将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2011年4月22日 (金)

特例の奨励会編入試験を受けて女性初の「棋士」をめざす里見香奈女流三冠

女流棋士の里見香奈(19歳・女流三冠)が棋士養成機関の「奨励会」への受験を将棋連盟に強く希望し、連盟は奨励会1級の編入試験を特例で行うことを決めました。

現行規定では、女流棋士は奨励会との重籍はできません。奨励会を受験して合格すれば、女流棋界は休会しなければなりません。実際に前例がありました。1998年(平成10年)には女流1級の甲斐智美(女流二冠)が奨励会入会によって休会し、5年後に奨励会を退会して女流初段で復帰しました。2009年(平成21年)には女流1級の香川愛生が奨励会入会によって休会し、今年3月に奨励会を退会して女流1級で復帰しました(現在は来年3月まで休場中)。これらの前例に倣うと、里見が奨励会に入会すれば女流棋界は休会し、保持するタイトルも手放すことになります。里見もその覚悟だったようです。

連盟は里見の強い希望を理解し、奨励会受験を受け入れることにしました。ただ現行規定を適用すると、あまりにも影響が大きくなります。そこで、里見の素晴らしい実績に対する評価と女流棋戦主催者への配慮から、女流棋界と奨励会の重籍を特例で認めたのでした。里見は従来どおり、女流棋戦に出場して対局します。ただし竜王戦・王座戦・棋聖戦などのプロ公式戦の女流棋士枠については、奨励会員扱いとなるために出場できません。

通常の奨励会入会試験は、毎年8月に東西で一斉に行われます(昨年の受験者は計71人)。里見の場合は、連盟の意向で特例の編入試験が行われることになりました。

里見は5月3日の関東奨励会例会日に、加藤桃子2級(16歳)、伊藤沙恵2級(17歳)と対戦します《2局とも手合いは里見の後手番》。そして5月21日の関西奨励会例会日に、西山朋佳4級(15歳)と対戦します《手合いは里見の香落ち》。編入試験の対戦相手は、いずれも女性奨励会員です。里見はこの3人と対戦し、2勝すれば奨励会に1級で入会します。1勝2敗は2級で仮入会となり、3敗は不合格です。

里見は2004年(平成16年)の12歳のとき、女流棋士2級でデビューしました。その後、めきめきと頭角を現してタイトル戦で活躍しました。現在は女流名人・女流王将・倉敷藤花の三冠を保持し、通算勝率は7割台に達しています。今年から始まる大型棋戦の「リコー杯女流王座戦」では、優勝候補の最右翼です。まだ19歳と若いので、「里見時代」はかなり長く続くと思います。

里見は盤上で活躍するとともに、女流棋界の若きスターとして盤外でも人気を呼び、メディアに注目されたり写真集が刊行されました。獲得する年間の賞金・対局料も、女流棋士としては大台となる1000万円に近いようです。ちなみに前年度の公式戦でわずか4勝(勝率は2割台)の田丸は、実質的な対局料の総額が約300万円でした。里見の賞金・対局料の総額は、不成績のC級棋士、フリークラス棋士をすでに上回っています。

そんな里見が「奨励会に入って自分の棋力を磨き、自分がどこまでできるか挑戦したい」という強い思いから、奨励会の受験を決意しました。その背景には、いったい何があったのでしょうか…。

里見が奨励会に入会して四段に昇段すれば、女性初の「棋士」が誕生することになります。しかし難関の三段リーグが象徴するように、それに至る道程は長く険しいものがあります。過去の例で女性奨励会員の最高位は、前記の甲斐と岩根忍(女流二段)の1級でした。

次回は、「女性棋士」と「女流棋士」の違いについて。

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コメント

いつも楽しく拝見させて頂いております。

今回の編入試験に関しては賛否両論と聞きます。現役奨励会員にすればやるせない気持ちがあると思いますし。

親しくして貰っているプロに聞いた所、里美さんの力は奨励会の三段はあるそうです。だからこそ試験相手の奨励会員には里見さんに勝ってその実力を世間に見せて欲しいと願っているんです(アンチ里見ではありません)

里見さんのチャレンジ魂には敬服し応援しますがだからこそ繰り返しますが、奨励会の力を見せて下さい。

投稿: 関東のホークスファン | 2011年4月22日 (金) 11時12分

こんにちは、田丸先生。初めて投稿いたします。
楽しく拝見しております。
私は20年近く、『将棋世界』『週刊将棋』『NHKテキスト』で棋界状況を見てきまして、今は無き『将棋マガジン』『近代将棋』『将棋ジャーナル』も購読していました。
そんな私ですが、今回の里見さんの受験は驚きです。しかし応援いたします。
蛸島先生以降、女性奨励会員の件は全て知っていますし、昔、矢内・碓井(現・千葉涼子)・竹部(現・木村さゆり)の3少女が話題になってました。
先の香川さんまで、彼女達には彼女達なりの考えがあったのでしょう。
こうした女性話題を聞くと、いつも『将棋界の女性普及』を考えさせられます。
強い女の子を育てるには、やはりまわりにそうした環境やよき指導者がいるかどうかです。
ところが、女の子や女性が将棋に触れようとすると、バカな男連中が、天然記念物を見るかのごとく、ワラワラと集まり、男くささを撒き散らします。
それによって女性達は女性同士で固まるか、将棋界から去っていくか、のどちらかなのです。
次の女性人材(女流棋士、奨励会員、アマ女流、女性ライター)を作りたいのではあれば『男は黙って見守る』『女は女同士で固まらない』という環境を作るべきでしょう。
ちょっと話題からずれましたが、今回の里見さんの件が『将棋界の女性普及』の新たなヒントになれば、と思います。
大事なのは『里美さんを倒す少女を見つけ、育てていく環境づくり』です。

投稿: S.H | 2011年4月22日 (金) 15時33分

田丸先生、お疲れ様です。

女流三冠ですから年間で1000万円位はあるでしょうね。
女王やリコー杯を獲ると、高額賞金なのでもっといくでしょうが。


さて里見さんは応援していますが、理事会が特別扱いし過ぎると
周囲から反発を招きますよね。三冠保持者なので「女流休会免除」
は百歩譲って納得しても、手合いや日程まで特別扱いするのは
良くないですね。

理事会の責任者である米長会長に気に入られるかどうかで対応が
変わることが多いと、将棋ファンとしては面白くないですね。

投稿: よっしー | 2011年4月23日 (土) 17時15分

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