将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2010年10月19日 (火)

コンピューター将棋の歴史と14年前の棋士たちの見方

コンピューター将棋の歴史は約40年です。当初は、日立やNECに勤める将棋好きの技術者が趣味も兼ねて開発しました。プロ棋戦の棋譜を何局も入力し、駒の損得・手筋・玉の危険度などを元にプログラミングしました。しかし技術者の棋力が低かったり、入力手段が幼稚だったことで、かなりお粗末な代物でした。序盤こそプロ並みの駒組を作りましたが、中盤以降は意味不明の手が続いたり駒を捨てたり、何かの危険を察知して囲いの中の玉が急に出てきたりと、めちゃくちゃな将棋になりました。

1990年代前半に発売されたゲーム機の将棋ソフトは、ある程度は改良されました。それでも1手ごとの考慮時間が長かったり、負けを認識すると無駄な王手を連発するなど、玩具の域を超えていませんでした。ただ購入する側は、いつでも好きなときに指せる、人間相手に負けた悔しさをぶつけられる、などの理由でそれなりに楽しめました。

90年代後半になると、優秀なプログラマーたちが開発してコンピューター将棋の実力は急速に進歩しました。早指しでも悪手をあまり指さず、詰みがある局面では長手順でも一気に詰まします。毎年開催される「コンピュータ将棋選手権」では、「森田将棋」「金沢将棋」「柿木将棋」などの開発者の名前を冠したソフトが活躍し、各ソフトが競い合ったことで実力向上にさらに拍車がかかりました。

1996年版『将棋年鑑』の「棋士名鑑」欄のアンケートに、「コンピューターがプロ棋士を負かす日は?」という設問がありました。主な棋士の回答を否定派と肯定派(条件付きも含めて)に分け、14年前の棋士たちのコンピューター将棋への見方を紹介します。

否定派は、米長邦雄「永遠になし」、加藤一二三「こないでしょう」、大内延介「当分こない」、深浦康市「こない」、淡路仁茂「私が生きている間はない」、中村修「トップは負けないと思う」、村山聖「こない」、阿部隆「こない日を祈っている」、畠山鎮「こない」、佐藤秀司「そういうことになったらプロは要らなくなるので、こないように祈るしかない」、真田圭一「100年は負けない」、勝又清和「否定」、中井広恵「こない」、石橋幸緒「こない」、矢内理絵子「こないと思う」など。

条件付きを含めた肯定派は、羽生善治「2015年」、森内俊之「2010年」、久保利明「来世紀」、中原誠「だいぶ先とは思いますがくるはずです」、内藤国雄「10年以内にくるような気がする」、谷川浩司「私が引退してからの話でしょう」、青野照市「プロの仲間入りはできても、トップは負かせない」、郷田真隆「いつかはくる。ただし人間を超えることはできないと思う」、東和男「七冠王がプログラミングする日」、神吉宏充「5年ぐらい先か。最初に私が負けてやる」、伊藤能「僕くらいのレベルなら近いのではないか」、斎田晴子「10年後」、千葉涼子「50年後」など。

意外にも肯定派の棋士が多かったようです。IBMのスーパーコンピューター『ディープブルー』がチェスのチャンピオンに勝ち越したのは97年で、その年のアンケートだったら肯定派はもっと増えたかもしれません。私はこの設問に無回答で、佐藤康光と清水市代も同様でした。

森内の回答だった2010年の今年、清水女流王将とコンピューター将棋ソフト『あから』が対戦したイベントが10月11日にありました。その話は、次回にて。

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コメント

田丸先生の著作「縁台将棋必勝法」でお世話になった世代の者です(^^)
興味深いお話でたいへん面白かったです。今回の「コンピュータ対女流棋士」は残念な結果に終わりましたが、まだ男性プロトップには及ばないのかな?と思いました。しかし、羽生名人予想の「2015年」辺りがひょっとして・・・という気もしてしまいます。

投稿: てんなん | 2010年10月19日 (火) 11時46分

> 技術者の棋力が低かったり、入力手段が幼稚だったことで、かなりお粗末な代物でした。
強いプログラムを開発するのに開発者の棋力はあまり関係ない。プログラミング能力そのものが重要
まるでプロ棋士が開発すれば史上最強のプログラムが出来るとでもいいたげな文章だが、そうであれば是非実証して欲しい。

投稿: 名無し | 2010年10月20日 (水) 09時27分

羽生さんや森内さんはチェスも強いのでそう思ったのでしょうか。神吉さんのコメントには笑いました。さすがです。(笑)

投稿: ネブラスカ | 2010年10月20日 (水) 12時42分

>>強いプログラムを開発するのに開発者の棋力はあまり関係ない。プログラミング能力そのものが重要

まず、将棋を知らないプログラマーには、開発は無理だと思いますが?

また、この理論で言えば、今いるプログラマーは皆能力の足りないカスって話になるんじゃないですか?

投稿: 永世寄生 | 2010年10月20日 (水) 13時08分

>名無しさん
>永世寄生さん

昔のコンピュータは全幅探索するだけの能力がなかったので、
深く手を探索するためにはソフトの方で有望な手を絞りこんで
いく必要がありました。どれが有望な手なのか、選ばせる論理は
プログラマーが決定していたのです。

そのため、昔、強いと言われたコンピュータソフトはプログラマー自身も
アマ有段者クラスの腕前を持っていたことが珍しくないです。

今はコンピュータも高速でメモリをふんだんに使えるようになり、
全幅探索もできるようになりましたし、どの手が優れているのかは
自動で学習できる仕組みを作り、プロの棋譜を膨大に読ませて、
という言ってしまえばロジックも評価基準も力任せな手法が
取られるように成りました。

これはBonanzaが始めた手法ですが、多くの他ソフトもこれを取り入れてます。

そして、Bonanza作者の保木さん自身は低級者ってのは結構有名ですよね。
今のソフトの強さの背景と言えるのは、プログラマーの棋力に
依存した時代から脱却したことです。

> 意外にも肯定派の棋士が多かったようです。
http://silva.blogzine.jp/blog/2010/03/post_2795.html
大山は「人間が負けるに決まってるじゃないか」
升田は「プロの五段までは行くだろう」
ということなので、いずれは負けるプロが出てくると見ていたわけですね。
すごいのはこれ、1968年頃のコメントだってんですから・・・。

投稿: へっぽこ振り穴党 | 2010年10月20日 (水) 14時07分

>まず、将棋を知らないプログラマーには、開発は無理だと思いますが?
ちゃんとプログラム開発できるだけの能力があれば、将棋のルールを理解するのは簡単。将棋を理解出来ない・指せない人などいない。
しかし、ちゃんと将棋が指せてもプログラミング言語を理解できない・プログラミング出来ない人はいくらでもいる。

> また、この理論で言えば、今いるプログラマーは皆能力の足りないカスって話になるんじゃないですか?
何故そういう理屈になるのかまったくわからない。

強い将棋プログラムを作成するのに必要なのは高いプログラミング能力・知識の方が棋力よりも重要ということを言っているだけ。

投稿: | 2010年10月20日 (水) 15時52分

いつも楽しく拝見させていただいています。
私もコンピュータ将棋の進化に注目している一人です。
現在のプログラムがプロの棋譜をもとに手を考える以上、プロの中堅くらいで棋力は高止まりするのではないかと考えています(むろん、トップ棋士であれがミスをすれば負けるでしょうが)。
ですから、今回紹介されていた青野先生の意見が最も近いといえます。
各先生方の意見に個性が反映されているようで面白いですね。

投稿: UT | 2010年10月21日 (木) 20時27分

田丸先生に質問ですが何故無回答だったのでしょうか、、、
逆に興味がわきますが、、、


竜王戦も始まりました。第三局の北海道は大盤開設見に行く予定です。2年前の竜王戦。自分にとって人生のターニングポイントになるとは、、今にして思えば、、、、

投稿: 深田有一 | 2010年10月22日 (金) 00時30分

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