今期順位戦で羽生、広瀬、阿部、中村、船江らの5人の棋士が全勝
2011(平成23)年度の順位戦は、全クラスの対局が終了しました。
A級では、羽生善治二冠が9連勝し、森内俊之名人への挑戦権を獲得しました。A級での全勝記録は、2003年度の森内竜王以来です。
B級2組では、広瀬章人七段が10連勝し、前期に続いて連続昇級しました。2年前に王位のタイトルを獲得した実力をいかんなく発揮しました。
C級2組では、阿部健治郎五段、中村太地五段、船江恒平五段の3人がいずれも10連勝し、昇級しました。このクラスで2人の全勝者が出たことは以前に3回ありましたが、3人の全勝者は初めてのケースでした。そんなハイレベルの昇級争いによって、通常なら十分に昇級が可能な9勝1敗・順位6位の菅井竜也五段は昇級できませんでした。菅井の1敗は船江戦で、結果的にその勝負が明暗を分けました。
近年はA級からC級2組まで、どのクラスも各棋士の実力が伯仲しています。そんな状況において、単年度に5人もの全勝者が出たのには驚きました。
そこで、1972(昭和47)年度から2010年度までの約40年間の順位戦での昇級者の成績を調べてみました。じつはB級2組以下の局数が10局に決まったのが1972年度で、それ以前は12局でした。
1972年度から2010年度までの順位戦で、全勝者はのべ35人いました。年平均で1人を切っています。今期順位戦で全勝者がいかに多かったがおわかりでしょう。
同じクラスで2人の全勝者が出たケースは、1982年度のC級2組(脇謙二四段、塚田泰明四段)、1987年度のC級2組(羽生四段、泉正樹五段)、1991年度のC級1組(村山聖六段、森内五段)、2001年度のC級2組(豊川孝弘五段、松尾歩四段)でした。
全勝者が出ると昇級ラインが上がり、前記の菅井五段のように、9勝1敗で昇級できないケースも生じました。1991年度のC級1組で井上慶太六段、1993年度のC級1組で丸山忠久五段、1994年度のC級2組で深浦康市五段、佐藤秀司五段らが、いずれも9勝1敗で昇級できませんでした。しかし井上は2年後に全勝で昇級し、丸山も翌年に9勝1敗で昇級しました。深浦と佐藤も3年後に昇級しました。不運でも落ち込まないで頑張り続けた成果といえます。菅井にもそれを期待しましょう。
個人別の全勝では、羽生が今期を含めて3回、森内、塚田が2回しました。
ほかの主な棋士では、谷川浩司九段(1980年度のB級2組)、高橋道雄九段(1987年度のB級2組)、佐藤康光王将(1992年度のC級1組)、久保利明九段(1994年度のC級2組)、渡辺明竜王(2006年度のB級2組)などが全勝しました。
私は1980年度のB級2組順位戦で、9勝1敗で昇級しました。昇級がすでに決定していた最終戦で負けたのですが、勝っていれば2人の昇級者(もう1人は谷川六段)がともに全勝という、B級2組以上では初めての記録が生まれたと思います。
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コメント
田丸先生、いつも楽しく拝見させて戴いております。
今期の順位戦はこんなに全勝者が出るとは全く想像出来ませんでした。
新人の一期抜けや遅咲き(失礼)の棋士の昇級など観ていて筋書きの無いドラマを感じた一方、降級者の方にもそれ以上に感じるものがありました
タイトルホルダーや元タイトルホルダーの方の降級もそうですが、ベテランの棋士達の頑張りも凄いですね。
現在、70歳前後の棋士達は鍛えが違うと改めて思います!
現在の棋士を見ていると例えればより優秀なカーナビ(情報)を得る事に目が向き地図が読めなくなっているのではないか・・・と感じています。
勿論、時代が違いますし若手棋士が努力してるのも分かりますが時代の進歩が必ずしも良い事ばかりでは無い!とベテラン棋士が教えてくれてる気がします。
これからも田丸先生のご活躍を祈っております。
投稿: 関東のホークスファン | 2012年3月19日 (月) 13時25分
こんにちわ。久しぶりに投稿します・・・おそらく今年初じゃないですかね?
過日、読売新聞の将棋欄にも『順位戦の制度に問題がある』とありましたが、ホント菅井五段が哀れです
。全勝者2人で、1敗1人ならあきらめもつくでしょうがね・・・ですから今後は『B2~C1で全勝者2人、C2で全勝者3人が出た場合に限り、その期は1敗最上位者も昇級。ただし来期は上のクラスの最下位・・・B2、C1では降級点を取った者より下の順位、B1なら張り出し扱い、降級点、降級者も平常より1名増加』というのは、いかがでしょうか?これなら上っても次も大変ですから。妙案と思いますが、先生や皆さんはいかが思われますか?
投稿: S.H | 2012年3月23日 (金) 15時17分
田丸先生、いつも興味深く拝見させて頂いております。
順位戦のシステムは良く考えられているとは思いますが、特に
「C2の人数が多すぎる」
問題は、なんとかしなければいけない時期に来ているように思います。
こういうことを言うと、C2で頑張っている棋士に失礼なのですが
「ずっとC2に留まっている棋士は、将来の見込みがない」
と看做されても仕方ないのではないでしょうか。
現在の「降級点」システムとは別に、例えば
「*年連続してC2に在籍している棋士は、フリークラスに降休させる。ただし、フリークラスに移った後も現役に残れる年数は、『宣言によるフリークラス棋士』よりさらに緩和する」
とすれば、『C2に長期滞留者が溜まっている』状態が解消され、実力のある人は好成績を挙げてC2に復帰でき、そうでない人も早期に現役引退を強いられることは避けられる、など、比較的、円満に収まりそうに思います。
投稿: オヤジ | 2012年3月25日 (日) 16時35分
三段リーグ、33人で、対局数18局。(二段の人の方が少ないのですね。)
C2は、44人に対して10局
C1は、33人で10局
棋士のレーティングは、ほぼ正規分布に従っています。
そこに、新4段は年に4人入ってきて、昇級は2人です。
新4段は、C2くらすの中央以上の実力があるでしょう。
結果としてC2クラスは、クラス内の実力差が大きくなるシステムになっていると思います。
その結果、対戦相手の運/不運が、結果に影響を与えやすい所に問題があると思います。
C2にしてもC1にしても、くじ運(抽選結果)が昇級に大きな影響を与えないシステムを希望します。
投稿: masa | 2012年3月26日 (月) 00時44分