将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2013年3月14日 (木)

今年1月に起きた女流棋士の対局放棄による不戦敗問題の背景

「石橋幸緒女流四段の対局放棄(1月30日のマイナビ女子オープン準決勝・里見香奈女流四冠戦で対局場に現れず不戦敗)によって、日本将棋連盟とLPSA(日本女子プロ将棋協会)の関係が再び注目を集めていますが、LPSA設立までの経緯はお互いの説明に食い違いがあって、将棋ファンとしてはわかりにくいところです」という内容のコメント(3月2日)は《香落ち》さん。

LPSA代表理事の石橋女流四段が里見女流四冠との対局で、前日に対局放棄を発表して不戦敗した問題は、連盟とLPSAとの関係が悪くなるだけでなく、棋戦主催者も巻き込んで複雑な事態となっています。その後、当事者と関係者とで何度か話し合いがされましたが、まだ決着していません。連盟は2月22日に記者会見を開き、これまでの経過を説明するとともに、LPSAと所属する女流棋士たちへの処遇を発表しました(具体的な事項は連盟のホームページに載っています)。

私を含めた大方の将棋関係者は、連盟が執った措置は穏便な内容であるとの見解を持っています。とくに今回の不戦敗問題の背景となっている女流棋士認定(LPSAは昨年、所属するアマの渡部愛さんを女流棋士と認定して女流棋戦への参加を要望した)については、連盟が提示した「一定の条件」をLPSAが満たせば、特例を適用するとしています。8年前に特例のプロ編入試験で棋士となった瀬川晶司五段の例とは状況が違いますが、渡部さんに女流棋戦参加への道を開いたことは、連盟が柔軟に対応して歩み寄ったといえます。ただ「一定の条件」はまだ実施されておらず、今後の成り行きは流動的です。

棋士にとって、公式戦の対局は最大の公務です。その対局を不戦敗した例は、病気や負傷のほかに、台風や地震の天災で交通機関がストップ、対局日を間違える、遅刻して時間切れなどがあり、それらの中にはやむをえない事由もあります。

石橋女流四段のように、対局前日に記者会見を開いて対局放棄を発表したのは前代未聞のことでした。しかしどんな事情があるにせよ、将棋を生業にする棋士が故意に不戦敗するのは絶対にあってはならないことで、棋戦主催者や将棋ファンの理解も得られません。

5年ほど前に17人の女流棋士(当時は全女流棋士の約3割)が連盟を離脱し、LPSAという新団体を設立しました。それに至った経緯については、将棋ファンの《香落ち》さんだけでなく、私たち棋士もよくわからないところがあります。「女流棋士たちは待遇改善を連盟に求めたが、受け入れられず独立した」「連盟は離脱を懸命に引き止めた」「連盟から追い出された」「連盟は女流棋士たちの動きを分断させた」など、様々な風評が流れたものです。いずれにしても、当時の連盟会長・米長邦雄永世棋聖の意向や判断が少なからず影響したようです。

LPSAの設立は、大企業の女子社員たちが退職してベンチャー企業を立ち上げたようなものです。支持者からは「勇気ある行動」と讃えられたそうです。連盟とは違った独自の形態で活動し、ひいては女流棋界が活性化したり将棋ファンが増えていくのが理想的な展開です。実際にLPSAの活動の中には、評価したいものがあります。ただ連盟と協力し合って、女流棋士全体で活動すればもっと盛り上がると思います。

「○○△△銀行」という社名が示すように、同業他社同士が合併して資本の増強を図り、厳しい経済状況に対応していくのが現代社会です。そんな時代において、経済規模が極めて小さい将棋界の中で、少数派の女流棋士が分裂している事態に疑問を抱いている将棋ファンは多いのではないでしょうか。私個人としては、いつの日か「雨降って地固まる」になればいいなと思っています。

61年前の1952年(昭和27年)、第1期王将戦(木村義雄王将―升田幸三八段)でも升田が対局放棄する事態が起きました。世にいう「陣屋事件」です。次回は、その経過と真相をテーマとします。

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コメント

こんにちわhappy01papernote。久しぶりの投稿になります。
・・・石橋女流の行動にはガックリ、ガッカリの一言ですpoutannoy
どうしても記者会見を開きたかったのなら、まず里見女流との対局に臨み、結果がどうであれ、そのあと記者会見すべきでした。
もしあの対局、石橋さんが勝っていれば、『石橋女王』への道が開けるわけで、マイナビさんらの見識も変わっていたでしょうに・・・。
やはり棋士が状況を変えるには、『対局』しかないんですね。
それと、渡部愛さんの存在は『いずれ女流棋士の認定を、連盟に求めるだろう。そのとき揉め事にならなきゃいいけどな』と思っていましたが、『やはり・・・』という気持ちですね。
連盟から『渡部さんを女流棋士として認めてほしいなら、まず彼女を研修会に入れなさい。そして規定の成績を挙げなさい』と言われたそうですが、ここは一歩譲って『そうします。ですが彼女もすでにこちらでは女流棋士として認めていますので、そちらの規定の数勝分は削ってください』と交渉してみたほうが良かったのでは?
つまり『100対0』を求めるのではなく『49対51』。
向うの言い分は聞きますが、少しこちらの言い分も聞いてください、というやり方です。
これなら穏便に事は済み、お互いの活動に支障はなく、スポンサーの交渉も、今よりマシになっていたのではないか、そう思います。
今後の交渉も難航を極めるでしょうが、私も田丸先生と同感で、『雨降って地固まる』を期待しています。

投稿: S.H | 2013年3月14日 (木) 16時33分

対局放棄は棋士としてしてはならないことと思います。
私も一ファンとして楽しみにしていたので残念でした。
将棋世界4月号での青野照市九段の言葉が非常に印象的でした。
ひとつの棋戦を開催にこぎつけるのは多くの人の努力や苦労の結果。それをいとも簡単に崩す行為に理は無いでしょう。
7六歩と指したら相手が席を立ってしまったという印象です。
棋士資格の問題解決のために対局放棄という手段を選んだとしたら今世紀最大の悪手ではないでしょうか。
何とか円満解決になることを望みます。

投稿: こうめい | 2013年3月14日 (木) 23時04分

対局拒否

対局拒否は甚だ遺憾です。
やっては、「イカン」行為です。
喧嘩を仕掛けては、「雨降って地固まる」どころか、
「鞭振って血固まる」 血の雨が降りそうです。

大局観が欠落している印象です。

投稿: harug | 2013年3月15日 (金) 00時17分

田丸先生、こんにちは。取り上げにくいテーマを取り上げて頂き有り難うございます。

私も将棋世界今月号の青野先生のコメントを読みました。連盟が、今日まで女流棋界を盛り立てる=女流棋戦を維持し拡大するためにどれだけの努力を重ねてきたかが良く分かりました。

今回、LPSAは「機関決定」により「対局拒否」を行い、記者会見でマイナビ社を批判し、マイナビ社に送った文書を公開しました。この文書はネットでは「怪文書」と評されており、私も読んで呆れ果てました。

経済学の概念で「フリーライダー」というのがあります。私は、LPSAは「将棋界のフリーライダー」と評すべきと考えます。

今日の日本の将棋や囲碁の棋士は、対局で公明正大に食べて行けます。これは「当たり前」ではありません。欧米では、チェスで食べて行けるシステムは今も昔も存在しないようです。

棋戦が開催され、棋士が将棋に専念できるのは、スポンサーのおかげです。我々将棋ファンがプロの将棋を楽しめるのもスポンサーのおかげです。棋士もファンもスポンサーにお世話になっていると考えるべきでしょう。

将棋界のフリーライダーであるLPSAが、今回のような愚行を「機関決定」で行った以上、田丸先生がおっしゃる「雨降って地固まる」は、もはや難しいのではないでしょうか。

私は「LPSAの女流棋士など二度と見たくない」と感じております。

投稿: オヤジ | 2013年3月17日 (日) 22時06分

私の意見はもう少し強くて、LPSAの女流棋士というより「連盟含む全ての女流棋士など二度と見たくない」です。女流制度自体が男性を差別している制度なので女流制度そのものを解体すべきだと僕は考えています。最初から「女性ありき」の頭数合わせ制度で公正な競争社会の原理になっていないんですね。そもそも今回の問題も差別的な女流制度がなければ起こらない話で将棋界にいつも秩序を乱す問題を巻き起こすのは女流棋士です。
今回はLPSAの問題というよりも女流棋士そのものの問題だと思っています。

投稿: と金丸 | 2013年3月18日 (月) 14時24分

田丸先生のブログで、このようなコメントをする非礼をまずお詫びします。

この記事に対して、2件のコメントをしている「と金丸」さんは、片上大輔先生のブログのコメント欄で、女流棋士に対する憎悪を剥き出しにしたコメントを繰り返し、「荒らし」と認定された「と金丸」さんと、投稿内容からみて同一人物と思われます。

「と金丸」さんと対話しようとしても不毛な結果に終わります。皆さん、ご注意下さい。

http://blog.goo.ne.jp/shogi-daichan/e/e2e9f260510922a499e6de3143b3bfbd#comment-list

投稿: オヤジ | 2013年3月18日 (月) 21時05分

荒らしとして扱って現実を誤魔かすのは簡単です。
しかし差別をされている男性アマチュア棋士達が星の数程いるんです。
まずその観点から見て下さい。
女流棋士が権利のないプロ棋戦に参加しているのはルール違反です。
アマ棋戦に出ているアマチュア棋士は皆アマの大会で勝ちあがって権利を得てその場にいるんです。

女流棋士とは違うんです!

プロであアマであれ皆犠牲を払って将棋を指しています。いくら負けても立場が安泰なのは女流棋士だけです。
貴方と決定的に意見が異なるのは
「フリーライダー」とはLPSAだけに限らず女流棋士全てに言えるという事です。

はっきり言います。
文句を言うならアマ棋戦に出て勝ち上がってプロ棋戦に出て下さい。
当事者達からすれば女流棋士の参加は率直に言って非常に不愉快です。
当たり前の事が荒らし扱いされるというのはちょっと異常な事です。
ルールを守って戦っている人が頭ハネをされ金くれ金くれ、棋戦にも参加させてくれってゴネ得をしている人達がいつも得をしている。
もうちょっといい加減にしてくれないかと思っています。
それをスポンサーの意向の一言で片付けるのはそれは将棋そのものを愚弄しています。私が言っているのはルールを守るという

当たり前の事

ですからね。正論を荒らし扱いし悪人に仕立て上げる。
女流支援団体の方々のいつものやり口です。正論を荒らし扱いされたらたまりません。皆当たり前の事をしているのに女流棋士だけが過剰優遇されているという事が問題なんです。優遇じゃないんです。過剰優遇なんです。
それによって男性差別が起こっている。
私は将棋界程男性差別の酷い社会はないと思っています。

投稿: と金丸 | 2013年3月19日 (火) 01時08分

それと一つ付け加えておくと、渡部さんの三級に関して連盟側はそこは絶対に折れてはいけない部分だと思っています。これに関しては如何なる妥協案も論外です。(基準を緩くする等)
そんなごり押しに対して特例を連発していたら「特例」ではなくなりますし、何より同じルールで将来を志している研修会の子達に示しがつかないだけでなく志半ばで夢を諦めた子だけでなく今いる女流棋士だって同じルールでやっているんですから。こういった根底のルールは如何なる例外もあってはないらない事だと思います。
折れるべきはLPSA側で将棋連盟側が悪い事は何一つやっていないので0.1%の妥協も有り得ません。
LPSA側は自分達が「お願いする」という立場である事を完全に分かっていません。自分達の分だとか立場というものを全く理解していない。
ネット等で○チガイ親子と言われても仕方がないと思います。

投稿: と金丸 | 2013年3月19日 (火) 01時38分

 はじめまして。私は、「将棋を生業にする棋士が故意に不戦敗するのは絶対にあってはならないことで、棋戦主催者や将棋ファンの理解も得られません。」は、言い過ぎだと考えます。組織が構成員に「故意の不戦敗は許さない」のは自由ですが、状況によっては対局拒否が正当、あるいはやむを得ない場面もありうるのではないでしょうか。結果だけで判断できないはずです。原因がわからないのに結果だけみて、けしからんというのは、私は将棋ファンとしては言えません。だから、田丸様が、その認識している事情等の下で故意の不戦敗はいけないというのであれば、それはひとつの考えとしてはあると思います。失礼な言い方ですが、「どんな事情があっても棋士だからダメ」なんて短絡的な思考を本気でしているとは思えないのです。
 LPSAと連盟の間に問題があって、それでとばっちりを受けるスポンサーが怒っても、それは理解できるのですが。当事者(に近い立場の方)がそういう発言をすると、問題の本質に目が向くことからそらそうとしているのかとかんぐってしまいます。
 

投稿: もりのこえ | 2013年4月23日 (火) 20時07分

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とても残念な事態です。 【日本将棋連盟側声明】 http://www.shogi.or.jp/topics/2013/02/post-696.html 【LPSA側声明】 http://joshi-shogi.com/lpsa/news/kenkai_20130227.html  LPSA側声明には、日本将棋連盟からの文書と、それに対するLPSA側の回答もUPされていますので、双方の主張を確認することができます。  それぞれの主張を読んだ上での意見ですが、日本将棋連盟側が最重要視しているのは「... [続きを読む]

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