将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2011年1月21日 (金)

大山戦での手法・相振り飛車、棋士の廃業などのコメントへの返事

「田丸八段が大山康晴十五世名人との大一番で、3手目に▲6八玉と大胆な手を指したのを記憶しています」というコメント(12月3日)は《田舎天狗》さん。

大山十五世名人との大一番とは、1990年の棋王戦挑戦者決定戦でしょうか。その将棋は▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲5六歩△8五歩▲5五歩△8六歩▲同歩△同飛▲7八金△8五飛(▲先手が田丸)と進み、私が5筋の位を取る形の相居飛車の戦型となりました。3手目に▲4八銀は、私が振り飛車党の棋士に対してよく用いた手法でした。▲2六歩を省略する意図ですが、じつはもうひとつの意図があり、それは次のコメントで解説します。なお、3手目に▲6八玉も公式戦で指しましたが、大山戦ではありません。

「田丸八段は大山十五世名人と相振り飛車で戦ったことのある、めったにいない棋士のお1人と聞いたことがあります」というコメント(12月24日)は《UT》さん。

大山十五世名人の2000局以上の公式戦の中で、相振り飛車の戦型は確かに稀少だと思います。その1局が、89年の王座戦の大山―田丸戦でした。▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲7八銀△6四歩▲6七銀△6三銀▲6八飛△5四歩▲5六歩△4二銀▲4八玉△5三銀▲3八玉△3二飛(△後手が田丸)と進み、相振り飛車の戦型となりました。

まず△6二銀(先手では▲4八銀)とします。そして三段目に2枚の銀を並べ、相手が飛車を振ったら、同じく飛車を振って相振り飛車に持ち込みます。飛車を早く振ると、相手は居飛車を選ぶ可能性があります。飛車先の歩を保留したり、飛車の横利きを通しておくことによって、飛車を振りやすくするのです。

私はこの変則的な相振り飛車を公式戦で何局か用いましたが、勝率は割りと高かったです。大山戦では<△6三銀△5三銀△7二金△5二金△6二玉>の駒組で玉を守り、以降は飛角桂を軽くさばいて攻め込んで、快勝することができました。振り飛車対策に困っている方、守りよりも攻めを重視したい方に向いています。いちど試してみてください。

「棋士が途中廃業して、まったく違う職業を選んだ例はあったのでしょうか。また、除名になった棋士はいるのでしょうか?」というコメント(1月6日)は《桃哲》さん。

戦後65年間において、現役棋士・引退棋士・死亡棋士を合わせた棋士の総数は約300人になります。その中で、一身上の理由によって将棋連盟を退会して棋士を廃業したのは、わずか数人だけです。世の中では、勤め人が転職した例はいくらでもあります。作家、俳優、音楽家、運動選手などの特殊な業種の人が、まったく違う職業に転じることも珍しくありません。その意味では、将棋棋士は転職がほとんどない稀有な職業のようです。

連盟の規約では、「連盟の名誉を毀損する」「連盟の目的に反する行為をする」「会員(棋士)の資格を利用して不正行為をする」「禁固以上の刑に処せられる」などに該当した棋士は除名の対象となり、棋士総会で会員の4分の3以上の決議によって棋士の資格を失います。ただし、過去にそうした事例はありません。また、今後もそうなってほしくないものです。

次回は、反則を犯した場合の第三者の指摘の是非について。

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コメント

田丸先生は一時期,相振飛車にして玉を飛車の側に囲うという形をよく指されていたように記憶しています。あれはどういった経緯で思いつかれたのでしょうか。

投稿: spinoza05 | 2011年1月21日 (金) 20時08分

田丸先生、不躾な質問に丁寧に答えていただき、ありがとうございました。
相振り飛車に興味を持って調べてゆくうち、本局のことを知ったところでした。相振りを嫌う大山十五世名人がなぜ相振りを受けたのか不思議に思っていたのですが、先生の工夫があったのですね。

今行われている王将戦第二局も相振りになりました。欲を言えばもっと相振りが見たいところです(笑)これからもブログを楽しみに読ませていただきます。寒い時節ですが、お体にお気をつけください。

投稿: UT | 2011年1月21日 (金) 21時18分

田丸先生私のコメントを取り上げていただきありがとうございます。
どうも記憶が混戦していたようで対大山戦は▲4八銀だったのですね。
お詫びして訂正致します。申し訳ありませんでした。

投稿: 田舎天狗 | 2011年1月21日 (金) 23時18分

NHKの将棋の時間や将棋チャンネルの銀河戦などが、もし文字放送だったらいいのにと思うことがあります。
耳が不自由な方もそうですが、感想戦などで、棋士の方が小声すぎて何をおっしゃっているのかわからなくてイライラしてしまうような事も、なくなると思います。
気のきく解説者の方や、矢内さんなどが、「実際の変化を並べて下さい」と促される光景もよく見ますが、普通の視聴者にとっては感想戦はかなり退屈な時間であることが多いと思います。

視聴者の年齢層を考えても、少なくとも文字放送を導入すべきと私は考えています。
また、テロップという手法もあるのですから、本来ならば番組制作者が要所だけでも指し手の流れを画面に表示するべきだと思いますが、先生はどう思われますか?

投稿: 吉澤はじめ | 2011年1月29日 (土) 20時21分

石田流さんは被害妄想が強いようですね。荒らしに噛み付けば過熱し田丸さんのブログに迷惑がかかる可能性があります。何故、そのような事を考えないのですか?荒らしは無視し荒らしを煽るような書き込みは決してしない。ここのブログを読んでいる方は皆さんそれを実践しているんです。

投稿: 権兵 | 2011年1月30日 (日) 14時22分

権兵さん、わたしは荒らしは放置すればエスカレートするから削除すべきだと提案してます。
違う荒らし対策の意見があるならば、あなたも提案すればいい。荒らし対策に向き合わない方が、荒らし対策の提案に対して噛み付いたので驚いただけですよ。

投稿: 石田流 | 2011年1月31日 (月) 10時31分

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