将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2013年2月 6日 (水)

公式戦の記録係が不足する問題へのコメントとその後の状況について

昨年7月のブログ(7月16日・23日・29日)で、公式戦の記録係が不足する現状について書いたところ、多くの方から提言や感想などが寄せられ、私は関心の高さに驚いたものです。まだ紹介していないコメントを元に、その後の状況についてお伝えします。

「記録係不足の主な原因として、記録係の待遇が現代の社会が許容しないものであると思います」というコメント(7月30日)で、労働基準法の観点から記録料の改善を求めたのは《Bitty》さん。

タイトル戦以外で持ち時間が最も長い順位戦(各6時間)の対局の場合、記録料は段位者が10000円、級位者が9000円です。通常のアルバイト日給なら決して安くありませんが、終局が深夜になると労働時間は15時間(休憩時間を含む)に達し、確かに労働基準法に抵触しそうです。そこで夜の12時を過ぎたら割増料金を払うことも一策です。ただ記録係不足の根本的な問題は、記録料の問題ではないと思います。

「深夜にまで及ぶ対局の記録係を未成年の奨励会員が務めるのは過酷だと思います。せめて始発まで仮眠をとる場所を提供してほしいです」というコメント(7月28日)は《ナデパパ》さん。

記録料の問題よりも、未成年の奨励会員が深夜まで記録係を務める問題のほうが重大です。その奨励会員の体に何か異変が生じた場合、将棋連盟は管理責任を問われかねません(そういう事例は過去にありませんが…)。かといって順位戦の一斉対局で、未成年以外の奨励会員をすべて確保するのは現実的に難しいです。なお終局が深夜になった場合、空いた対局室を記録係の仮眠用の部屋に充てています。終電で帰宅できそうな時刻でも、未成年は宿泊させています。深夜に外にいると、警官に補導される可能性があるからです。また終局後の検討が長引いて帰宅が遅くならないように、遅い時刻での感想戦の見学は記録係の任意とし、記録係が先に帰宅した場合は対局者が盤駒の後片付けを行う決まりになっています。

「記録係を数人程度、契約社員のような形で雇ったらいかがでしょうか」というコメント(7月30日)は《ただの将棋好き》さん。

じつは昨年12月から、大学の将棋部員の人たちに記録係を依頼しています。記録係の仕事を説明するDVDや書面を学生に渡し、実際の対局で研修(午前中の2時間に記録係と同席)してから、持ち時間が少ない女流棋戦の対局で記録係を単独で務めています。今のところ、学生たちは記録係をそつなく務めて問題はとくにありません。ただ正座を続けるのは、慣れていないので大変なようです。

「棋士自身が記録係を務めることです」というコメント(7月30日)は《やまの》さん。

記録係がどうしても足りない場合は、若手棋士に依頼することになりました。2月1日のA級順位戦の対局では、長岡裕也五段が8年ぶりに記録係を務めました。

「将棋仕様の持ち時間管理・記録機能を備えた対局時計と、盤面録画システムを組み合わせれば、持ち時間の長い対局で記録係の負担を軽くすることができます」というコメント(7月30日)は《オヤジ》さん。

パソコンやカメラなどの機器を使って棋譜を自動入力させる方法は、ほかの方からも様々な案が寄せられました。ただ初期投資の金額、盤面録画で対局者の頭がかぶってしまう、秒読みの手立てなど、現実的な問題があります。じつは連盟のIT関係の部署では、記録係が通常どおりに棋譜を記入しながら、タブレット型の通信機器に棋譜を入力する方法を研究しているようです。自動的に棋譜と持ち時間を入力できます。それらをサーバーで管理すれば、順位戦の一斉対局で全局をリアルタイムで観戦でき、連盟が行っている棋譜データベースの入力作業も効率化できます。金額も1台あたり30000円程度ですみます。この方法はまだ研究段階ですが、早ければ今年6月頃から試験的に実施する方向とのことです。

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対局」カテゴリの記事

コメント

田丸先生こんにちは。ご無沙汰しましたが、ブログはずっと拝見しておりました。
お元気にご活躍のご様子なによりです。
うちの息子はようやくアマ二段になりましたが、いろいろと家庭の事情もあり、奨励会入りはあきらめました。それでも好きな将棋の勉強は続けると言っています。
これからは先生のお弟子さん達を応援させて頂きます。
井出三段好調ですね。大分力をつけられたので今期は大いに期待をしています。
近藤4級も着々と頑張ってください。

投稿: 野菜村から | 2013年2月 7日 (木) 20時50分

記録係についてですが、予選段階の対局は、勝った棋士が記録して連盟に提出するというのはどうでしょうか。囲碁の方ではそうやっていると聞いたことがあります。問題は千日手や持将棋が生じたときですが、そのときのための立会人を何人か連盟に常駐させておけば、何とかなるような気がします。

投稿: 通りすがり | 2013年2月 8日 (金) 04時15分

田丸先生、こんにちは。何となくですが「将棋ファンの声のうち、有用なものを田丸先生がピックアップなさり、それが連盟の施策に反映されている」ような感じがします。ファンとしては嬉しく、頼もしい限りです。

昨年「連盟の使命は将棋文化を守り育てること。現在、連盟が行っている『全公式戦の棋譜を残す』ことは、コストがかかるかもしれないが続けて頂きたいです」とコメントさせて頂きました。

囲碁界では、新聞に載らない対局には記録係はつかず、必要があれば対局者が後で棋譜を書くそうですね。いくらプロとは言え間違いもあるでしょうし、好ましいやり方とは思えません。

そして、連盟が様々な新しいことを考えて実行に移しておられること、奨励会員の仮眠場所も用意してあることを田丸先生から伺い、嬉しく思います。

「対局は全てタブレットで行えば良い」といった極論も出ていますが、少なくとも将棋界では、米長永世棋聖が言われたように「畳の上に座り、脚つき盤で指す」のが文です。タイトル戦に両対局者や立会人が和服で臨むのも文化です。こういった点は、今後も変えないで欲しいです。最近は、女流タイトル戦でも和服を着る方が増えて嬉しく思っています。

将棋世界今月号で、米長永世棋聖について「守るべき伝統と、時代に合わせて変えなくてはいけない部分、それを誰より良く分かっていた」というコメントがありました。全くその通りですね。

投稿: オヤジ | 2013年2月 9日 (土) 11時47分

現在はプロの公式戦対局数も数が多い訳ですから、専任の仕事として成り立たっておかしくないですね。例えば、対局日程を組む際に、毎日対局が行われるように組む事、二交代制にする事で持ち時間の長い対局にも対応する。働く側から見れば、賃金が安くても毎日安定して仕事があるという事に価値があります。その仕事の人間で間に合わない分を奨励会会員に手伝ってもらう形にすれば良いと思います。

投稿: 風車 | 2013年2月12日 (火) 21時35分

具体的に解決策を実行に移していますね。オヤジさんが述べられているように、

>将棋ファンの声のうち、有用なものを田丸先生がピックアップなさり、それが連盟の施策に反映されている

という節がうかがえます。頼もしいことです。

 これは何も知らない外部から見た思いつきですが、「記録係がどうしても足りない場合は、若手棋士に依頼する」というのであれば、いっそ「対局の少ないフリークラスの棋士の先生や、すでに引退された棋士の先生にお願いする」ということは不可能でしょうか?「余りにも無理筋」、「それは余りにも諸先輩方に失礼すぎる」というのであれば、一蹴していただいて結構です。
 有用か無用かの仕分けは、田丸先生にお任せすればよい、と思ったもので、勝手なことを申しました。もしも失礼な提案であればお許し願います。

投稿: ayumi61 | 2013年2月20日 (水) 00時43分

田丸先生へ
初めて投稿します。公式戦の記録係が不足しているということですが、もう数十年前になると思いますが、テレビでタイトル戦の予選の記録係を募集している光景が放映されてました。誰と誰の対局かは忘れましたが、その当時の黄金カードではなかったでしょうか。先輩棋士が、誰誰クンやらないかと聞くと、その日はバイトです。用事があります。できません。などの回答でついに先輩棋士が、君たちは、この対局をどう考えているんだと激怒されてましたが、そういう状況が一向に改まっていないのですね。労働基準法を持ち出されては、反論の余地がありませんが、記録係イコール単なる労働と考えている奨励会員の方が多すぎるのではないでしょうか。記録係というものがどれだけ自分のためになるのかという教育を先輩棋士の方が行うのが先ではないでしょうか。テレビで対局の場を公開するのも結構ですが、公開することでこのようなことが起こっているのではないでしょうか。

投稿: 将棋を見るのが好き | 2013年5月 5日 (日) 20時34分

初めてお便りします。

将棋界の事情に詳しくなくて恐縮ですが、囲碁界では持ち時間の短縮化が進んでいます。
対局が対局者2人だけのものではなく、記録係、部屋を管理する人など多くの人の手で成り立つものである以上、彼らの意見は尊重されるべきだと思います。
囲碁の場合はもともと国際化に対応するという要請があり、スポンサーにとっても宿泊費の負担などの関係で好ましいことから、短時間化が10年かけて進んで来ました。
長年の慣例であり難しいことでしょうが、例えば名人戦リーグの持ち時間を囲碁にならって5時間にするなど、深夜対局を減らす工夫を行って欲しいと思います。

投稿: 幽玄 | 2015年8月28日 (金) 22時25分

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