将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2011年6月 9日 (木)

奨励会と女流棋士の重籍に関する過去の経緯と問題点

将棋連盟は5月下旬、「女流棋士が奨励会試験を受験して入会することは自由」「女性奨励会員が女流棋戦に出場することは自由」という内容の見解を発表しました。

連盟は、奨励会員と女流棋士を兼ねる「重籍」をこれまで禁止してきました。しかし里見香奈(女流三冠、奨励会1級)に重籍を特例で認めたことで、全面的に解禁する流れに至ったようです。女流棋士、女性奨励会員、女性アマなど、すべての女性に門戸を開いた「リコー杯女流王座戦」が創設されたことも影響したかもしれません。

奨励会と女流棋士の重籍の第1号は、女流棋界でかつて華々しく活躍して第一人者だった林葉直子さん(元女流棋士・五段)でした。林葉は1979年(昭和54年)の秋、小学6年・11歳で奨励会に6級で入会しました。師匠の米長邦雄(永世棋聖)は、林葉を大きく育てる方針から、女流棋界とは一線を画させました。林葉も20歳までに四段に昇段して、初の「女性棋士」となる決意で修業していました。

当時の女流棋界は発足から数年たち、順調に軌道に乗っているようでしたが、実力面や人気面でやや陰りが生じていました。棋戦も女流名人戦と女流王将戦だけでした。そんな状況で女流棋戦の主催紙は、林葉の才能と美貌に注目し、女流棋戦への参加を連盟に要望したのです。米長・林葉の師弟は、奨励会一筋の方針でした。しかし女流棋戦の存続が危ぶまれた事情もあって、連盟からの要請を受け入れることにしました。林葉は80年の末、女流2級として女流棋戦に参加しました。

林葉はその後、奨励会は成績不振で退会しました。女流棋戦は83年に二冠を獲得するなど、大いに活躍しました。林葉の強さと可憐なセーラー服姿は、マスコミにも注目されました。なお、林葉のライバルだった中井広恵(女流六段)は、女流棋士になった後に奨励会に入会しました。後年には、矢内理絵子(女流四段)、千葉涼子(女流四段)、竹部さゆり(女流三段)も、奨励会と女流棋士を掛け持ちしました。

女性奨励会員が女流棋戦に参加したことによって、女流棋界の実力は全体的にレベルアップし、人気も高まって棋戦が増えました。その一方で、「厳しい修業をする男性奨励会員を尻目に、女性奨励会員が華やかに脚光を浴びたり高額賞金を手にする」「6級の女性奨励会員が特別参加したプロ棋戦の対局で、その女性より上位者の男性奨励会員が記録係を務める」といった重籍による弊害や矛盾が生じるようになりました。そうした状況に疑問を抱いた棋士は、「結局は本人のために良くない」「男性奨励会員に悪影響を及ぼす」「奨励会の日程が女流棋戦の都合で左右される」などと批判しました。

1998年(平成10年)の連盟総会では、ある棋士が「奨励会と女流棋士の重籍は禁止すべきだ。不都合なことがいろいろとある」という主旨の動議を出しました。総会で副議長を務めた私は、当初の議案になかったので扱いに困りました。そこでほかの棋士に意見を求めると、「現状でいい」「女流棋士をあまり責めてはいけない」「重籍はおかしい」「今後は重籍は認めない」など、賛否両論が出ました。結局、ほかの議案と一緒に決議をとった結果、76票対62票の少ない票差で、今後は重籍を認めないことに決まりました。

それから13年後の今年、連盟理事会の決定によって重籍が認められました。

女流棋界で活躍している里見は、「自分の棋力をさらに磨く」ために奨励会に入会しました。ほかの3人の女性奨励会員(加藤桃子2級、伊藤沙恵2級、西山朋佳4級)は、どんな思いで女流棋戦に参加するのでしょうか…。奨励会以外の対局でも、一所懸命に指せば勉強になります。ただ「栄誉も営利も得られる」女流棋戦に比重をかけすぎると、奨励会のほうが疎かになる懸念があります。

奨励会と女流棋士に重籍する4人の女性の今後の戦いぶりと両立の仕方を、じっと見守りたいと思います。

次回は、NHKのテレビ番組が特集した子どもの将棋熱。

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コメント

いつも楽しく読ませていただいていますが、ひとつだけ率直なコメントをさせてください。

当時の連盟、現在の連盟の規約がどうなっているのか知りませんが、取締役会や理事会と違い、総会は招集通知に記載された議題以外の議題を審議してはいけないと普通はなっています。(なっていなかったとすると規約がおかしいとしかいいようがありません。)議題を見て総会に出席するかどうか、委任状をどうするか、などを決めたり、議論の準備をしたりしますので、議題になっていないことを審議すると不意打ちになるからです。

女流棋士にとっては重大でかつ不利益な制度変更が、正しいプロセスを経ずにきめられたようで、法律家としては大変残念に思います。

連盟が他の団体とかなり性格を異にすることは認識していますが、今後の連盟には、公益法人化のこともあり、よりガバナンスが大事だと思いますのであえてコメントしました。

投稿: tactless | 2011年6月 9日 (木) 19時18分

私は「重籍する4人の女性」以外にもう一人、気になる方がいます。

里見さんが奨励会への編入試験を行うことが公表されたのが4月13日。
翌14日のueda823さんのTwitterより。
「私はその場所で指したいとは思った。でもそれを通すほど意志が強くなく、その言動が色んな人に失礼になると今でも思ってしまう。それを言えた彼女は強いなぁと思う。同時に、もし別の場所にいてもいつか勝ちたいとも思う。」

ueda823さんとは、言わずと知れた上田初美女王(当時女流二段)です。
複雑な心境がよく現れている呟きだと思います。
重籍が認められた現在、彼女の心の内は変化したのでしょうか。
それとも、何も変化はないのでしょうか・・・

投稿: popoo | 2011年6月 9日 (木) 21時57分

女流棋士と奨励会の重複について、認めないと言ったかと思いきや里見女流三冠が受けたとたんにそれを翻すのは、一貫性がありませんし、何より、実際に女流棋戦を休場した甲斐女流王位や香川愛生女流一級に対して不公平だと私は思います。

私が思うに、女流棋戦と奨励会の掛け持ちは、男性棋士のフリークラスのように、女流名人戦だけは休場させて、女流名人はタイトル保持中は受験を認めないなど、もっと臨機応変にすべきだったと思います。

それか女流タイトルを獲得した段階でいっそのこと「フリークラス編入試験」を受ける権利を与えるとか…。

話は変わりますが、竜王戦の6組昇級者決定戦で「田丸八段対飯野七段」の対局入ってますね。
飯野七段は敗れたら規定により引退になります。

飯野七段が「棋士人生に悔いは無い」と言わんばかりの安らかな引退を迎えられるような、田丸・昇・獅子丸・ロン毛丸・ライオン丸先生の素晴らしい棋譜が完成することを心より願って止みません。

竜王戦での勇姿を、楽しみにお待ち申し上げております。

投稿: 柳 | 2011年6月11日 (土) 05時04分

田丸先生こんにちは!昨日ミズノオープンでゴルフの石川遼岡山にきたので初めて生で、見ました。予選ラウンドは順番が決まって(8時20分スタート)いるのは、知らなくて、18番ホールひとつしか見れませんでしたが、入場料3000円払って大変満足しました。一番びっくりしたのは、クラブハウスの前でゴルフグッズを販売しているのですが、なんと石川遼のグッズのみで、それも100円ショップにあるタオルとかハンカチマグカップに石川ブランドが印刷されているだけで、タオル1800円ハンカチ1800円マグカップ1500円が飛ぶように売れていました。私も記念に(入場者限定販売のため)石川キーホルダーボールつきマグカップ買いました。帰りも2時間の石川交通渋滞にまきこまれました。石川遼経済効果を実感した一日でした。会長も発言されている将棋界の女石川遼(里見香奈)大きく育つことを、心より祈っています。


投稿: オンラインブログ検定 | 2011年6月26日 (日) 07時59分

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