元奨励会員の写真家・石川梵が東日本大震災の写真集を出版
写真は、最近出版された『フリスビー犬、被災地をゆく』(飛鳥新社)という写真集の表紙です。著者は、写真家でノンフィクション作家でもある石川梵さん(写真の人)。※定価は1470円。
東日本大震災が起きた昨年の3月11日。都内にいた石川さんは、テレビの報道で未曾有の出来事が日本列島を襲っていると痛感しました。そして写真家としてやるべきことは、とにかく現場に行くことだと思い立ったのです。翌日には調布飛行場へ直行してセスナ機をチャーターし、空から被災地の惨状を撮影しました。町そのものが消滅したり、海岸線の見分けがつかないところもあったそうです。
石川さんは深夜に東京の自宅に帰ると、すぐにバイクにまたがって独りで東北に向かいました。そして福島に入って撮影していると、福島第一原発が爆発する事態が起きて避難を余儀なくされました。いったん帰京し、ワゴン車に燃料、食料、水などを積み込んで再び東北に行き、取材活動を続けながら救援物資を送り届けました。
石川さんは4月上旬、愛犬のボーダーコリー「十兵衛」(写真の犬・オス4歳)を連れて東北に行きました。被災者の衣食が足りるにつれ、精神的なケアの必要性を感じたからです。じつは十兵衛は「フリスビー」(プラスチック製の円盤遊具)というドッグスポーツの技を得意にしていました。十兵衛が避難所でフリスビーの技を披露すると、子どもたちは「あっ、空を飛ぶ犬だ」と言って大いに喜びました。大人や救援の自衛隊員にも大人気でした。単なる遊び相手ではなく、癒しの対象にもなったようです。
石川さんの写真集には、被災地の惨状のほかに、復興に向けて取り組む被災者たちの元気な姿、十兵衛と子どもたちの交歓、被災地を慰問したプロ野球・楽天の選手たち、などの写真が載っています。大震災の厳しい現実を思い起こさせながら、なぜか心が和む内容となっています。ぜひ一読をお薦めします。
また、『幸福の黄色いハンカチ』という名作がある映画監督の山田洋次さんは、石川さんが被災地を撮影した別の写真集に載っている、大漁旗と無数の黄色いハンカチが風にはためいている陸前高田市の写真を見て大感激し、石川さんと一緒にその場所を訪れてもう1組の黄色いハンカチを揚げたそうです。※その写真集は『The Days After-東日本大震災の記憶』(飛鳥新社)。
じつは石川さんは10代半ばの約35年前、棋士をめざして奨励会に入会した経歴がありました。1年ほどで3級に昇級し、順調なペースでした。しかし成績が悪くなったとき、四段までどのぐらい年数がかかるのか、自分は棋士に向いているのか、ほかの世界も見てみたい、などと思うようになったそうです。そして「自分は基本的に理数系の人間ではない」と気がつくと、奨励会入会から2年後に退会を決心しました。
奨励会をやめたとき、師匠の関根茂九段や一門の先輩たちから餞別をもらい、そのお金で買ったのが一眼レフカメラでした。映像の世界に興味があったからで、それが新しい人生の門出の品となりました。
石川さんはその後、写真学校を経て、空撮(空中から地上を撮影)の仕事、アフガニスタンの反政府ゲリラと同行して撮った命がけの戦場写真、インドネシアの漁師のクジラ捕りなど、様々なドキュメンタリー写真を撮り続けています。
次回は、与野党の国会議員が将棋同好会で「大連立」。
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