将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2011年9月30日 (金)

今年のアマ名人戦はかつて奨励会に在籍した今泉健司さんが初優勝

今年の全日本アマ名人戦は9月中旬に都内で行われました。64人の出場選手は、主要アマ棋戦優勝者、大学将棋部出身者、元奨励会員、学生など、様々な顔ぶれでした。特徴的なのは初出場者が22人と多かったことです。10代・20代の若い世代は計28人を数えました。昨年の大会も初出場者が31人で、10代・20代は計30人でした。そうした世代交代の背景には、若い世代の人たちが熱心に取り組む「ネット将棋」の効果もあると思います。

そんな状況において、アマ名人戦の出場回数が20回以上の選手は、22回の柳浦正明さん(島根)と21回の早咲誠和さん(大分)。柳浦さんは最年長の64歳で、奨励会で修業している同郷の里見香奈(女流三冠)の実戦相手も務めていました。早咲さんはアマ名人戦とアマ竜王戦で、それぞれ3回も優勝しています。

私は郷土の長野県で発行されている信濃毎日新聞の将棋欄で、アマ名人戦の長野代表を決める県名人戦の対局を30年以上も前から解説しています。以前の代表選手は、東日本大会でベスト4、全国大会でベスト16が最高成績でした。しかし昨年は、長野代表の井上徹也さん(当時24歳)が元支部名人の古屋晧介さん、早咲さんらを連破して決勝に進出し、赤畠卓さんに勝って見事に初優勝したのです。正直なところ、井上さんが大学将棋で活躍していたとはいえ、アマ名人戦を初出場で制覇したのには驚きました。

今年の全国大会では、前名人の井上さんはシード選手となりました。今年の県名人戦で優勝した奥村龍馬さんは長野代表となりました。奥村さんは、29年前の朝日アマ名人戦で準優勝した奥村明さんの子息です。9年前に出場したアマ名人戦では、アマ竜王戦とアマ名人戦で優勝した清水上徹さんを破って注目されました。このように、長野代表の選手が2人も全国大会に出場したのは初めてでした。

ところで各地区の代表選手の人数は、基本的に人口比率で決められます。首都の東京は3人で、北海道、福島、千葉、埼玉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫、広島など、大都市がある地区は2人です。しかし仙台市がある宮城、九州一の福岡が1人と、やや不均衡なところがあります。じつはアマ名人戦の場合、地元新聞社や地区大会主催者の分担金によって代表選手の人数が決まった経緯があったようです。なおアマ竜王戦の代表選手は、大都市がある7地区以外は1人です。

長野代表の井上さんと奥村さんは予選リーグを通過し、決勝トーナメントに進出しました。そして井上さんは早咲さん、奥村さんは元アマ王将の武田俊平さん(千葉)らに勝ちました。しかし奥村さんは準々決勝で赤旗名人の加來博洋さん(東京)、井上さんは準決勝で元アマ竜王の今泉健司さん(広島)にそれぞれ敗れました。

伝統があって水準が高いアマ名人戦で過去に連覇を果たしたのは、南川義一さん、小池重明さん、鈴木純一さん、山田敦幹さんの4人だけです。また、過去10年間の優勝者の翌年の実績を調べてみると、連覇した山田さんとベスト4の清水上さん以外の8人は、予選敗退か決勝トーナメントの1・2回戦で敗れました。その意味では、井上さんのベスト4は立派な成績だと思います。奥村さんも自己最高のベスト8に進出しました。

アマ名人戦の決勝は今泉さんと加來さんが対戦し、今泉さんが勝って初優勝しました。

主要アマ棋戦の優勝者は、奨励会の三段リーグ編入試験を受けることができます。じつは今泉さんと加來さんは奨励会の三段リーグに在籍した経歴があり、退会後にその権利を行使して受験したことがあります。加來さんは不合格でしたが、今泉さんは合格して三段リーグに再び在籍しました。しかし規定の計4期において最高成績が11勝7敗で、四段に昇段できずに奨励会を退会しました。

アマ名人戦で優勝した今泉さんは、三段リーグ編入試験を受験しないと表明しました。今後はアマ名人戦の連覇と、「大三冠」(アマ竜王戦・アマ名人戦・朝日アマ名人戦)の獲得をめざすそうで、残る一冠は朝日アマ名人戦です。それが実現すれば素晴らしい実績です。

次回は、コメントへの返事。

|

裏話」カテゴリの記事

コメント

田丸先生こんにちは!いつも楽しく拝見しています。
奥村 明さんの息子の名前には、笑いました。龍馬ですか!
またすごい名前つけたもんですね!
最近は私は地元の岡さんが、子供の頃から面倒みていた、菅井竜也
の大活躍(大和證券優勝、五段昇段)で一番応援しています。

投稿: オンラインブログ検定 | 2011年10月 6日 (木) 18時42分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 今年のアマ名人戦はかつて奨励会に在籍した今泉健司さんが初優勝: