将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2011年9月10日 (土)

フリークラス棋士の対局以外の活動は詰将棋、普及活動、執筆など

「フリークラス棋士や年間10局程度の対局しかされない棋士は、普段はどのように過ごされているのでしょうか」というコメント(7月17日)は《AKI》さん。

棋士の活躍度を示す記録のひとつが年間対局数です。タイトル戦の挑戦者になったり各棋戦で勝ちまくれば、必然的に対局が多くなります。2010年度の最多対局は渡辺明竜王の58局でした。この数字は例年の最多対局に比べると少ないほうです。歴代の最多対局では羽生善治二冠の89局(2000年度)が1位です。次いで米長邦雄永世棋聖の88局(1980年度)、谷川浩司九段の86局(1985年度)、佐藤康光九段の86局(2006年度)と続きます。これらの対局には2日制のタイトル戦も含まれているので、実働日数はもっと多くなります。強い棋士になるには、体力がないと勤まりません。

年間対局数が10局程度というと、フリークラス棋士(今年度は32人)の大半が該当するでしょう。順位戦(B級2組以下)に参加する棋士は必ず10局は指すので、他棋戦を含めれば少なくとも20局以上になります。私はフリークラス転出1年目の2009年度が16局、10年度が14局でした。

「年間対局が10局程度の棋士は、普段はどのように過ごしているのか」という質問には、返答しにくいのが率直な気持ちです。その対局数では十分な対局料収入を得られないからです。したがって、何らかの仕事をして補填する必要があります。時間はたっぷりあるので、どこかの会社に勤めたりコンビニでアルバイトすることもできます。ただ私の知るかぎり、そういう棋士はいないと思います。

《AKI》さんは、詰将棋を作成した伊藤果七段、中国将棋の大会に出場した所司和晴七段の例を挙げました。

伊藤は今春に引退したとき、「これで詰将棋の創作に存分に打ち込める」と語りました。伊藤にとって、もともと詰将棋は人生そのものであり、収入源でもありました。今春に引退した勝浦修九段、森信雄七段も詰将棋を作り、新聞・雑誌で出題したり詰将棋の本を出しています。

所司の中国将棋大会への出場は、あくまでも趣味としての行動です。普段は各地で精力的に普及活動をしています。石田和雄九段、宮田利男七段は将棋クラブを経営しています。大野八一雄七段、武市三郎六段、熊坂学五段は、将棋教室で初級者や子どもたちを指導しています。東和男七段、伊藤能五段は観戦記の執筆をしています。今春に引退した神吉宏充七段は、明るいキャラと才覚を生かして関西でタレント活動もしていました。

これらの例のように、フリークラス棋士の多くは詰将棋作成、普及活動、将棋クラブ経営、観戦記執筆など、何らかの形で将棋に関わる仕事をしています。前記以外の棋士たちも、たぶんそうしていると思います。

私は以前から「将棋世界」「週刊将棋」などで、定跡講座、棋界の歴史、棋界時評、著名人を紹介するエッセーと、様々なテーマで書いてきました。週刊誌、文芸誌などの一般誌で、将棋関連の連載記事を書いたこともあります。単行本も数多く出しました。つまり私の場合、対局以外の主な仕事は執筆活動となっています。

正直に言うと、そうした副業で稼いだとしても(実入りが少なかったり、持ち出しのケースもあります)、対局で活躍して得る収入のほうがはるかに多いです。また棋士として、対局で勝つ喜びは何事にも替えがたいものがあります。しかし棋士全員がタイトル保持者やA級棋士になれるわけではありません。成績が悪くなれば、いつかフリークラスに所属したり引退に追い込まれます。そんな状況に備えて、自身の資質に合った対局以外の仕事にも、目を向けるべきだと思います。実際に、そういう棋士も必要なのです。

次回は、「週刊!将棋ステーション」への出演。

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コメント

いつも楽しく拝見させて頂いてます。個人的に思うのはプロ棋士になるのがこれだけ大変なのに、晴れて四段になっても現行制度が余りにプロ棋士に冷たいのではないでしょうか?

勿論、財源やよりプロのレベルを向上させる等、仕方ない事も有るかも知れません。

極論すれば順位戦の成績が良ければ他の棋戦を全敗しても生きていけますし、逆に他の棋戦の成績が抜群でも順位戦の成績が悪ければいづれは引退に追い込まれる訳です。

順位戦は持ち時間が長く年配者には辛い棋戦と思いますが3時間位の棋戦ならまだまだ実力を発揮できる棋士も多い筈です。

フリークラスからの復活には30局以上指して良いところどりの6割5分以上の成績が必要ですが他の棋戦の成績を考慮してフリークラスへの転出(失礼)を防ぐ制度も必要と思われます。

若くしてフリークラスになる方をみると残念に思うので。

長々とスミマセンでした。

投稿: 関東のホークスファン | 2011年9月12日 (月) 06時33分

プロ制度についての提案ですが、プロはそれぞれに将棋教室を持つシステムにするべきです。(将棋連盟が一律の補助金を出す)
このシステムは将棋普及と棋士の個人収入を賄うだけでなく、プロ野球やJリ―グのように地元の協力や人気を得て、ご当地棋士を応援して将棋界を盛り上げる役割も果たします
また将棋連盟が三段リ―グを突破できずにプロになれなかった棋士に「連盟公認指導員」を認定する事で、海外の指導員派遣の仕事を与えたり、プロの経営する将棋教室(トップ棋士は忙しいから)で雇用したりと、将棋に携わる仕事を増やす事に繋がります
幼稚園や学校、企業、老人ホ―ムまで出向いて将棋普及をして、将棋教室に人を呼び込み、地元の人達に応援してもらう事で、棋戦に対する意気込みや責任感も強くなるでしょうし、棋界も盛り上がるのではないでしょうか?

投稿: 石田流 | 2011年9月13日 (火) 21時32分

私は今から20余年前、中学生だった頃に通っていた塾でひよんな形で開かれた総当りリーグ式の将棋大会に興味本位で参加し、私は結果的に同級生5名・先生2名相手に7戦全敗で悔しい思いをしたと同時に、先生2名を撃破して6勝1敗の成績を挙げた友人に対して羨望を抱きました。

少しでも追いつきたい一心で、両親に相談したところ、連盟でプロ棋士に教わることができる旨を知り、早速申し込みました。

その際、私の指導対局を担当したのが田丸先生で、序盤の定跡もろくずっぽ知らなかった私に親身かつ的確に教えてくださり、指導の途中では、指導を申し込むに至った経緯にまで耳を傾けてくださいました。帰り際「柳君が(塾の)先生に勝てるようになる時を、楽しみに待っているよ。」と笑顔で語りかけた上で、名刺を下さいました。(その名刺は、未だに保存しております。)

結局、私は田丸先生に「朗報」を伝えられないまま塾を卒業しましたが、その後ますます将棋が楽しくなり、現在も愛好し続けております。

このようなきっかけがあって、私は将棋愛好家であると同時に、田丸・昇・獅子丸・ロン毛丸・ライオン丸先生のファンでもあるのです。

現在、フリークラスとなっている先生方も、この精神を大切に普及活動に勤しんでくださることを切に願ってやみません。

投稿: 柳 | 2011年9月14日 (水) 12時08分

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