名人戦(森内名人―羽生二冠) 第5局は森内が勝って7期目の名人位まであと1勝
第70期名人戦(森内俊之名人―羽生善治二冠)7番勝負第5局は、5月31日・6月1日に京都で行われました。そして森内が勝って3勝2敗と勝ち越し、2期連続・通算7期目の名人位まであと1勝としました。
今期名人戦は、第4局まで先手番の対局者が勝ちました。森内が先手番で勝った第1局の戦型は相矢倉、第3局は急戦調の矢倉でした。いずれも後手番で敗れた羽生は第5局で、今シリーズ初めての「横歩取り」に誘導しました。なお前期名人戦(羽生名人―森内九段)では、後手番の羽生が第1局・第5局・第7局で横歩取りを用いて第5局に勝ちました。
横歩取りの戦型には、先手・後手ともに様々な戦いのパターンがあります。今期名人戦第5局は、36手まで前期名人戦第5局、45手まで2年前の竜王戦(渡辺明竜王―羽生名人)第5局と、同じ手順が進みました。そして前者は森内、後者は羽生と、いずれも敗れた側が指し手を変えて、新たな局面となりました。
通常の横き取りは激しい戦いになりがちです。名人戦第5局では、羽生が5筋の位を取って押さえ込み、じっくりとした展開になりました。私見では、羽生のほうが指せるように思えました。しかし森内は自陣を整えてから機を見て攻め込むと、飛車を捨てる果断の一手で相手陣に襲いかかりました。羽生は入玉を含みに反撃しましたが、森内に的確に応じられて届きませんでした。終局の直前に羽生の指先が少し震えたそうです。通常は羽生が勝利を意識する特有の仕草です。しかし本局では、森内が115手で勝利を収める結果となりました。
写真は、ネット画面での終了局面。森内の▲3二竜が決め手でした。金を取る△3四歩は、▲2二銀△1二玉▲3一銀不成以下詰み。△2二金と受けても、▲同竜△同玉▲2三銀△1三玉▲1二銀成△同玉(△同香)▲2三金打で詰み。
終局直後の感想によると、森内は「最終盤はうまくいったが、その少し前はあまり自信がなかった」と語りました。勝者の感想はたいがい控えめなものですが、本局では本音だったと思います。一方の羽生は「封じ手のあたりで、よほど悪くしてしまったのかもしれない」と語りました。
私は、羽生の感想に驚きました。その封じ手の局面はまだ序盤で、私が「羽生のほうが指せる」と思った5筋の位を取る以前です。つまり森内の感想と重ね合わせると、両対局者は序盤から中盤にかけて、ともに形勢は良くないと思っていたということになります。ただ終局直後の感想は必ずしも本心ではなく、実際のところはわかりません。
それにしても森内の将棋は、力強いとともに冷静沈着で見事な内容でした。昨年から今年にかけて11連敗して、不調のどん底にいたとは思えません。
今期名人戦は、第5局まで先手番の対局者が勝ちました。その流れが続けば、次の第6局(6月12日・13日)は先手番の羽生が勝つことになります。私は4月16日のブログでも、「最終局までもつれ込む」と予想しました。そして第7局(6月26日・27日)を迎えれば、改めて「振り駒」をして先手・後手を決めます。気の早い話ですが、その結果が大いに注目されます。ちなみに前期名人戦第7局では、「と」が多く出て挑戦者の森内が先手番に決まりました。
今年は「名人400年」という節目を迎えました。その記念すべき年に行われている今期名人戦は、それにふさわしい熱戦とドラマが生まれることでしょう。
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コメント
名人戦は本当に凄いですね!9時間の持時間で先手番がマラソンに例えるならほんの?数メートルの僅差を保ち勝つ・逃げ切る技術、精神力は特筆に値すると思います。
6局目は後手番の名人が一世一代のノーマル四間飛車を採用すると勝手に予想してます!
羽生挑戦者の過密スケジュールは今に始まった事ではありませんが私より若干、年下の年齢を考えますと少し心配になります。私も若い積もりでしたが40代になると変わると身をもって経験しましたから。
盛り上る名人戦ですが、明日の対局も見逃せません。携帯中継が無く残念ですが師弟戦の悔いなき闘いを願っております。
投稿: 関東のホークスファン | 2012年6月 4日 (月) 11時23分