将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2012年6月11日 (月)

弟子の引退がかかる「運命の対局」となった田丸―櫛田の師弟戦は櫛田が勝利

弟子の引退がかかる「運命の対局」となった田丸ー櫛田の師弟戦は櫛田が勝利

竜王戦6組・昇級者決定戦2回戦で、師匠の私こと田丸昇八段と弟子の櫛田陽一六段との対局が6月5日に行われました。3局目の師弟戦である本局は、弟子の引退がかかる「運命の対局」となりました。

櫛田はフリークラス規定によって、今年4月に引退が内定しました。そして、ただひとつ勝ち残っている竜王戦で敗れると引退が確定します。その竜王戦で、抽選による偶然から私と対局することになったのです。

写真は、対局開始時の光景。振り駒の結果、田丸(右)が先手番となり、▲7六歩△3四歩から▲2六歩と指したところです。※写真提供・『週刊将棋』。

竜王戦の持ち時間は各5時間。思い起こしてみれば、師弟の私たちが何時間も盤を挟んで対座するのは初めてのことでした。過去の対局は1993年のNHK杯戦と2009年の銀河戦で、2局ともテレビ対局だったので1時間あまりで終局となりました(いずれも櫛田が勝ち)。私は最後の師弟戦において、共有する時間と空間を惜しむような気持ちで相対したいと思いました。

櫛田は四間飛車に振りました。現代の振り飛車は中飛車が主流ですが、櫛田はかつて一世を風靡した「世紀末四間飛車」を今でも指し続けています。

私は江戸時代からあった急戦型の古典定跡を用いました。奨励会時代は、その古典定跡を熱心に研究して実戦で試したものです。棋士になってからは指さなくなりましたが、8年前からたまに用いています。

運命の対局となった師弟戦は、ともに流行に背を向けたような戦型となりました。

私は櫛田との対局には、相手の大事なー戦こそ全力で戦えという「米長哲学」を実践し、私情を超えて全力で臨むつもりでした。しかし、結果的に弟子を引退に追い込むという思いも頭を掠め、どこかで迷いが生じたのは事実でした。指し手もそれが反映して一貫性を欠きました。そして中盤で櫛田の好手を見落とし、一気に敗勢となりました。

結果は100手で櫛田が勝利を収めました。私が投了したとき、櫛田は同時に頭を下げ、ほっとした表情を見せました。

私は不完全燃焼で敗れた悔しさと、これで良かったんだ、という思いが交錯しました。

来週発売の『週刊将棋』6月20日号では、私が不定期掲載している「丸の眼」の記事で、師匠の複雑な思い、櫛田との思い出、師弟戦の対局の模様などを書きます。よかったら読んでください。

櫛田は竜王戦で、次に佐藤慎一四段と対戦します。その対局を含めてあと4連勝すると、5組への昇級が決まります。そして既定の対局が終了し、引退が確定します。

通常は既定の対局に敗れて引退が確定するものです。連勝して引退した例はありません。師匠としては、櫛田にはそんな形で現役棋士を終えてほしいと願っています。

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コメント

田丸八段、本当にお疲れ様でした。長い将棋界の歴史でも初めてのケースだったと思います。お話の中でも師匠と弟子の正に人間同士の勝負と言う悲喜こもごもの感情が伝わりました!

惜しむらくは、棋譜を拝見する方法はありませんか?

櫛田さんには出来るだけ勝ち続けてもらい師匠に恩返しをして貰いたいです。

投稿: 関東のホークスファン | 2012年6月12日 (火) 00時57分

決して大舞台というわけではないのかもしれませんが、注目されていた対局でした。
NHK杯で遅刻したにもかかわらず優勝したという武勇伝があり、語り草になっている櫛田さん。
「見るだけの気楽な」人は残酷なもので、そんな輝かしい過去のある方ですから、引退のかかる非情な対局は注目するものです。
まして今回は師弟対決、なぜ携帯中継すらないのかという声があがっていたのは事実です(私も中継を見たかったひとりです)。

師弟の最後の「会話」、おつかれさまでした。
櫛田さんには引退されても将棋と関わり続けてほしいです。

投稿: popoo | 2012年6月12日 (火) 19時15分

櫛田六段といえば、アマチュア時代うちの支部の原岡さんが、支部対抗戦の東日本西日本の決勝で顔があい、負けて強いアマがいるとはじめて名前覚えました。その後プロ入りして、NHK杯で谷川名人を負かして優勝した将棋は今でも鮮明に覚えています。
聞き手永井さん、解説田丸八段 73桂を谷川名人が軽視して、櫛田優勢になり、一気に押し切った「世紀末四間飛車」感想戦の田丸八段の興奮さめやらぬ様子もまた感動しました。昭和の良き時代

投稿: オンラインブログ検定 | 2012年6月23日 (土) 02時01分

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