将棋を愛好する作家・渡辺淳一さんの喜寿のお祝いの会
作家・渡辺淳一さんの喜寿(77歳)をお祝いする会が、10月下旬に東京・日比谷「東京会館」で開かれました。渡辺さんと親しい作家、編集者、読者などが集まり、私も出席しました。写真は、渡辺さんと花束を贈呈した作家・村山由佳さん(『天使の卵』などの恋愛小説の名手。7年前に直木賞を受賞)。
渡辺さんは熱心な将棋愛好家です。30年以上前には、自宅に将棋好きの知人たちを呼んで定期的に将棋会を開いていました。私も縁あって、たまに将棋会を訪れました。メンバーの平均棋力は初段ぐらい。水割りウイスキーを飲みながら、和やかな雰囲気で将棋を楽しみました。将棋会の名称は「トン四クラブ」で、四は死の当て字。やたらとトン死をかけたがる、かけられて悲鳴をあげる、といった将棋を指したので付けられたようです。ただメンバーの年齢が上がるにつれて縁起でもないと、後に違う名称に変わりました。
渡辺さんの棋力は二段ぐらい。自ら「愚鈍」の将棋と称しました。奇手やハッタリの類の手は指さず、地道な手を積み重ねて頑張り抜く棋風です。形勢がどんなに悪くなっても、「さあ、どうやって醜くのたうち回って死んでやるか」と言っては、最後まで勝負を捨てません。言い換えれば、絶望的な局面でも楽しめるほど将棋が好きなのです。
1970年代から80年代にかけて中原誠(十六世名人)と米長邦雄(永世棋聖)がタイトル戦で何度も対決していたころ。渡辺さんは両者の戦いについて、「天下を取るには、ぎらぎらしたものよりも、愚鈍なところがなくてはいけないと思う。米長さんが中原さんになかなか勝てない理由はそこにあるのでは…」とよく語りました。ちなみに、数年前にベストセラーになった渡辺さんのエッセー集『鈍感力』には、「鈍感なのは現代を生き抜く強い力であり知恵でもある」という自身の人生哲学が綴られています。
私は若手棋士時代、渡辺さんには何かと励ましてもらいました。順位戦で昇級すると祝賀会を開いてくれ、将棋の単行本を初めて出したときは推薦文を書いてくれました。渡辺さんは今も年に1〜2回、将棋会を開いているそうです。
渡辺さんの作品は、近年は『失楽園』『愛の流刑地』などの恋愛小説が有名です。しかし以前は、札幌医大・整形外科の医師という経験を生かして、医学の分野を題材にした小説を数多く発表し、40年前に『光と影』で直木賞を受賞しました。最近は、定年退職した男性の社会や家庭での疎外感をテーマにした『孤舟』が話題作として売れています。渡辺さんは喜寿のお祝いの会で、次のような挨拶をしました。
「私は母から女難の相があると言われました。さすがにもうないでしょうが、もしあったらボケ老人の視点で書きます。70代になって、60代・50代の年下のことを書けるようになり、かえって題材が広がりました。年を取ったからこそ書ける、というのが自分の財産で、『孤舟』がその例です。中高年の人たちには、ぜひ恋愛を勧めたい。恋愛をすると、体も気持ちも若返ります。素敵な女性を見て、心をときめかすだけでもいいんです」
今春に60歳を迎えた私としては、「年を取ったからこそ書ける」という言葉にとても感じ入りました。「書ける」を何かの「〇〇〇」に充てたいと思いました。
次回は、私と弟子たちが集まった田丸一門会。
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