プロ棋士が犯した様々な「反則」の中で最も多いのが「二歩」
「反則といえば、真っ先に思い浮かぶのは淡路仁茂九段ですね」というコメント(3月5日)は《永世棒銀》さん。「そんなに印象に残る珍反則ですか。内容を知りたいです」というコメント(同)は《川口博司》さん。
プロ棋士といえども、錯覚やうっかりによって「反則」を犯したことが稀にあります。過去10年間の公式対局(女流棋戦も含む)を調べてみたら、約40局の反則負けの例がありました。年平均が約4局で、多いか少ないかはみなさんで判断してください。
反則の中で最も多いのが「二歩」で、半数を占めました。終盤の寄せ合いの局面で、読みに没頭して盤を部分的に見たり、秒読みに追われたとき、つい自陣の歩を忘れて敵陣に歩を打ったり、敵陣に打った歩を忘れて「底歩」を打った例が大半でした。もっとも小林健二(九段)などは、▲9四歩がいるのに▲9二歩と打ちました。前からの読み筋だったので、二段差の二歩に気がつかなかったようです。
二歩の共通例として、「筋悪」の手はありません。「好手」や「手筋」の手が多いものです。そんな「魅力」に引き込まれて、郷田真隆(九段)、田中寅彦(九段)、山崎隆之(七段)、矢内理絵子(女流四段)らの一流棋士でも二歩を打ちました。また、大山康晴(十五世名人)も二歩を打ちましたが、それで大山に初めて勝った相手の棋士は「二歩でなくても勝てる形勢だったのに…」とぼやいたそうです。
《永世棒銀》さんのコメントにある淡路九段の反則は「2手指し」でした。序盤で相手の手番なのに、次の手が必然なので続けて指してしまったのです。同じ例はほかに2局あり、いずれも序盤の局面でした。序盤の駒組が続いている局面では、どちらの手番かわかりにくいことがあります。私はそんなとき、棋譜用紙を見て手番を確認します。
「豪快」な反則といえば、石橋幸緒(女流四段)が一番でしょう。▲6六角が自分の▲4四歩を飛び越えて、▲2二角成と王手したのです。石橋は数手前からそれで詰みと読んでいて、反則を指摘されても何のことかわからなかったそうです。四段目の歩がしばし消えていたのでしょうか…。詳しい話は2009年10月19日のブログを見てください。
「怪物」の異名がある若手棋士の糸谷哲郎(五段)も、豪快な反則負けをしました。終盤で△7八同馬と王手された局面で、8八の玉で▲7八同玉と馬を取ったつもりでしたが、馬を取って駒台に置いてから何と▲8七玉と指したのです。△7八同馬▲同玉△3八飛の王手のとき、▲8七玉と逃げる読み筋なのが、前の2手を飛び越えて▲8七玉と指してしまいました。つまり、2手指しの反則でした。
そのほかに、後手番なのに先手番と思い込んで初手を指す、△4七成桂が△3六成桂と引く、△4三馬が△7一馬と引く、▲5四角が▲4五角成と成る、王手をうっかりする、などの反則負けの例がありました。
それにしても、様々な反則があるものです。ちなみにネット将棋では、二歩などの反則の手は、いくらクリックしてもソフトが対応しません。
私は40年間の公式対局において、反則をしたことはありません。ただ近年は、反則に近いような悪手や見落としをよく指してしまいます。
次回も、コメントへの返事。
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コメント
> ネット将棋では、二歩などの反則の手は、いくらクリックしてもソフトが対応しません。
モバゲーに吸収される前のいわゆる旧版のYahoo将棋では
禁じ手のうちなぜか打ち歩詰めだけはガードされてなく、
必敗の局面をそれで逃れたことが一度だけありました。
ちなみに現在のモバゲーYahoo将棋がどうなっているのかは知りません。
投稿: へっぽこ振り穴党 | 2011年4月 1日 (金) 23時25分