千日手も生じて大激闘だった王位戦(深浦王位―広瀬六段)第5局
王位戦7番勝負(深浦康市王位―広瀬章人六段)第5局は7月24・25日に行われました。戦型は第1局・第4局と同じく、広瀬の振り飛車穴熊に深浦の居飛車穴熊。1日目から激戦が繰り広げられました。写真の局面(下側の先手が広瀬、上側の後手が深浦)は、深浦が△4八馬から△3八金と打って相手の穴熊玉に迫ったところで、2日目の午前中なのに早くも終盤戦という状況です。
写真の局面は、広瀬が苦しい形勢に思われました。しかし▲3七銀打△4七馬▲3九金と受けて容易に腰を割りません。さらに以後の広瀬の指し手だけを挙げると、▲2六角〜2八金〜1六角〜5九飛〜2八金〜5六角〜3八銀〜4七金〜3八金打〜1七角と、50手ほどの間に右下の自陣エリアに飛角金銀を打ち続けて頑強に受けました。それでも控室の検討では、深浦が勝勢という話でした。しかし深浦に明快な勝ち筋がなかったのです。お互いに金銀を打ち合う同一手順が続き、打開したほうが負けになることから、2日目の19時33分に149手で「千日手」が成立しました。
現行のタイトル戦規定では、千日手が生じた場合は30分後に指し直します。指し直し局の持ち時間は、残り時間(深浦2分・広瀬4分)が少ない深浦を2時間に設定し、増えた1時間58分を広瀬に足します。王位戦は昼食以降は終局まで夕食なしで行われますが、特例なので30分の合間に軽食が用意されました。そして20時10分、指し直し局が始まりました。
指し直し局も広瀬の振り飛車に深浦の居飛車穴熊模様でしたが、広瀬は美濃囲い、深浦は米長玉(▲9八玉)に組みました。この将棋も大激闘が展開され、巧みに攻め込んだ広瀬が120手で勝ちました。終局は26日午前1時20分。当日朝の帰途の事情があったのか、局後の検討は行われなかったそうです。
この結果、広瀬は3勝2敗とリードし、初の王位獲得まであと1勝となりました。次の第6局は今週の9月1日・2日に行われます。
私は、広瀬が攻め切って勝った指し直し局よりも、深浦の寄せをしのいで結果的に千日手に持ち込んだ将棋のほうが印象に残っています。広瀬には「振り穴王子」というニックネームがあります。その名のとおり、歯を食いしばって頑張るというのではなく、淡々と楽しそうに受けているような感じがします。この分ではニックネームの最後の1字が替わって「振り穴王位」となりそうです。
深浦は木村一基八段の挑戦を受けた昨年の王位戦で、3連敗から4連勝して奇跡の逆転防衛を果たしました。そんな粘り腰があるので、結末はともかくとして、第7局までもつれ込むと思います。
次回は、千日手について。
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コメント
千日手指し直し局で持ち時間がプラスされるのはルールなのでしょうか?千日手も一つの戦略と考えて、例え指し直し局が秒読み将棋だとしても持ち時間のプラスはしてほしくない気がします。もちろん秒読み将棋で内容が稚拙になってしまう事もあるとは思うのですが、そういう事も含めて人間同士の勝負だからこそドラマがあると思うのですが。
投稿: ケイ | 2010年8月31日 (火) 18時09分
いつも興味深く拝見させていただいてます
王位戦6局 指し直し局が王位先手でしたので挑戦者先手かと思っていました
森内先生提案の一局完結方式?というのはタイトル戦によって採用されていたりいなかったりというのは、ちらっと聞いたことがあります いまいち良く分からないのでお手数ですが解説していだだけるとうれしいです
投稿: しゃーふ | 2010年9月 1日 (水) 11時47分
広瀬新王位誕生、誠に新鮮で輝くような感じがします。私は深浦八段も応援していますが、今回は挑戦者の「巧さ」が際立ったように思います。
2局続けて千日手は珍しい。力のこもったシリーズでした。
投稿: 五平餅 | 2010年9月 2日 (木) 22時55分