タイトル保持者、A級棋士と同室になった永瀬拓也五段との対局
【追記・11月19日】
このブログで1ヵ月ぶりに更新したのに、
また1ヵ月近くも滞ってしまいました。
じつは以前にも伝えましたが、
夏の頃から書籍の執筆にずっと取り組んでいて、
そのためにブログの執筆を休んでいました。
それがようやくめどがつきました。
なるべく早い時期にブログを再開したいと思っています。
その書籍の内容は、
1960年代に無敵の大山康晴名人に敢然と立ち向かった、
山田道美九段の評伝です。
その波乱万丈な棋士人生を覚えている方もいるでしょう。
現代の研究システムの先駆者でもあります。
山田九段の評伝は12月中旬に将棋連盟から刊行される予定です。
また詳しいことは、このブログでお伝えします。
まずは近況をお知らせします。(田丸)
【ブログ】
私のような順位戦に参加しないフリークラス棋士は、予選で1回戦負けが続くと対局が2ヶ月ぐらいないことはよくあります。
10月19日の対局も1ヶ月ぶりでした。将棋会館の大広間の対局室に入ると、いつもと違って関係者が多いのに驚きました。
奥の「高雄」の間では渡辺明竜王―中川大輔八段(棋王戦)、真ん中の「棋峰」の間では深浦康市九段―橋本崇載八段(A級順位戦)、田丸昇八段―永瀬拓也五段(王座戦)、手前の「雲鶴」の間では羽生善治三冠―屋敷伸之九段(A級順位戦)が行われました。
2局のA級順位戦と棋王戦にはいずれも観戦記者がつき、毎日・朝日が共催するA級順位戦は記録係を挟んで2人の観戦記者が並んでいました。その3局は「モバイル中継」もされ、関係者が対局光景を撮影していました。
私の対戦相手の永瀬五段は新人王戦と加古川青流戦の決勝に進出し、本局までに8連勝している若手の俊英です。ただ1次予選の田丸―永瀬戦に観戦記者はつきませんでした。
じつは当日、リコー杯女流王座戦(加藤桃子女流王座―本田小百合女流三段)五番勝負第1局が特別対局室で行われました。当初は10月20日に中国・上海で対局される予定でしたが、日本と中国の関係が尖閣諸島問題でこじれた余波によって中止となり、19日に東京の将棋会館に変更となりました。通常は特別対局室で行われる渡辺竜王やA級棋士の対局も、そんな事情によって大広間に移されたのです。
渡辺竜王、羽生三冠のタイトル保持者、深浦九段、屋敷九段、橋本八段のA級棋士と対局で同室することになった私は、最高峰の棋士たちの対局をたまに観戦しながら、ばりばりの若手の永瀬五段と対局する機会を得たのです。
昔の棋士はまだ序盤の午前中には、よく雑談をしたものです。しかし現代の棋士(とくに一流棋士や若手棋士)はいっさい口をききません。あまり中座もせず、黙々と盤に向かいます。対局室は午前10時の開始から、水を打ったような静寂さに包まれていました。私もそれにつられて張り詰めた気持ちになりました。
写真・上は、田丸―永瀬戦の序盤戦。下側が先手の田丸、上側が後手の永瀬。私が37分の長考で▲6六歩と突いた局面です。
永瀬の角交換型の向かい飛車に対して、私は7筋の位を取って相手の玉頭に圧力をかけ、2筋の攻めを牽制しました。写真の局面では、7筋から反発する△6三金(または△6三銀)を予想していました。
実戦は写真の局面から、△2四歩▲同歩△同銀▲5五角△3三角▲6四角△4四角▲3六歩△2六歩と進みました。
私は▲5五角の反撃があるので、△2四歩は指しにくいと思っていました。実際に▲5五角から▲6四角で歩得し、▲7四歩の攻めが生じました。しかし永瀬に△4四角から△2六歩で飛車を押さえられると、どうにも動きにくい状況となりました。▲7四歩は△6三金▲7三歩成△同銀と応じられて、意外と攻めが続きません。その後、私の攻めは不発となり、永瀬が反撃に転じるとたちまち不利な形勢に陥りました。
本局は持ち時間が5時間。私はタイトル保持者やA級棋士と少しでも長く同室したいと思っていたのですが、夕方の5時すぎに終局となりました。
写真・下は、対局の部屋割りを表示したボード。右から3番目に田丸―永瀬の名札がかかっています。永瀬の名札が少し上がっているのは勝利者の意味です。
ブログの掲載が1ヶ月も中断しました。今後は週1回のペースで更新していきます。
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コメント
久しぶりに更新して頂き有り難うございます。田丸先生はお忙しいことと存じますが、ブログは「無償」で更新の義務などは全くありませんので、ご無理のない範囲で、細く長く、のんびりお続け頂ければと思います。
投稿: オヤジ | 2012年10月30日 (火) 21時36分
田丸先生こんにちは。数カ月前から愛読させていただいております。いつも読み応えがあり、今回も対局の裏事情(?)から、対局室のしん・・とした雰囲気のまで、とても興味深く読ませていただきました。
お話の中に「昔の棋士は序盤の午前中にはよく雑談をした」とありますね。その当時のこともまたお聞かせ頂きたいです。最近、父の読んでいた昔の将棋の雑誌を見つけましたが、記者の方の文章の書き方や観客の写真など、その時代の空気がそのまま残っていてとても面白かったです。
「将棋マガジン・S.56年6月号」では「次世代を担う若手棋士集合」と題して、田丸先生、田中寅彦先生、小林健二先生方が対談されていますが、すでに著作の多い田丸先生は「収入が相当あるのでは!?」と他の棋士の方から突っ込まれてタジタジになられ可愛かったです。これからも、ブログ楽しみにしております。
投稿: K.K | 2012年11月 2日 (金) 11時32分
田丸先生こんにちは、先日大山名人杯倉敷藤花戦ありました。
公開対局でちょっとした事件がありました。写真撮影でフラッシュ禁止
の場内アナウンスがありました。場合いによれば、写真没収と!!
以下オンラインブログ検定動画参照 女流立会いのTHさんも困った顔してました。
玄巻カメラマンにも写真撮影教えた、田丸先生に対局者の立場として
の意見聞きたくて、おじゃましました。記事とは関係なく申し訳ございませんでした。
投稿: オンラインブログ検定 | 2012年11月26日 (月) 13時09分