王位戦で「振り穴王子」こと広瀬章人六段が大活躍
今期王位戦7番勝負は、4連覇をめざす深浦康市王位に対して、23歳の新鋭・広瀬章人六段が挑戦しています。広瀬はタイトル戦初登場で、対戦前は「ストレート負けだけはファンの方に申し訳ないのでしないようにします」と控えめに語りました。しかし初陣の第1局で見事に勝ちました。第2局は深浦が勝ち、1勝1敗と互角の戦績です。
広瀬は2005年に四段昇段後、順調に勝利を重ねて7割近い通算勝率を挙げています。今期王位戦では、渡辺明竜王、佐藤康光九段、木村一基八段、松尾歩七段などの上位棋士が多い紅組リーグで4勝1敗で優勝。白組リーグ優勝者の羽生善治名人(王位獲得は通算12期)とのプレーオフに勝って、挑戦権を獲得しました。
広瀬の得意戦法は振り飛車穴熊。そうしたことから「振り穴王子」というニックネームがついています。本人はあまり気に入らないようですが、王位戦で挑戦権を獲得する原動力になりました。紅組リーグでは松尾戦以外の4局が振り飛車穴熊で、次いでプレーオフの羽生戦、第1局・第2局の深浦戦と連用しています。
振り飛車穴熊というと、玉の守りを固めてから豪快に攻め込む戦いを連想させます。ただ現代では居飛車側も穴熊に囲う作戦が多く、単純な攻め合いではなかなか勝てません。私は最近の広瀬将棋を見て、攻防のバランスを保ちながら相手の攻めと自陣の守りの距離感を計るのが優れている、と思いました。渡辺戦、羽生戦、第1局の深浦戦では、中央に馬を据えて相手玉(穴熊)に利かし、上部から攻める形に持ち込みました。このパターンが得意のようです。とくに印象深いのは羽生戦で、相手の攻めを呼び込んでから、馬を切って一気に寄せた手順は見事でした。
広瀬の外見には、天才棋士がかもし出すオーラを感じません。理知的な秀才タイプでもなく、闘志を前面に出す根性タイプでもありません。とらえどころのない茫洋とした強さがあり、さりげない手から強烈な勝負手を放ちます。とても個性的な若手棋士だと思います。
王位戦は今期で51期。昔から若手棋士が王位戦でタイトル戦に初登場することが多く、「初の○段で挑戦」「四段で初の王位獲得」などの記録が出ました。ほかの出来事も含めた過去の例を列記します(棋士の名称、段位、年齢はいずれも当時)。
1966年、大山康晴王位に有吉道夫八段(30歳)が初挑戦、タイトル戦で初の師弟対決が実現。67年、大内延介(25歳)が初の六段で挑戦。69年、西村一義(27歳)が初の五段で挑戦。70年、米長邦雄(27歳)が初挑戦。72年、内藤国雄九段(32歳)が初の王位獲得、12連覇の大山を破る。76年、勝浦修八段(30歳)が初挑戦。83年、高橋道雄(23歳)が五段で初の王位獲得。90年、佐藤康光五段(20歳)が初挑戦。91年、中田宏樹五段(26歳)が初挑戦。92年、郷田真隆(21歳)が四段で初の王位獲得。93年、羽生善治(22歳)が初の王位獲得。96年、深浦康市五段(24歳)が初挑戦。そして今年、広瀬六段が初挑戦。
次回は、羽生善治名人の就位式。
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コメント
最近の将棋界は、男女ともにタイトル戦に初登場の方が活躍するので面白いです。インターネットが発達して、観戦にはとても良い環境になりました。ところで、将棋人口は増えているのでしょうか?
また田丸八段から見て、将来タイトルを取りそうな棋士に共通した素質のようなものありますか?あったら教えてください。具体例を挙げて頂けたら、わかりやすくて嬉しいです。
投稿: ムーミンパパ | 2010年7月31日 (土) 13時50分
今時、〜王子と呼ばれるのは相当イヤでしょうね(笑)
第二局の大盤解説会を少しだけ見学することができました。
深浦王位の3三銀や4三香、広瀬六段の5二角など力のこもった応酬は見ごたえがありました。
両対局者とも私の好きな棋士ではありますが、王子と呼ばれることへの少しの同情の分だけ、挑戦者よりで番勝負をみています。
投稿: 修造 | 2010年8月 1日 (日) 22時15分