「名人400年」を記念した今年の名人戦(森内名人―羽生二冠) 第1局の前夜祭
江戸時代初期の慶長17年(1612年)。将軍・徳川家康が家元の棋士に扶持を与える「将棋所」を設け、初代・大橋宗桂が一世名人に就きました。今年は、その「名人400年」の節目を迎えました。
先週の4月10日・11日。第70期名人戦7番勝負(森内俊之名人―羽生善治二冠)第1局が東京・目白「椿山荘」で行われました。9日の前夜祭では「名人400年」を記念して華やかな趣向が凝らされました。
写真・上は、両対局者(中央の左が森内、右が羽生)が福島の「フラガール」に花束を贈られた光景。じつは名人戦第3局が福島県いわき市のハワイアンのリゾート施設で行われます。そんな縁でフラガールがお祝いに駆けつけ、優雅な踊りを壇上で披露しました。
写真・下は、名人を獲得した棋士たちが勢揃いした光景。左から、丸山忠久九段、谷川浩司九段、米長邦雄永世棋聖、森内名人、中原誠十六世名人、羽生二冠、加藤一二三九段、佐藤康光王将。歴代の名人を代表して中原が挨拶しました。中原は3年前に病気によって引退しましたが、当日ははっきりした口調で述べて元気な様子でした。
主催新聞社の社長の1人は両対局者の将棋について、「森内名人は広く深く根を張る大樹、羽生二冠は融通無碍に吹き抜ける風」という表現で紹介しました。それは、朝日新聞で第1局の観戦記を務める作家で将棋愛好家の海堂尊さんの文章を引用したものです。
将棋連盟会長の米長永世棋聖は「名人戦は伊勢神宮の式年遷宮のように、以前は主催者が何年かごとに変わりました。6年前に毎日新聞と朝日新聞の共催になりましたが、それは私と中原さん(当時理事)とで力を振り絞った大きな仕事でした。ところで、私たち棋士が今日あるのは、江戸時代に将棋界の基礎を作ってくれた徳川家康公のおかげです。そのご恩に報いるために、家康公に《十段の推戴状》を贈りたいと思います」と挨拶しました。
そして壇上で米長会長から代理の徳川宗家19代の徳川家広さんに、十段の推戴状が贈られました。家広さんは「徳川家康が将棋を奨励したのは、勝負で負けることの恐ろしさを知らせることで、戦争のない平和な世の中にしたいと願ったからだと思います」と挨拶しました。
なお名人戦第1局の開始時には、徳川宗家18代の徳川恒孝さんが立ち会い、先後を決める「振り駒」も行いました(結果は森内の先手)。
森内と羽生は、名人戦で過去に6回対戦して3勝3敗の五分。名人在位は、森内が通算6期、羽生が通算7期。まさに実力伯仲の両者が、昨年に続いて名人戦の大舞台で相まみえたのです。ただ名人戦を前にした公式戦の戦績では、羽生が明らかに有利でした。A級順位戦で9戦全勝して挑戦権を得た勢いに乗る羽生に対して、森内は昨年10月から今年1月まで公式戦で何と11連敗もしたのです(4月5日の対局に勝って連敗はストップ)。
名人戦第1局は相矢倉の戦型となり、昨年の名人戦第4局・第6局と同じような展開でした(いずれも先手番の羽生が勝ち)。今年の第1局は森内が先手番、羽生が後手番を持ち、互いに逆の立場でした。将棋の指し手は、昨年の名人戦第4局と同じ手順が中盤まで進み、羽生が82手目に指し手を変えて新たな展開となりました。そして大熱戦の末に、森内が勝ちました。
名人戦7番勝負は始まったばかりです。今年も昨年(森内が羽生に4勝3敗)と同じく、最終局までもつれ込む激闘になることでしょう。
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コメント
こんにちわ。週刊将棋4/18号拝見しました。
。
。
とても豪華なイベントだったのですね。しかしフラガールとは意外でした
それと徳川家が出てこられ、あの徳川家康公に十段位とは・・・。
やはり将棋界は歴史と深いかかわりがあるのですね
思えば名人400年ということは、100年、200年、300年の節目のときはどうしていたのでしょうか?、という疑問があります。
100年(1712年)、200年(1812年)はまだ江戸時代でしたから、幕府支持の中、なんらかの祭典はあったのでしょう。
しかし300年(1912)年は明治天皇崩御の後、大正元年になられた年。
当時は小野五平十二世名人の下、関根、阪田両先生もまだ修行中。
いくら華族がいた世とはいえ、その後援を受け名人300年祭典、なんてあったのでしょうか?
と、考えると今回のイベントは、本当に将棋界が昔と比べると、とても落ち着き、また未来に向けて歩み出せる環境になっている、ということでしょう。
先生のおっしゃるとおり、名人戦はまだ始まったばかり。
大熱戦、大盛況を期待いたします。
投稿: S.H | 2012年4月16日 (月) 15時20分