたのですが、田丸先生や島先生が最後の局面を詰めろでないとわかったのがいつの段階か知りたくてメールしてしまいました。
それにしても、初手から並べていただけたのは望外の嬉しさでした。田丸先生の自戦解説、本当に楽しく興味深かったです。改めて御礼申し上げます。
投稿: tacotaco | 2013年5月 9日 (木) 20時51分