A級順位戦の最終戦で森内九段が名人戦挑戦者に、降級は木村八段、藤井九段
A級順位戦の最終戦・全5局が、3月2日に東京の将棋会館で一斉に行われました。カードは、森内俊之九段(6勝2敗)―久保利明二冠(4勝4敗)、渡辺明竜王(6勝2敗)―丸山忠久九段(3勝5敗)、谷川浩司九段(4勝4敗)―郷田真隆九段(4勝4敗)、高橋道雄九段(4勝4敗)―藤井猛九段(3勝5敗)、三浦弘行八段(3勝5敗)―木村一基八段(3勝5敗)。「将棋界でいちばん長い日」といわれるこの最終戦の模様は、NHK衛星放送の特別番組で午前・午後・深夜に分けて終局まで中継されました。
名人戦挑戦者は同成績の森内九段と渡辺竜王にしぼられ、一方が挑戦権を獲得するか、両者が同成績でプレーオフ(挑戦者決定戦)に持ち込まれる可能性がありました。
降級(2人)該当者は、不利な順に藤井九段、木村八段、丸山九段、三浦八段、久保二冠。藤井と木村は、負けると降級が決まりました。昨年の名人戦挑戦者の三浦、4勝している久保も、ほかの対局の結果次第では負けると降級する可能性がありました。
中でも注目された対局は、名人戦挑戦と残留をめざす森内―久保戦、渡辺―丸山戦、ともに降級該当者の三浦―木村戦でした。もっとも順位戦に「消化試合」はありません。昇級・降級に関係なくても、最後の勝ち負けで生じる順位差がいかに大きいかを、棋士たちはよく心得ています(昇級・降級で同成績の場合、順位上位者を優先)。
どの対局も熱戦が繰り広げられ、夜戦に入りました。そして12時前に三浦―木村戦が終わり、三浦が勝ちました。木村は強靭な受け将棋が得意で「千駄ヶ谷の受け師」の異名がありましたが、本領を発揮できずに敗れて、4期在籍したA級から降級しました。投了前にトイレに行って数分間も中座したのは、心の整理を付けるためだったと思います。
高橋―藤井戦は高橋が勝ち、藤井は10期在籍したA級から降級しました。谷川―郷田戦は郷田が勝ち、通算1200勝を目前に足踏みしている谷川はまたも敗れました。渡辺―丸山戦は丸山が勝ち、渡辺は挑戦者争いから一歩後退しました。
森内―久保戦は全局の中で、最も早く戦いが始まりました。しかし日付が変わった12時を過ぎても、両者は自陣の駒組に手を戻すなど、一進一退の力のこもった攻防が展開されました。やがて森内が勝ち筋になったと思われた局面で、久保が驚異的な粘りを発揮して、形勢はいつしか混沌としました。そして両者1分将棋の秒読みが1時間ほど続いた1時40分、森内が175手でようやく勝ちました。衛星放送の解説者の島朗九段は「久保さんの生命力の強さには驚きました。森内さんでなければリードを守り切れなかったでしょう」と評し、両者の健闘ぶりを讃えました。
A級順位戦の最終戦の各対局は部屋ごとに仕切って行われ、対局者はほかの対局の結果がわかりません。自分で結果を聞いたり、ほかの人が知らせることもありません。それが不文律になっているのです。森内は終局後、主催紙記者のインタビューで自分が名人戦挑戦者になったことを知りました。一方の久保には、感想戦で結果(久保が残留したこと)を伝えた人はいなかったようです。しかし当人はその場の空気で、だいたいわかるものです。久保の表情は最初こそ硬かったですが、だんだん緩んでいったことが物語っていました。
森内九段は名人戦の舞台に、3年ぶりに登場することになりました。羽生善治名人との7番勝負第1局は、4月7日・8日に東京・目白の「椿山荘」で行われます。
次回は、女流棋士講習会で田丸が女流棋界の歴史を講義。
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コメント
初めてコメントさせて頂きます。よろしくお願い致します。
順位戦とちょっと関係のない話なのですが、いつもNHK杯を観戦していて、感想戦がある放送時の事です。近年は対局者に折角ピンマイクを付けているのに、やっぱり小声でモゴモゴ感想戦をしているので、はっきり言ってピンマイクを付けていなかった昔同様に聞こえません…
連盟の棋士会等で是非議題に挙げて頂き、改善をして頂きたいと思います。
よろしくお願い致します。
投稿: チャンク | 2011年3月 8日 (火) 21時47分