将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2011年12月18日 (日)

田丸の新刊書『実録 名人戦秘話』が発売されました

田丸の新刊書『実録名人戦秘話』が発売されました

田丸が著した『実録 名人戦秘話』〜棋士生活40年 田丸昇の将棋界見聞記〜(マイナビ刊)という新刊書が12月中旬に発売されました。写真は、その表紙(下側の青い部分は帯紙)。※定価は1470円(税込み)。

私は今年で棋士生活40年目を迎え、11月には将棋連盟から勤続表彰を受けました。その記念も兼ねて刊行されたのが本書です。40年間の棋士人生で経験した様々な勝負やエピソードを綴りました。本書は5章で構成されています。

第1章は「名人戦契約交渉が決裂」(1965年〜1976年)。第2章は「幻の名人戦移籍案」(1976年〜2003年)。第3章は「初の名人戦共催」(2003年〜)。

2005年に同じ版元から『将棋界の事件簿』という私の著書が刊行されました。その中では、1970年代に連盟と大新聞社の間で繰り広げられた名人戦契約を巡る葛藤を、実名や数字を上げて詳しく記述しました。読者から届いた感想は「将棋界や棋士の裏話がよくわかった」「著者しか知らない事実が興味深かった」など、おおむね好評でした。

『実録 名人戦秘話』の第1章から第3章は、『将棋界の事件簿』の続編に当たる内容です。第1章では、前作で書いた状況を短くまとめました。第2章では、私が連盟理事時代に経験した名人戦契約問題を初公開しました。第3章では、数年前に勃発した名人戦契約問題を時系列に詳しく記述しました。毎日新聞社と朝日新聞社が名人戦共催に至った一件で、読者も記憶に新しいことでしょう。

第1章から第3章は名人戦契約問題が主な内容ですが、棋士や関係者の揺れ動く気持ちや苦衷も記しました。第3章の名人戦問題が大筋で決着した連盟総会では私が議長を務め、その模様を克明に記したり自分の見解を述べました。また、時々に行われた名人戦の勝負やエピソードも紹介しました。中でも1975年の名人戦(中原誠名人―大内延介八段)第7局は将棋史に残った大激闘で、私(当時五段)が記録係として盤側でつぶさに見た戦いの模様はきっと興味深いと思います。

第4章は「思い出の対局」。四段昇段をかけて戦った2度の「東西決戦」、名人経験者の大山康晴(十五世名人)、升田幸三(実力制第四代名人)、塚田正夫(実力制第二代名人)との対局、棋王戦の挑戦者をめざした羽生善治(二冠)との対局、A級昇級をかけて直接対決した島朗(九段)との対局、A級順位戦で兄弟子の強さを痛感した米長邦雄(永世棋聖)との対局など、思い出が強く残っている対局を振り返りました。

第5章は「盤外エピソード」。カメラに夢中になっていた青年時代、北海道やアメリカでの普及活動、作家・山口瞳や政治家・菅直人との将棋を通した交流、「将棋世界」編集長時代の苦労など、私の盤外での様々なエピソードを綴りました。なお第5章に載っている大半の写真は私が撮影したもので、中には大山・升田のツーショットなどかなり珍しい写真もあります。

40年間の棋士生活を送っている1人の棋士が盤上盤外で経験したことを通して、将棋界のこの40年間の動きを物語のように楽しく読んでもらえると、とてもうれしいです。ご愛読のほどをお願いいたします。

次回は、2012年に向けての思い。

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コメント

4章がいちばん楽しみですね。大山先生とは桂損した棋王戦挑決ですか? それとも… 生涯一度の羽生戦勝利はそのときの準決勝? たしか和服着て臨み長手数の詰みに打ち取られた米長戦や、横歩取り3三桂の島戦、爆弾抱いて敵陣に飛び込むような(笑)田丸将棋には、戦後日本の香りがあったのでは? どうせなら千駄ヶ谷まで買いに行こうかと…

投稿: K島  | 2011年12月20日 (火) 07時39分

田丸先生。
「実録 名人戦秘話」発刊、お目出度うございます。
早速、注文を致しました。

将棋界の秘話や事件簿等、先生しか話せない内容を読むのも興味深いのですが、私は先生の文章に触れるのも楽しみです。
著作は勿論の事、ブログも読む度に、先生の文章力と表現力は一流であると敬服しております。
先生は棋士を目指さなかったとしたら、著述家/小説家/記者/評論家、その他の文筆家として大成功されたのではないかと思っています。
いや、既に一流の文筆家としても評価されているのかも知れません。

投稿: ギタリスト | 2011年12月23日 (金) 02時51分

出版おめでとうございます。是非読ませて頂きます。
本を出版している人とは、同じ出版人として語らずして心が通じるところがあるので大変うれしいです。先日の米長vsボンクラーゼ戦 持ち時間
15分とはいえ、米長完敗には、衝撃をうけました。
本番は楽しみというより、負けたらどうなるのか、少々不安です。
COMより弱いプロ棋士は・・・・

投稿: オンラインブログ検定 | 2011年12月23日 (金) 10時32分

『実録名人戦秘話』さっそく拝読しました。(アマゾンで翌日配達できるんですね)

棋王戦挑決で大山名人に敗れたときのエピソードなど第4章の10篇はどれも大変興味深く、人生の浮き沈み、そのときの素直な気持ちが淡々と綴られていて読んでいてとても清清しい気持ちになりました。

克明な記録を元に棋士でなければ知り得ないことなど満載で、まさに田丸八段、棋士人生の集大成本といえます。

投稿: 秋葉 均 | 2012年1月 3日 (火) 18時50分

『実録 名人戦秘話』は、発売直後に購入し、一気に読了しました。田丸先生が奨励会員時代に同人誌の刊行を通じて山口瞳さんと知り合ったお話、B1を長く維持したお話、1期だけのA級のお話などでした。山口瞳さんは温かい方だったようですね。

ところで、私は「見るだけの将棋ファン」ですが、父は一応将棋を指します。昭和50年代初めから平成の頃まで20年近く、ウチの新聞は「名人戦が載っているから」という理由で毎日新聞でした。毎日新聞社は、将棋の名人戦を主催することで、少なくとも一部は部数を増やしていた、ということになりますね。

田丸先生の以前のご著書「将棋界の事件簿」をネットの古書店に注文しました。最近は、状態の良い古書を入手するのが非常に容易になっていますが、文庫本ででも復刊されるとより多くの人が手軽に読めるのですが。今回の新刊の売れ行き次第でしょうか。

これからも、田丸先生のご著作とブログを楽しみにしております。

投稿: オヤジ | 2012年1月21日 (土) 20時33分

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