里見香奈女流三冠の奨励会編入試験に関するコメントとその後の経過
里見香奈女流三冠は5月に奨励会の1級編入試験を特例で受けました。そして3人の女性奨励会員(加藤桃子2級、伊藤沙恵2級、西山朋佳4級)との試験対局で2勝1敗の成績を収め、奨励会に1級で入会しました。今後は女流棋士としての活動を続けながら、関西奨励会に所属して初の「女性棋士」をめざします。
里見の奨励会編入試験について、4月29日のブログで賛否両論のコメントを紹介しました。その後も、関連するコメントが寄せられました。
「ルールの問題ですからね。男性奨励会員もかつては8連勝か12勝4敗でプロになれたわけで」というコメント(5月4日)は《popoo》さん。「奨励会試験が特例だから許せない、実力をつけてから男子と同等の立場で、などというのは、あまりにも小さい考えではないですか。古い慣習にこだわっていたら、将棋は衰退の一途をたどると思います。時代が里見香奈という存在を善しとしたのだと思います」という内容のコメント(同日)は《将棋太郎》さん。「奨励会での対局は5戦(試験対局を含む)して3勝2敗。勝率6割ですね。今後は7割5分程度の勝率を維持すれば、順当に昇進することでしょう。私は里見三冠を静かに暖かく応援していきたいと思っています」という内容のコメント(5月24日)は《シゲ》さん。
いずれのコメントも、里見が自身の意思で選んだ道に理解を示し、今後の戦いぶりを見守りたい、という思いが感じられます。たぶん大方の人も同じような思いではないでしょうか。今回の奨励会編入試験の方法に疑問を抱いた方がいますが、私は大した問題ではないと思います。奨励会に入会したことは、棋士への道の「スタート地点」に立ったにすぎません。実力と勝負運があれば、はるか先の「ゴール地点」である四段に昇段して棋士になれます。それが叶わなければ奨励会を退会する、ということなのです。自己推薦や一芸で大学に入り、後は普通に過ごして卒業するのとはまったく違います。
「女性奨励会員が女流棋戦への参加を希望した場合、奨励会で初段以上であることを条件に認めたらどうかと思います」というコメント(4月28日)は《オヤジ》さん。「里見さんに限らず、女流棋士と奨励会の掛け持ちを完全解禁したほうがよいと思います」というコメント(4月27日)は《スナック小島》さん。※以前にも紹介。
これらのコメントから1ヶ月後の5月27日。将棋連盟理事会(会長・米長邦雄永世棋聖)は、「女流棋士が奨励会試験を受験して入会することは自由」「女性奨励会員が女流棋戦に出場することは自由」という内容の見解を連盟ホームページに発表しました。
連盟は里見の奨励会入会が決まった後、3人の女性奨励会員が「リコー杯女流王座戦」のほかに「マイナビ女子オープン」への参加も認めました。そしてさらに、「奨励会と女流棋士の重籍」の完全解禁に踏み切ったのです。連盟はその補足説明として、「2年前の連盟総会で奨励会と女流棋士の重籍に関する件で担当理事より説明があり、理事会に一任することで承認された」という内容の議事録をホームページに記載しました。
私が保存してある2年前の総会での覚え書きを見ると、確かに理事会は「奨励会と女流棋士の重籍に関して、理事会に裁量を預けてほしい」と提案しました。その件について、ある棋士は「1998年(平成10年)に総会の決議で重籍の禁止を決めたことを、理事会の裁量とするのはおかしい」と反対意見を述べました。ただ同調する意見はあまりなく、結果的に理事会に任せることになりました。
2年前の総会では、理事選挙と公益法人問題が需要案件でした。私は正直なところ、理事会の前記の提案に唐突な印象を抱いたものです。もしかしたら里見の奨励会受験問題は、当時から水面下で検討されていたのかもしれません。
次回も、奨励会と女流棋士の重責問題。
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コメント
里見女流三冠が、6月4日の奨励会での対戦で2勝。編入試験を含めて通算で5勝2敗で勝率0.714。男性棋士に3勝1敗で勝率0.750となりました。今まで奨励会編入に関して賛否両論ありましたが、文句なく1級に合格ということで、誰も異論ないのではないでしょうか。また今回、既に初段に昇進を決めている三田1級に勝ったということで、その実力を明確に示されたと思います。早く昇段を決めて欲しいですね。ところで里見さんは、今回を機に大阪に引っ越すかと思いましたが、依然島根を拠点に、家族を大事にしながら、日々故大山名人の将棋を勉強されているようですね。これに関して、師弟に徹する人は成長が早いというひとつの見本ではないかと思います。今後奨励会でもまれて益々強くなって欲しいです。そして将棋界全体が活性化し、全体に良い影響が出ますように!
投稿: シゲ | 2011年6月 6日 (月) 15時47分
里見さんに限らず、女流棋士を応援する気持ちは、将棋ファンは誰しも持っていると思います。だから、奨励会のチャレンジすることは応援しています。
今回の件に関しては、連盟の特例につぐ特例で、ちょっとどうかな、と思う次第です。本筋はまず、ルールを整備してからなのでは、と。そのあたり、一般的な社会の感覚と連盟はずれている気がします。公益法人がそれでいいとは思えませんが、いかがでしょうか?
きちんとルールを決めていれば、「賛否」両論ではなく、「賛」のみになった気がいたします。
投稿: とくめい | 2011年6月 6日 (月) 21時55分
「丸の眼」を読みました。
いつも興味深いブログや寄稿を有難うございます。
連盟手当、危険手当、降級手当などが有ったのですね。
ビックリしたと同時に、厚生年金と共に手厚い社団法人
だったと思いました。
新しい報酬体系により賞与が無くなるようですね。田丸
先生の収入が減るのかも知れませんが、現実的には田丸先生
よりもっと若い世代の棋士が、今から10年20年後に理想の
将棋が指せなくなった頃に堪えてくるのかも知れませんね。
個人的には田丸先生に理事長になっていただきたいですね。
中立に冷静に物事を判断されており、好き嫌いで物事の判断を
しないと感じるからです。
理事長になるには名人をはじめ、タイトル経験者じゃないと
難しいのでしょうか?
田丸先生の元A級という実績では現実的に難しいのでしょうか?
投稿: よっしー | 2011年6月 7日 (火) 22時08分