タイトル戦の対局場、対局での喫煙、持ち時間の使い方のコメントへの返事
「将棋のタイトル戦がよく行われる愛知県・蒲郡の『銀波荘』の女将が、最終まで縺れ合いになることを祈って第6局や第7局を待つ気持ちですと、中日新聞の記事で語っていました」という内容のコメント(6月25日)は《第7局の準備は》さん。
タイトル戦の対局場の順番は、主催新聞社が総合的に判断して決めます。7番勝負の場合、第4局までは必ず行われます。第5局は4連勝、第6局は4勝1敗で早く決着すると行われません。第7局の確率はさらに低くなります。しかし実現すると、今年の名人戦第7局のように大いに盛り上がります。山梨県甲府市の対局場の解説会場には、定員を大きく上回る500人もの将棋ファンが詰めかけたそうです。
対局場側は対局室・関係者の客室・取材本部・解説会場となる部屋を押さえ、前夜祭の準備、対局者への配慮、取材陣やファンへの対応など、準備万端を整えて対局を待ち受けます。それだけに、前記の対局場の女将の率直な心境はよく理解できます。なおタイトル戦が早く終わって行われなかった場合、主催新聞社から対局場へのキャンセル料の支払いはまったくない取り決めになっているそうです。その代わり今期が第7局だったら、来期は第5局に繰り上げるなどの埋め合わせをすることがあります。
将棋を愛好する作家・本岡類さんの推理小説『奥羽路 七冠王の殺人』(祥伝社刊)は、棋界初の七冠王が実現した第5局の夜に殺人事件が起き、対局者の七冠王の棋士に嫌疑がかかる衝撃的な内容です。じつは、その棋士の4連勝で終わっては困る第5局の対局場関係者の思惑が事件の背景となりました。対局場がからんだ将棋ミステリーです。
「昔のNHKのテレビ将棋で、対局者が煙草を吸っていた映像を観た記憶があります。いつごろから禁煙になったのでしょうか。ちなみに田丸八段は煙草を吸いますか」という内容のコメント(6月25日)は《しおんの王☆》さん。
以前はNHKスタジオの対局室の盤の脇に灰皿が確かに置いてあり、対局者の喫煙光景が画面に流れました。それが時代の潮流や消防法の関係によって、禁煙になったと思われます。いつごろからかは不明です。
将棋会館の対局では喫煙できます。ただロビーに行って吸うなど、相手の対局者に気を遣う棋士が多いです。対局室を禁煙にするべきだという声は以前からありました。しかし日本たばこ産業(JT)が棋戦主催者になっている事情もあって、将棋連盟の理事会は制度化にやや及び腰です。囲碁団体の日本棋院は、対局室を禁煙にしているそうです。ちなみに私は30代半ばまで吸っていましたが、それ以降はずっと禁煙しています。
現代で喫煙する主な棋士は、内藤国雄九段、大内延介九段、勝浦修九段、石田和雄九段、田中寅彦九段、塚田泰明九段、先崎学八段など。棋士全体では少数派です。タイトル戦によく登場する棋士の中で、喫煙する人はほとんどいません。
「公式戦での持ち時間の使い方で、対局者の間に約束事みたいなものがあるのでしょうか。たとえば、相手が中座しているときに指してはいけないとか。秒読みに入ったときのトイレも教えてほしいです」という内容のコメント(6月22日)は《将棋太郎》さん。
公式戦での持ち時間の使い方はまったく自由で、約束事みたいなものはありません。相手が中座したときに指してもいいのですが、相手がいないと何となく指しにくいものです。相手が長考して指すと、次の一手がほぼ必然でも付き合って長考することがあります。相手の残り時間が少なくなると、自分の考慮時間中に考えさせないために、持ち時間が充分あってもわざと早く指すことがあります。秒読み中のトイレは深刻な問題です。これもひとつの勝負の要素といえます。実際に様々なエピソードがありました。次回のテーマとします。
次回は、対局中のトイレについて。
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コメント
「対局室を禁煙にするべきだという声は以前からありました。しかし日本たばこ産業(JT)が棋戦主催者になっている事情もあって、将棋連盟の理事会は制度化にやや及び腰です。」
喫煙する棋士が少ないことを聞いていましたので、薄々そうかなと思っていましたが、はっきりと書いていただいてありがとうございました。
全館禁煙できるような状況に将棋連盟の運営が1日も早く好転することを祈念いたします。
投稿: kinoshita | 2011年7月 5日 (火) 12時14分
名人戦第7局での盛り上がりは、『週刊将棋』でも拝見しまして、それは、ものすごかったとか。
山梨出身の米長会長も同様の文章を『週刊現代』のコラムでも述べていました。
・・・ただ気になったのが、『観客の世代層』はどうなのか、と言う点です。
『大盤解説会は日本中こどもが超満員』と、米長会長は『週刊現代』で述べていましたが、その割には『子供も女性も若者も多かった』と言う話を一回も聞いたことがなく、これは昔からそうです。
そもそもタイトル戦は平日におこなわれるので、前夜祭に子供や女性、若者を呼んでも、翌日は学校、会社、家事などで、時間に追われ、対局場に来る事はありません。
そうなると解説会には定年過ぎた男性か、有給休暇をとった男性将棋マニア(笑)が集まるのみになるのです。
いくらネットで指し手が分かると言っても、『本場のナマの臨場感』を味わわせるのも連盟の仕事、課題の一つと思います。
棋聖線だけでなく、全タイトル戦1~2局は『土日対局』にし、若い観客を呼び込みやすくするべきでは?
投稿: S.H | 2011年7月 5日 (火) 16時39分