名人戦(羽生―三浦)第2局は横歩取りの大乱戦から羽生が連勝
名人戦(羽生善治名人―三浦弘行八段)7番勝負第2局は今週の20・21日に行われ、横歩取りの大乱戦から羽生が勝って連勝しました。この結果、羽生は三浦に対して2003年から12連勝したことになります。
ただ番勝負においては、1局の勝利によって勝負の流れが変わることはよくあります。2年前の竜王戦では挑戦者の羽生に3連敗した渡辺明竜王が、第4局の終盤で開き直って指して一矢を報いると、3連勝して逆転防衛を果たしたことは記憶に新しいです。三浦にとって第3局は正念場で、勝てば勝負の行方はまだわからないと思います。
第1局と第2局の戦型は、先手・後手を入れ替えた形でともに横歩取りでした。居飛車党と振り飛車党の対戦では、両者の戦型が入れ替わることはめったにありません。しかし居飛車党同士の対戦ではよくあります。深い研究と実戦経験が生かされる横歩取り、角換わり腰掛け銀の戦型はその傾向が強く、互いの新研究をぶっつけ合うように用います。
研究家の三浦は名人戦の挑戦者になると、1日10時間の研究を12時間に増やしたそうです。とくに横歩取りの戦型は主要テーマで、自信をもって臨んだことでしょう。しかし、第1局は終盤まで優劣不明の大接戦でしたが惜敗し、第2局は中盤で早くも苦しくなって完敗しました。得意の横歩取りでの連敗は痛手で、プロ野球チームの楽天が岩隈、田中を先発させて1勝もできなかったようなものです。
ところで第2局・2日目の戦いを報じた朝日新聞夕刊で、「三浦挑戦者 苦戦か」との見出しはきわめて異例でした。新聞のタイトル戦速報記事は、中立を守ることと対局者に配慮して、通常は形勢の善し悪しについて書きません。一方が優勢でも、「一気に決戦へ」「攻勢に出る」「懸命に立て直す」などと、盤上の戦いを表現してぼかすものです。まあ、対局者が2日目に夕刊を見ることはないでしょうが…。
三浦は初めての2日制対局に備えて、仲間との練習対局で本番さながらに「封じ手」の体験をしました。第1局では羽生が封じ手番でした。第2局では封じ手時刻の直前に三浦の手番でした。普通はそのまま考えて封じ手をするところですが、三浦はわずか4分で指しました。研究どおりの展開なので指したのか、慣れない封じ手をしたくなかったのかは不明です。
名人戦第3局は連休明けの5月6日・7日に千葉県野田市で行われます。この対局では全国各地で大盤解説会が開かれ、私は九州・熊本に行って解説します。個人的には、名人戦を盛り上げるために三浦に勝ってほしいと思っています。
研究不熱心なベテラン棋士の私としては、最先端の横歩取りの戦いを解説するのは大変なので、横歩取り以外の戦型を望んでいます。しかし第1局のように▲2六歩△3四歩▲7六歩△8四歩の手順で始まれば、3局連続の横歩取りは十分に可能性があります。後手番の羽生に戦型の選択権があるところが、現代将棋の一面を表しています。
次回は、過去の名人戦のエピソード。
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