羽生が棋聖戦で防衛してタイトル獲得数が歴代1位の81期
棋聖戦(羽生善治棋聖―中村太地六段)5番勝負第3局が7月5日に行われ、羽生が勝って3連勝しました。羽生は連続5期・通算11期目の棋聖を獲得しました。
その結果、羽生のタイトル獲得数が81期に達し、大山康晴十五世名人の80期を超えて歴代1位となりました。3位からは中原誠十六世名人(64期)、谷川浩司九段(27期)、米長邦雄永世棋聖(19期)、佐藤康光王将(13期)、森内俊之名人(10期)、渡辺明竜王(9期)と続きます。
羽生は1989年(平成元年)の竜王戦で、島朗竜王を破ってタイトルを初めて獲得しました。それ以来、23年間に通算108回もタイトル戦に登場しました。タイトル獲得の勝率は0.750で、大山(0.714)よりも上回っています。
羽生は初タイトル獲得から現在まで、いつもタイトルを保持していたので名称が「段位」だったことはありません。ただ厳密にいうと、無冠の時期が約3ヶ月半ありました。羽生は90年11月27日に竜王戦第5局で、挑戦者の谷川王位に敗れて竜王位を失いました。その後、91年3月18日に棋王戦第4局で、保持者の南芳一棋王に勝って棋王位を奪いました。羽生は前者と後者の対局の間は、「前竜王」という名称でした。当時は竜王位を失った棋士は、その名称が1年間つきました(現在は原則としてありません)。
私はタイトル戦の立会人をたまに務めますが、2日間を盤側や控室で過ごしているだけでもけっこう疲れます。だから盤面に集中し続ける対局者の心身にわたる消耗は比べものになりません。しかも羽生は、そうした濃密な対局を長年にわたって数え切れないほど重ねているのです。精神も肉体も頑丈でなければ、とても勤まらないと思います。
2年前の名人戦(羽生名人―三浦弘行八段)のとき、両者には研究相手の棋士がいると聞きました。羽生の相手は長岡裕也五段、三浦は屋敷伸之九段でした。羽生は対局や様々な所用で忙しいのに、「VS」(1対1で将棋を指すこと)の時間はあるのかと不思議に思ったものです。しかも相手は、失礼ながらあまり実績がないC級2組の棋士です。
先日、長岡五段にその件で話を聞いたところ、羽生は今でも長岡とVSの練習将棋をしているそうです。長岡は「羽生さんでも研究しないと勝てない時代です。私は羽生さんと同じ八王子将棋クラブの出身で、羽生さんは先輩として気にかけてくれるのでしょう」と語りました。羽生は松尾歩七段、村山慈明六段らとも研究会を開いています。ちなみに1局の持ち時間は20分・60秒(秒読み)。
羽生が長年にわたってトップ棋士として走り続けているのは、恵まれた天分だけでなく、そうした不断の努力があったからでした。それは、ほかの一流棋士も同様だと思います。
ある新聞記事によると、渡辺竜王の日常生活は、朝8時から夕方5時まで研究し、夜も3時間ほど棋譜を並べたり詰将棋を解くそうです。そして渡辺は「研究しなくても将棋は指せますが、それでは楽な仕事になってしまいます。会社員の方の勤務時間ぐらい家で研究しないと申し訳ないです」と語りました。
先崎学八段は週刊誌の連載エッセイで、お酒を飲み続けた日々を反省しつつ、「将棋界は楽に生きようと思えば楽しいが、その代わり勝てないようにできている。そして勝負に負けるほど辛いこともない」と綴りました。
羽生の不断の努力。渡辺の日常生活。先崎の反省気味の本音。ほとんど研究しない私には、いずれも耳の痛い話でした。
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