将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2012年7月23日 (月)

公式戦の記録係が不足している現状へのコメントについての見解

前回のブログで、公式戦の対局の記録係が不足している現状を伝えました。これは将棋連盟の内部問題です。一般の将棋ファンの方は、あまり関心がないと思っていました。しかし意外にも多くのコメントが寄せられ、正直なところ驚きました。それらのコメントの中には、とても参考になる意見があり、将棋への熱い思いも感じました。

「プロの棋譜は宝物ですから、後世に受け継がれていくよう切に願います」というコメント(7月16日)は《関東のホークスファン》さん。「確実に棋譜を残すのは、将棋文化を守る公益社団法人たる連盟の一つの使命だろうと思います」というコメント(7月17日)は《オヤジさん》。

お二人のコメントは、まさにその通りだと思います。将棋文化を発展させるには、公式戦の棋譜の保全はとても大事です。

「奨励会員以外の記録係として、大学将棋部の学生が一番有望そうですね。在学した大学の将棋部に関わっていた棋士もいるので、そうした棋士の人脈を辿る道がありそうです」というコメントは《オヤジ》さん。

大学将棋部の学生に記録係を依頼するのは有力な案です。ただ《オヤジ》さんが心配したように、長時間の順位戦の記録係は現実的に大変です。あまりにもきつい仕事なので「一回やってこりごり」ということにもなりかねません。

「専門の記録係を雇えばいいと思います。特に元奨励会員の人たちに記録係を依頼すれば、第二の人生として将棋に関われるので、棋界にも彼らにとってもプラスでしょう」という内容のコメント(7月17日)は《太郎》さん。

これも有力な案です。ただ記録係を仕事にするには、その待遇が問題となります。前回のブログで、記録料は1局につき6000~8000円と記しましたが、正しくは5000~10000円(持ち時間によって違い、級位者は各1000円減)です。最高額の10000円は順位戦の記録料ですが、終局が深夜になった場合、宿泊代やタクシー代は支給されません。決して割りのいい仕事ではなく、体力的にも数をこなせません。

先日の「奨励会制度委員会」では、四段昇段1~2年後の若手棋士に記録係を依頼する案が有力でした。以前にも奨励会の例会日と公式戦の対局日が重なった場合、若手棋士が記録係を務めた例がありました。奨励会幹事の話によると、記録係不足になるのは、学生の奨励会員が受験や期末試験に取り組む1~3月、順位戦の一斉対局日とのことです。そのときに何人かの若手棋士が記録係を務めれば、何とか乗り越えられるそうです。

「順位戦の対局日は、同日ではなく、ずらせばいいと思います。有料のネット配信で棋譜をリアルタイム観戦している人も多いですが、1日に何局も重なると見ている方も大変です。仮に1日ずらせば、見ているほうは2日間を楽しめます。記録係の問題も少しは緩和できると思います」というコメント(7月19日)は《やまの》さん。

ネット配信の観戦や記録係不足の事情から、順位戦の対局日程をずらすのはひとつの案です。ただ現実問題として、対局日の振り分けはその基準が定めにくく難しいと思います。なお、私が公式戦の対局日程を決める連盟の「手合係」を務めていた約35年以上前は、順位戦の対局日程は現行のように事前に決まってなく(最終2局を除く)、手合係は両対局者の希望日を調整するのに苦労したものです。

公式戦の記録係不足の問題は、後日に改めてブログのテーマにします。

最後に、読者の方々にお詫びを申し上げます。7月16日のブログ「公式戦の記録係の要員が不足している状況で提案された今後の対策」の本文と、《関東のホークスファン》さん、《オヤジ》さん、《太郎》さん、《やまの》さん、《通行人》さん、《ネブラスカ》さん、《堺市民》さんなどの貴重なコメントが、私のパソコンの不調と不注意によって、このブログを執筆中に消えてしまいました。

本文は近く再掲載する予定ですが、前記のコメントを寄せた方で内容をまだ保存されているようでしたら、再送信していただくようにお願いします。

当方の不手際を改めてお詫びいたします。

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対局」カテゴリの記事

コメント

前回のトピックならびに最初のお三方のコメントについては、ネット上にキャッシュが残ってました。
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:I_AzbbpaXrQJ:tamarunoboru.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-6f4b.html

同様にネブラスカさん、堺市民さんのコメントの一部(後半)も残ってました。

投稿: ネブラスカ | 2012年7月19日 (木) 06時21分
自動記録ソフトの開発はいかがでしょうか。 ハードはノートPCとカメラと三脚だけで済むと思います。


投稿: 堺市民 | 2012年7月22日 (日) 16時23分

~不明~
あとこれは個人的な希望になりますが、順位戦の持ち時間6時間は短縮してほしいです。
どう頑張ってもリアルタイムで観戦できません。 朝日オープンなど時間の短い棋戦でも熱戦は多いですし、時間を減らしたからといって将棋の質が低下するという事はないでしょう。 記録係の負担を減らす事にもなりますし、ぜひ検討してみて下さい。


私(やまの)のコメントについては、田丸さんの今回のトピックに要約されてるので改めて書く必要もないと思います。というより、忘れました。

それについてのお返事もよく分かりましたが、要望としては、お金を払って観戦している人がいるということを踏まえて、観戦者にとってもより楽しめるような日程を組んでもらえるとありがたいです。

投稿: やまの | 2012年7月23日 (月) 12時10分

消えてしまったようなので再投稿します。

「勝利棋士が記録」案に賛成ということですが、そうなると差し手の消費時間が記録されないことになりますが、棋譜において差し手毎の消費時間はそれほど重要ではないのでしょうか?

早指し戦などのすぐに持ち時間がなくなるような棋戦ではあまり意味がないと思われますが、少し気になります。

投稿: 通行人 | 2012年7月23日 (月) 21時55分

いつもブログを読ませていただいています。
サンフランシスコでソフトウェアエンジニアとして働いているものです。

抜本的に解決しようとすれば、すべての対局で、上から盤面を写すカメラを設置して、コンピュータに棋譜を自動認識させればいいと思います。そうすれば、ネット中継の棋譜を手動で入力する必要もなくなります。技術的にはそれほど難しくないです。

年間数千局ある公式戦の棋譜を人手で取るのは、無駄だと思います。単純計算で1000万円単位の費用がかかっていますよね。それをカメラの設置費用とシステム開発費用に充てれば、数年で元が取れるはずです。

投稿: Psychs | 2012年7月24日 (火) 01時20分

記録係は時間も計っているので、棋譜をコンピュータで自動入力にしても、結局時間を計るのに人が必要になるのでは手間が変わらないんですよね。
1分単位で時間が消費される将棋仕様のチェスクロックがあれば、対局者自身が時間を計ることでそれも解決できるでしょうか。
終盤の1分将棋ではチェスクロックのボタンを押す手間が結構な負担になりそうな気がしますが…

投稿: べっけんばうあー | 2012年7月24日 (火) 13時06分

持ち時間の短い対局に関しては、盤面の上からカメラで撮りっぱなしっていうのはいかがでしょうか?
初期投資はある程度必要でしょうが、今でもカメラを設置しているところはあるはずですよね。
人件費はかからなくなりますからそれに見合う、とは素人考えでしょうか。
また、局後にVTRをを見て棋譜を残すことができると思います。
消費時間も計算できますよね。

投稿: popoo | 2012年7月24日 (火) 15時03分

消えてしまったものは仕方ないのでお気になさらないでください。

ちなみに先にあるのは私のコメントではありませんね。田丸さんに賛成で囲碁界と同じような方法で良いでしょうとコメントしました。

機械化についてのコメントを見て、チェスボードに機械がついていて自動的に棋譜や局面が送信されるものを思い出しました。取った駒が使えないチェスならではのものですが。

投稿: ネブラスカ | 2012年7月26日 (木) 03時58分

田丸先生、丁重なお言葉有難うございました。私が前の記事についてコメントした内容は、要点を田丸先生が引用して下さっています。

ところで、対局者自身が棋譜を作成・提出する」対局を増やすには、
『プロ公式対局仕様の対局時計』
を開発するのが有効と思います。

この、現在のチェスクロックとは異なる対局時計の仕様は

(1) 既存のチェスクロックとは違い、「持ち時間*時間、使い切ったら1分将棋」といった、現在の棋戦のほとんどの形態に対応する。
機械式の対局時計では無理ですが、電子式の対局時計なら対応は容易でしょう。

(2) 消費時間を記憶する。将棋の場合、手番が渡ってから60秒以上が経過すると持ち時間が消費される訳ですが、これを初手から投了まで記憶させます。SDカードのような記録媒体を使うとか、無線LANで連盟のサーバーに接続するとか、情報の記録方法はいろいろあるでしょう。

(3) 対局終了と同時に、棋譜作成の手順に入る。対局時計が記憶したデータをパソコンに流して、パソコン上で棋譜を作成する事が可能です
消費時間が印字された棋譜用紙を印刷して、そこに対局者が指し手を手書きする方法でも良いでしょう。

(4) 指し手が全て入力(記入)されて棋譜が完成したら、両対局者が承認(PC上なら電子署名、手書きならサイン)して棋譜が完成。

持ち時間の概念がない江戸時代には、囲碁の話ですが、本因坊跡目秀策は対局後に自分で棋譜を何通も書いて後援者に配っていたそうです。同じことを現代に復活させることになりますね。

このシステムを強化するには、NHK杯やBS中継の画面のように、盤面を真上から映像記録し、棋譜が確定したら映像を破棄するシステムを作ればよいでしょう。

「将棋仕様の持ち時間管理・記録機能を備えた対局時計」
「盤面録画システム」
を組み合わせれば、持ち時間が長くて記録係の負担が重い順位戦はもちろん、極端な話、タイトル戦を記録係なしで実施することも可能です。

そして、今まで連盟が守ってきた
「プロの対局は、和室で畳に座り、榧の六寸盤と柘植の盛上げ駒で指す」
という文化を維持することができます。

『すべての対局で、上から盤面を写すカメラを設置して、コンピュータに棋譜を自動認識させればいいと思います。そうすれば、ネット中継の棋譜を手動で入力する必要もなくなります。技術的にはそれほど難しくないです』
という他の方のコメントがありましたが、今と同じ盤駒を使って「棋譜の自動認識」が本当に「技術的にはそれほど難しくない」のでしょうか?

投稿: オヤジ | 2012年7月26日 (木) 15時26分

こんにちは。

この内容について関心を持たれている方は多いと思いますよ。「記録係」というより「奨励会員」に対する待遇ですが、あまりにひどすぎるというのが一般の認識ではないでしょうか。
高校野球で頑張れば、プロにスカウトされなくても名門大に推薦で入れたり、名門の社会人チームにスカウトされたりする人は多いです。野球を頑張ることが将来につながっているわけです。
一方奨励会員はどれだけ頑張ったとしても、プロになれなければそれまで積み重ねてきた事が全て無になってしまいます。
だからこそ奨励会員には精一杯の配慮をしてほしいです。テーマとなった記録係の負担を減らすこともそうですが、他にも色々負担を減らす箇所はあると思います。
私案ですが、「入会~三段昇段までをネット対局とする」のはかなり有力です。地方に住んでいる奨励会員にとっては交通費・宿泊費あるいは下宿代は大きな負担でしょう。上京の度に学校を休まなければならないというケースもあると思います。これらの負担は地方出身の棋士が少ないことにも反映されています。上記の案でこれらの負担・不公平がかなり解消されると思います。是非検討してみて下さい。

あと今回の内容で「級位者は各1000円減」というのが気になりました。棋力によって対局料に差が付くのは分かりますが、記録料に差が付くのはおかしい気がします。

長々と書かせていただきましたが少しでも奨励会員の待遇が良くなるように改善に努めていただきたいです。

投稿: 堺市民 | 2012年7月27日 (金) 12時40分

「奨励会員の待遇」の話が出ましたので、コメントします。長文になりますがご容赦下さい。

私は、奨励会員の年齢制限を思い切って引き下げるべきと考えます。

現在、奨励会員は、「棋士を目指して修業する者」であると同時に「記録係やイベントの裏方などを務める、連盟のアルバイトのような存在」でもあります。IT技術の進歩もあり、「持ち時間の概念がなかった江戸時代のように、棋譜は対局者が対局後に自分で作成する。記録係は不要になる」形に持って行くことが可能だろう、というのは先にコメントした通りです。そうなれば、奨励会員は純粋に「棋士を目指して修業する者」となります。

さて、「将棋世界」6月号で青野九段が書いておられます。
『四段になった年齢と、プロ入り後の活躍には顕著な相関関係ある』
『中学生棋士・16歳四段は、全員タイトルを取っている』
『タイトル獲得者の上限は、21歳四段である』
『18歳までに四段になった者は、ほとんどが八段以上になっている』

田丸先生は21歳で四段になられ、A級八段に昇った方です。木村一基八段は、23歳で四段になった遅咲きの棋士ながら、棋戦でも普及でも大活躍しておられます。上記は絶対ではありません。

ですが
「未成年で四段にならないと、一流棋士になるのは難しい」
事実が存在することを重く考えるべきです。

囲碁界の日本棋院では、奨励会に相当する院生の制限年齢は昔から18歳です。故・中山典之氏の著書によると、これは
「18歳になっても入段が叶わないのであれば、囲碁棋士を諦めなさい。18歳ならまだ大学受験に間に合う」
という「棋院の親心」と解釈すべき、だそうです。連盟も見習うべきではないでしょうか?

仮に、奨励会員の定年を、日本棋院の院生と同じく18歳に引き下げれば、下記のような効果があるでしょう。

(1) 三段リーグに多数の「おっさん三段」(天野貴元さんの表現)が滞留している状況がなくなり、棋士になる実力を持つ者が四段に早期に上がれるようになる。

(2) 強い三段は今より早く四段に上がり、かつ、並の三段は18歳で三段リーグから退出する。三段リーグの人数は今よりずっと少なくなり、「三段リーグでの総当たり制」が実現できる。
※ 日本棋院のプロ試験は、昔から「総当たり形式」であるようです。

(3) 18歳の時点で奨励会を定年になっても、大学に進んで社会人として普通の人生を歩むのが容易になる。民間企業では、一般に「大学学部卒業者は、入社の年に25歳になる者までを採用する」としており、「2年の回り道」を許容しています。18歳になってから受験勉強を始め、仮に2浪の年齢で一流大学に入れば、エリートコースに乗ることが可能です。公務員、医師などを目指すなら、より「18歳まで奨励会にいた」ハンディは軽減されます。

故・花村九段、囲碁の坂井八段のように、奨励会や院生を経ないでプロ入りして一流棋士となる稀な例もあります。そういう稀な才能については、
「アマチュアとしての活躍の度合いに応じて、柔軟にプロ棋士採用試験を実施する」
ことで対処できるでしょう。

「奨励会の年齢制限を18歳に引き下げる場合の、経過措置は?」
という問題が生じますが、
「18歳以上かつ初段以上の『希望者全員』についてフリークラス編入試験を実施する」
で対応できると考えます。

投稿: オヤジ | 2012年7月27日 (金) 16時39分

田丸先生初めまして。毎回楽しく読ませていただいています。
とても興味深いテーマなので初めて投稿させていただきました。

私にはもうすぐ2歳になる子ども(女の子)がいるのですが、これから将棋を教えたいと思っています。夢は大きく『女性棋士』ですが、私の棋力ではとても厳しいのと、子どもに落ち着きがないため将棋に興味を持ってもらうだけでも大変そうです。

棋士も女流棋士も奨励会員も実力が全てとまでは言いませんが、大きなウェイトを占めていると思うので、将棋の世界に身を置いた以上実力が足りなければ記録係を全うする義務があると思います。
とはいえ、深夜にまでおよぶ名人戦の記録係を未成年(高校生)の奨励会員が勤めるのは翌日の学業などのことを考えると過酷だと思います。
ましてや宿泊提供や交通費が支給されず、自己責任で帰宅させるのは子どもを預かっている立場として無責任な部分があると思います。せめて始発まで仮眠をとる場所を提供してあげてほしいと思います。

公式戦の記録係が不足している問題については、深夜にまでおよぶ名人戦では成人(または18歳以上)の奨励会員と女流棋士、場合によっては棋士が持ち回りで記録係を勤めるのはどうでしょうか。
棋士に関しては、C2クラスの対局ではフリークラスの棋士が、C1クラスの対局ではC2クラスの棋士が、B2クラスの対局ではC1クラスの棋士といった感じです。
もちろん師弟関係や年齢、過去の実績などの配慮は必要だと思いますが、四段昇段1~2年後の若手棋士のみではなく将棋界全体で支えていくほうがいいと思います。

一方的に意見を述べてしまい大変恐縮ですが、将棋界が発展することを陰ながら応援しています。

投稿: なでパパ | 2012年7月28日 (土) 00時03分

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